Business & Economic Review 2010年7月号
【特集 京都議定書削減目標と環境ビジネス】
パーソナルモビリティが拓く交通の理想像
2010年06月25日 創発戦略センター 研究員 宮内洋宜
要約
- 交通が経済発展に果たす役割は大きい。とくに自動車の普及は移動や輸送の利便性を高め、人々に移動の自由を与えた。ところが自動車による移動の自由は、古くは大気汚染や交通事故、最近では地球温暖化問題や石油資源枯渇の可能性、によって脅かされるものである。より自由な人の移動を担うパーソナルモビリティが必要になっていると考えられる。
- 自転車や二輪車、ミニカーなど既存の車両のなかにもパーソナルモビリティの候補は存在する。いずれも技術的な限界や法制度上の制約によって一長一短があるものの、電動化を中心とした技術革新によってよりパーソナルモビリティにふさわしい車両が開発される可能性は高い。
- パーソナルモビリティが普及することによって日本が抱える様々な課題を解決することができる。電動のパーソナルモビリティと公共交通機関が補完関係を構築し、自動車利用からの転換を促せば運輸部門からの温室効果ガス排出量を減らし地球温暖化問題の解決に寄与することとなる。また、人の外出によって交流が促され経済活動が盛んになることで、活力を失いがちな地域コミュニティの再生が可能となる。さらに、パーソナルモビリティの開発、製造および関連するサービス市場の広がりは、産業・雇用の創出につながりわが国の成長戦略に資するものとなる。
- パーソナルモビリティの普及を考えるにあたって、技術革新のスピードに追いついていない既存の法制度が障壁となっている。従来のカテゴリーに分類できないパーソナルモビリティを位置付ける制度の整理が必要となる。インフラ側の対応も重要であり、自動車とも歩行者とも速度域が異なることが予想されるパーソナルモビリティには専用レーンの整備が望ましい。必要十分な保管スペースの確保も考慮しなければならない。このような制度的課題を解決することで、パーソナルモビリティの普及を目指すべきである。