オピニオン
ボーダレス社会における食料需給体制の構築
2010年05月11日 田嶋亨基
ドイツのニュルンベルグで開催されたBioFach(ビオファ)2010を2月末に訪れました。来場者約4万7千人、展示者数約3000件を誇る、世界最大のオーガニックフードの国際展示・商談会です。
途上国を中心とした急激な人口増加に伴う世界的な食料需給のひっ迫と、農薬や化学肥料の過剰使用による耕作可能な耕地面積の減少から、持続可能な食料供給モデルである有機農業の重要性が世界的なホットトピックとなっており、FAO(国連食糧農業機関)からは多数、有機農業や環境保全型農業関連の報告書が出され、また今年名古屋で開催される生物多様性条約COP10のテーマの一つにも取り上げられています。
ニュルンベルグのBioFachでは、欧州開催ということもあり、展示ブースの半数をドイツ、フランス、イギリス等の欧州各国が占めていましたが、一方で中国や東南アジア諸国も国単位でオーガニックの農産物や加工食品を展示PRしていました。これに対して日本からの出展は、BioFach Japanが9月に開催されることもさりながら、昨年12月の日本総研シンポジウムでパネリストにお招きした金沢大地の井村氏による有機大豆、麦、日本酒等のブース1件のみであり、グローバルな視野が日本農業に欠落している現状を改めて目の当たりにしました。
全ての農産物に占める有機農産物の割合は、欧米の約2%に対し、日本は約0.17%と大きな開きがあります。有機農産物の主な購買理由も、欧米では「環境性」ですが日本は「安全・安心」と様相が異なっています。食料に対する消費者サイドにおける社会的問題への関心やアドボカシーも、日本は欧米に遅れをとっていると言えるでしょう。イギリス最大の有機農業のアドボカシーおよび認証機関であるSoil Associationでは、約20年の歳月を経て、国内農業者への有機栽培技術の普及と国民への消費普及啓発事業につき、民間企業として自走できる体制を整えています。欧州ではこのような認証団体の乱立時期を経て、現在は国境を越えた有機認証の統一規格を確立していますが、他方日本では、認証団体が未だ乱立傾向にあります。
日本国内では2020年には多くの生産者が高齢化により離農すると推測され、また中長期的にも国際的な食料需給のひっ迫は避けられません。未来の食料需給体制を整えるため、グローバルな栽培規格や品質管理基準との汎用性を高めるとともに、サプライチェーンと消費者の協働が求められています。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。