オピニオン
改正法で注目される原位置浄化
2010年07月05日 西村実
米国では1980年に汚染責任者に土壌汚染浄化を義務づけるスーパーファンド法が施行された。当初は有効な対策技術がなく汚染土壌の掘削除去が主流であったが、掘削除去の高額な処理費用が土壌汚染対策の推進を阻害すると考えた政府は、経済性の高い革新的な浄化技術の開発を支援し始めた。中核となったのが汚染土壌の場外搬出を伴わない原位置浄化技術である。近年は汚染源対策の65%程度で原位置浄化が適用されるまでになった。
わが国では2003年にようやく土壌汚染対策法が施行された。米国の経験に学ぶならば、土壌汚染対策の本命は原位置浄化であるが、実際の対策では不動産開発と絡めた掘削除去が約8割を占め、さまざまな問題が顕在化してきた。
こうした問題を踏まえて改正土壌汚染対策法が本年4月に施行された。改正法では掘削除去からより経済性が高く環境負荷の低い原位置浄化へのシフトを誘導している。米国の現況を鑑みるとわが国でも土壌浄化工事の半数以上は原位置浄化に置き換わる余地があると考えられる。
その一方で、原位置浄化の普及を図るためには、解決すべき課題がある。第一は、浄化の確実性をいかに担保するかである。清浄土と完全に入れ替える掘削除去と異なり、浄化の確実性を担保するための高度な品質管理手法やモニタリング手法の開発が必要である。米国では土中にセンサープローブを打ち込み、短時間で多地点からデータを集めて汚染分布状況を3次元的に把握できるダイレクトセンシングの利用が進んでいる。第二は、リスクベースで土壌汚染を管理する考え方の普及・啓発である。原位置浄化の有力な工法の一つに土中の微生物を活用した経済性の高い手法があるが、浄化完了までの期間が長いという特徴がある。場合によっては数年間、汚染と付き合う必要があり、汚染地を有効活用するうえでリスクベースでの管理と利害関係間の合意形成が不可欠となる。
土壌汚染の次なる課題として土地本来の利用価値が損なわれているブラウンフィールドの解消があがっているが、ここでも原位置浄化とリスクベースの考え方が解決の鍵として期待される。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。