Business & Economic Review 2011年2月号
【特集 グリーン・グロース実現への道】
CSRの実効性と企業不祥事-真にサステナブルな企業を見分ける視点
2011年01月25日 小崎亜依子、竹林正人
要約
- 「CSR経営元年」と呼ばれる2003年以降、企業のCSRの取り組み、情報開示はかなり進んできた。その一方で、企業体質そのものが問われるような不祥事が発生している。あるべきCSRの姿とは何か、「よい企業」とは何かが改めて問われている。
- CSRとは局所的な取り組みではなく、経営理念である。具体的には、CSRは「自社のビジネスと関係する環境・社会問題を、利害関係者との密接な対話に基づき特定し、自社の責任として改善していこうとする経営理念」と定義できる。
- CSRは、「①企業経営戦略・実務へのCSR理念の統合」および取り組みの土台となる「②コーポレートガバナンスの機能性」が両立してはじめて、理念と現場での取り組みが有機的に作用し、実効性をもつ。①のみで②が欠如していれば、現場に過度な負荷をかけることになり、最悪の場合には不祥事の発生に帰結する可能性もある。CSRの実効性を評価するうえでは、これら二つの視点が重要となる。
- ①については、企業が自ら発信するCSR報告書やその他の公開情報によってその進展を測ることが可能である。一方、②については、企業が自ら発信する情報のみでは、その機能性を評価することは困難である。コーポレートガバナンスが機能していない企業からは、自社にとって利益とならない情報がそもそも発信されないというバイアスが存在するからである。したがってこの②の評価においては、企業自らが発信する情報に加えて、企業が引き起こした不祥事などに関する公開情報を拾い、客観的情報に基づいた評価を行なうことが重要となる。
- 企業不祥事を分析するには、その「深度と広がり」の把握が重要な視点となる。深度は企業不祥事の性質を問う視点であり、広がりとは不利益を及ぼす対象者によって「企業不祥事」を整理する視点である。
- CSRの考え方を企業理念や実務に統合することにより、ステークホルダー間の“社会的に公正”な利害調整をはかりながら事業を遂行していくことが可能になる。そうした行動がステークホルダーからの企業への信頼を醸成することになり、それが最終的には企業価値の向上につながろう。「よい企業」かどうかを見極めるうえで、企業不祥事情報は極めて有効であると考える。