Business & Economic Review 2010年5月号
【特集 存在感を増す新興国経済】
新興国への依存度を高める韓国
2010年04月23日 向山英彦
要約
- 2008年9月のリーマン・ショックを契機に悪化した世界経済は、各国の景気対策に支えられて回復に転じた。回復の牽引役が中国を初めとする新興国であること、長期的にも中間層の増加を背景に需要の拡大が期待できることなどにより、新興国に対する関心が以前にも増して高まっている。
- 新興国の世界経済におけるプレゼンスの高まりは、韓国の輸出にも表れている。1990年以降の輸出の地域別構成をみると、欧米のシェアが趨勢的に低下した一方、アジアを含むそれ以外のシェアが上昇した。近年に限れば、アジアのシェアはほとんど変化していないのに対して、中東、中南米などの地域のシェアが上昇している。
- 輸出の地域別構成を変化させる一因に、韓国企業による海外生産の動きがある。韓国の対外直接投資に占めるアメリカのシェアは90年に36.8%であったが、趨勢的に低下傾向にある。他方、アジア(とくに中国)のシェアが上昇し、2005年は58.7%となった。近年は対中投資が減少したこともあり、投資先がやや分散化する傾向にある。
- 韓国経済が新興国への依存度を高めている背景に、韓国企業による積極的な市場開拓がある。2000年代に消費が低迷したこと、少子高齢化の進展により今後国内市場の縮小が見込まれること、新興国の成長が加速し新たなビジネスチャンスが生まれたことなどにより、企業のグローバル志向が一段と強まったと考えられる。
- 現代自動車は97年トルコ、98年インド、2002年に中国で現地生産を開始した。中国とインドでの生産拡大に加え、アメリカでの現地生産が2005年に始まったため、海外生産は2000年代後半に急拡大した。その後2008年にインドと中国の第2工場、2009年にチェコの工場が稼動し、近い将来ロシアとブラジルで現地生産が開始される計画である。
現地生産の拡大に伴い輸出は頭打ちになりつつあるが、現地生産が開始されていない中南米と中東・アフリカ向けは増加している。
- 韓国政府もFTA(自由貿易協定)網を拡大させることを通じて、企業のグローバルな事業展開を後押ししている。輸出依存度が高い同国にとって、他国に先行してFTA網を築くことにより、①通商面での優位性確保、②企業のグローバルな事業展開の後押し、③これらを通じた国際物流や金融機能の強化などが期待できるからである。
経済のグローバル化が進む一方、国内の雇用機会創出という課題は残されており、李明博政権にとって今後の大きな課題の一つとなっている。