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Business & Economic Review 2010年6月号

【REPORT】
地方自治体の歳出構造変化-歳出規模の抑制から歳出の質の向上へ向けて

2010年05月25日 横田朝行


要約

  1. 地方財政の歳出合計(都道府県と市町村の純計)は、1990年度の78兆4,732億円から2007年度の89兆1,476億円へ10兆6,714億円(13.4%)増加した。内訳を見ると、公債費、扶助費、繰出金がほぼ2倍になる一方、普通建設事業費や積立金が半減するなど、歳出構造に大きな変化が生じている。


  2. 投資的経費は90年度から93年度にかけて急増したが、財政の急激な悪化により、97年度以降減少した。普通建設事業の実施に際して、事業費に対する建設地方債の充当率を高める手法が多用されたため、普通建設事業の増加と共に地方債の充当率が急上昇し、後年度に、義務的経費である公債費の増加を招くことになった。


  3. 義務的経費は全体として増加している。個別に見ると、人件費は事務事業の見直し、定数削減の進捗等により99年度をピークに減少している。扶助費は2000年度の介護保険制度の実施に伴い老人福祉費が減少したが、生活保護費と児童福祉費が大きく伸びており、合計では増加が続いている。公債費は、90年代前半の地方債の大量発行の影響で、2000年代に入り歳出額が高止まりしている。その他の経費は、自治体業務の外部委託の推進による人件費から物件費、補助費への振り変わりや、介護保険制度の実施による扶助費から繰出金への費目間の移動等、義務的経費化が生じている。


  4. 90年代は景気対策としての公共投資の増加や高齢化社会や少子化対応のための福祉社会基盤作り等、地方歳出の変動の背後に、国の政策の大きな影響が見て取れる。地方歳出の大枠は地方財政計画により方向づけられており、2002年度以降、地方財政計画は人件費と投資的経費の削減を主な要因として圧縮されている。


  5. 地方財政計画の圧縮だけで財源不足を安定的に解消できる状態にするのは困難である。地方財政計画における収支不足が常態化していることは、歳入を歳出にあわせて決定することができなかったからであり、税負担との比較考量によって歳出規模が決定されるようにすべきである。


  6. 公共投資が縮小し、社会福祉が重視される社会に対応するには、歳出の質の向上に向けた取り組みが必要である。国と地方の役割分担を明確にして、地方自治体の事務の自由度を上げ住民ニーズに適った公共サービスを提供し将来に対する安心感を与えることが、国民が進んで負担増を受ける環境になるための条件となろう。
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