Business & Economic Review 2011年2月号
【特集 グリーン・グロース実現への道】
生物多様性を巡る次世代の世界作り
2011年01月25日 古賀啓一
要約
- 新しい環境問題のテーマとして認知されようとしている「生物多様性」は、土壌汚染や気候変動といった既存の環境問題と深く関係している。既存の環境問題の取り組みが進められているにもかかわらず生物多様性が減少を続けているのは、既存の取り組みが失敗しつつある、あるいは、これまでの環境問題では認識できていない問題が存在するという二つの可能性が存在する。
- 生物多様性条約の節目として設定された2010年、現在の生物多様性の減少速度を2010年までに顕著に低下させるとした目標の未達をCOP10において正式に認め、これに対応するために次の短期・中長期目標、および、これまでの締約国会議のなかで合意に至ることのできなかったABSに関する議定書について採択に至った。わが国はCOP10議長国としての責務をある程度果たしたといえる。
- これまでの締約国会議の議論のなかで、生物多様性減少の主要因が生息地の破壊であることが明らかにされてきた。COP10での合意は生物多様性の数値化に向けた方向性がより明確化されたものといえ、制度作り、ビジネス創出の動きが加速しよう。わが国においても生息地保全に向けたアクションを加速させる必要がある。
- 生物多様性保全に向けた取り組みは国内外で企業、市民レベルの取り組みが多数存在する一方、取り組みの拡大や保全効果の最大化のためには、一貫した具体的な方針の不在がボトルネックとなっている。解決策として、①生息地保全のためには総量としての土地利用改変に制限が必要であるという認識の醸成、②生物多様性に関する科学的判断・見解を示すことが可能な機関の確立、③②の知見を加えた生物多様性国家戦略、生物多様性地域先戦略の具体化というステップが考えられる。
- 生物多様性の保全は新しい制度作りやビジネス創出を伴うものであり、気候変動をめぐるビジネスの広がりとある意味で同様の動きをみせつつある。わが国は高い生物多様性を保ちながら発展を遂げてきたことから海外に先んじた技術の蓄積があり、条約を牽引する立場にあることが持続可能性の面でもビジネス面でも有利に働いている。