Business & Economic Review 2011年4月号
【特集 成長するアジアと金融】
インドネシアの中小零細企業金融の現状と課題
2011年03月25日 藤田哲雄
要約
- インドネシアは世界経済危機後にアジア諸国の多くがマイナス成長に陥るなか、堅調な消費を背景に、経済成長は比較的好調であった。新興国がこのような消費をはじめとする内需主導型の成長に移行し、その経済発展が持続可能なものになるためには、企業の成長、雇用環境の改善、消費の拡大、貯蓄の拡大、企業投資による成長、という正の循環が生じることが望ましい。
- インドネシアの企業構造は、大企業、中企業、小企業、零細企業の四つに分けられる。大企業は44%ものGDPを生み出してはいるが、雇用の3%しか担っていない。内需拡大モデルが上手く作用するためには、雇用の9割近くを担っている零細企業に焦点を当て、零細企業が発展するうえでの課題を発見し、克服していくことが有益であると考えられる。
- 金融の側面から零細中小企業についてみると、好調な経済成長を映じて中企業、小企業向けの金融は比較的順調に推移しているものの、零細企業向けについては、全体として比較すれば出遅れている感があり、成長の果実が零細企業層にまで十分行き渡っていない可能性がある。これにより、企業規模間の格差の拡大、地域間の格差拡大の可能性も懸念される。
- インドネシアには銀行取引の経験がない零細企業がまだまだ多く、これらの潜在的な顧客に銀行を上手に利用してもらい、零細企業から発展して小企業へと成長していく事例が増加することが期待される。そのためには、何よりもまず銀行取引をしていない零細企業を開拓する必要がある。政府もそれを後押しするプログラムを導入してはいるが、参加する銀行のインセンティブが弱いためか、これまでのところ、大きな成果を挙げるまでには至っていない。
- 公的書類や情報のデータベースが存在しない零細企業を対象とした与信業務は、長年の経験に裏打ちされた独特のノウハウを持つ銀行が強みを有している。また、多くの拠点と人手を要し、オーバーヘッドコストが通常の銀行業務とは相当異なるものの、収益性、今後の成長性、安定性という点で魅力ある業務である。外資系金融機関にとっては、難しい分野ではあるが、現地中堅金融機関との提携等から始めて、同業務のノウハウを吸収していくことが参入の第一歩となろう。