Business & Economic Review 2010年3月号
【特集1 農業を核とする地域再生のビジョン】
地域が主導する食・農システムの構想
2010年02月25日 大澤信一
要約
- わが国農業政策の基本は、大規模農家育成に軸足を置く「経営所得安定対策」から、中小零細農家を含めて支援を行う「戸別所得保障制度」へと大転換期を迎えている。本稿では、この大変革期にあって、農を核とする地域再生のために、食と農のシステムをどのように構想するかについて検討する。
- 検討の前提として二つの視点を確認する。第1は「食と農」を取り巻く価値体系が大きく変化しつつある点である。具体的には、「食料の有限性」、「農業の多面的価値」、「食の個性が価値を持つビジネスモデル」等が重視され始めている。第2は、農業再生のためには、生産だけでなく「生産~流通~需要創造」の一貫システムの改革が必要な点である。最近の成功直売所はこれら二つの視点を踏まえており、そこに日本農業再生の萌芽が見られる。
- わが国の農業は、多様な地域農業の集合体であり、具体的には北海道、新潟・東北、関東、九州という四つがその核を形成する。
北海道の農業産出金額は9,809億円(2007年、全国の約12%を占める)、夏期を中心とする日本の主要な食材供給基地である。寒冷地・高冷地型農業で専業農家の比率が高く(52%)、平均経営面積は20haを超え、EU(平均15.8ha)を超える大規模農業を展開している。産出金額では酪農、畑作、野菜の比率が高い。
新潟・東北の産出金額は1兆6,171億円(同、全国の約19%)、春期から秋期にかけての主たる食材供給基地である。産出金額に占める米の割合は42%で、全国平均の約23%と比較すると非常に高い。特に秋田県、新潟県は6割を超える。
関東の産出金額は1兆6,042億円(同、全国の約19%)、日本最大の農産物市場である首都圏への主たる食材供給基地である。とくに野菜の産出金額が多く、千葉・茨城県で全国産出金額の15%強を占めている。また、日本で栽培されるほとんどの農作物が栽培可能である。
九州の農業産出金額は1兆6,255億円(同、全国の約19%)、秋期から春期にかけての食材と、畜産物の主たる供給基地である。農業産出金額の約50%を畜産が占める。特に鹿児島県(農業産出金額約4,050億円)、宮崎県(同約3,080億円)、熊本県(同約3,050億円)の南九州3県は産出金額が多い。 - 日本の農業政策は1999年に制定された「食料・農業・農村基本法」によって、法の視野が広がり、5年ごとの基本計画見直しなど改善も見られる。しかし、いまだに縦割り、生産偏重、農業の地域差に対応できない等の欠点を抱えている。そこで本稿では以下2点の提案を行った。
第1は、大きな可能性を持つ直売所流通を、現在の農産物流通全体の5%前後から2割程度に拡大することである。これは「生産~流通~需要創造」の一気通貫の改革のトリガーとなろう。
第2は、地方分権を前提に、地域ごとの「食料・農業・農村基本法」を制定することである。これにより、日本農業を構成する地域農業がその個性を伸ばす可能性が広がるであろう。