オピニオン
議論よりも実践
2010年10月13日 赤石和幸
平成22年6月18日に“新成長戦略 「元気な日本」復活のシナリオ”が閣議決定されました。新成長戦略では、「環境・エネルギー」と「アジア経済」が、それぞれ戦略分野の一つとして位置づけられています。日本の強みが生かせる環境・エネルギー技術をもって、アジア市場でのポジションを確保していくことは、我が国の成長戦略にとって重要な意味を持つと言えます。
アジア市場で注目されるのは、中国やインドを中心に立ち上がっている環境都市(エコシティー)開発です。アジアでは年間で約1000万人規模の都市部への人口流入があるため、受け皿となる居住拠点や工業団地などの整備に迫られています。一方で、都市が持続的に発展するためには、エネルギーや交通、水といった基礎インフラの環境負荷を最小にする必要があるのです。新しく生まれる都市は環境都市である必要があり、その整備には最新の環境技術が必要となります。開発スピードも目覚しく、例えば、中国では政治的な支援や豊富な資金を背景とした都市計画が次々と発表され、その数は既に150地域を超えていると言われます。
環境都市の市場には世界的な企業も注目しています。米国のIBMやGE、ドイツのSiemens、フランスのVeolia、さらに韓国やシンガポール系企業などが、エネルギー、交通、水などのマネジメントといったインフラ受注に向けて動き始めています。日本も経済産業省や国土交通省を中心とした協議会が組成されています。しかし、現状では多くの企業が業界の動向を様子見し、国内の省庁や企業間での情報戦が繰り返しているように思えます。国内で議論をしているなか、世界では受注合戦が繰り広げられているのです。日本が重い腰を上げて立ち上がろうとした時には、既に時遅しということになるかもしれません。
中国では、“走りながら創る”という言葉を良く聞きます。まず議論より実践なのではないでしょうか。日本総研でも、今年度より民間企業主体のI-STEPというコンソーシアムを立ち上げ、環境都市の実現に向けてのインキュベーション活動を展開しています。世界的な企業に伍するためには、企業や省庁の垣根を越え、既存のビジネスモデルを一旦忘れ、企業や人それぞれ何が強みとして発揮できるか考え、行動に移してみることが必要なのではないでしょうか。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。