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Business & Economic Review 2011年3月号

【STUDIES】
「無借金企業」の経営分析-財務安定性と成長性のトレードオフを考える

2011年02月25日 新美一正


要約

  1. 1990年代半ば以降のわが国企業金融市場の著しい特徴の一つは、継続的な企業の負債圧縮行動である。長引く不況の下で、倒産回避型の財務リストラを通じて、負債依存度を下げ、財務的な安定性を向上させることが、多くの企業にとって至上命題になっていたことがわかる。だが、平均的な負債比率が低下する一方、平均値周りの標準偏差はむしろ増大するなど、見落とされがちな事実として、負債比率に関する企業間格差が拡大しつつある傾向がある。


  2. 本稿では、有利子負債残高を持たない「完全無借金企業」、手元資金残高が有利子負債残高を上回る「実質無借金企業」、そしてこれらに属さない「有借金企業」の三つのカテゴリーを設定し、カテゴリー別に実際の財務データに基づく実態分析を行った。ちなみに、前2者を包含した広義無借金企業数は、21世紀に入って趨勢的に増加しており、ピークの2008年3月期には分析対象とした3月決算上場企業全体の4割近くに達している。これが先に指摘した、資本構成における企業間格差拡大の大きな要因の一つになっている。


  3. 平均的な無借金企業は、有借金企業と比較して規模や収益性に若干優れ、また、当然ながら財務安定性の点では明らかに相対的優位にある。半面、無借金企業の潤沢な手元資金は資金運用利回りの低下を招いており、この点はROAの低下要因となっている。また、売上高と設備投資支出額との比率で定義される設備投資強度に関しては、無借金企業の平均値は有借金企業を有意に下回っていた。キャッシュフロー循環パターンによる分析においても、無借金企業が投資を抑制し、残ったフリー・キャッシュフローを手元資金に温存する傾向が看取されている。潤沢に積み上げられた手元資金を投資に充当させるためには、法人税減税やデフレ脱却などの経済政策面からの支援が不可欠な状況にある。


  4. 投資家(株式市場)の評価に関して、無借金企業と有借金企業の間で違いがあるかどうかを、株主価値測定モデルの推定結果に基づいて考察したところ、有借金企業におけるモデルの説明力は、無借金企業との比較で、一貫して、低くなっていることがわかった。これは、有借金企業の株価形成に関して、投資家が、本源的価値以外の情報に基づいて投資行動を行っている可能性を示唆する。
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