Business & Economic Review 1995年09月号
【戦後50年特集 論文】
戦後のわが国経済システム-理論化とその変革可能性
1995年08月25日 新美一正
要約
戦後のわが国経済システムの特徴は、1.経済資源の中央集中、2.市場メカニズムの排除、3.共同体組織によるリスク吸収、の3点に集約できる。アメリカ型の自由な経済活動と市場メカニズムを前面に押し立てたシステムとは、一線を画す経済システムといえる。
こうした日本型経済システムに対する評価は、1.高度経済成長期までの「後進国観に基づく批判」期、2.80年代以降の「奇跡の経済成長を背景とした礼賛」期、の2つの時期を経て、今やその経済的非効率性を理由に、再び批判的な論調が主流を占めつつある。いわゆる「1940年体制批判」はその代表的存在であろう。
しかし、経済的非合理性のみに立脚した経済システム批判は、実のところ、その時点における景気実勢の影響と無縁ではあり得ない。一国の経済システムを正しく理解するためには、歴史的視点と論理的視点の双方からの総合的な分析が必要であり、これらを欠く批判が、かつてのマルクス史観に強く影響された「日本後進国論」や「社会革命論」と同様に、現体制打倒のための単なるプロバガンダに堕してしまうことは容易に想像されるところであろう。
以上の問題意識に基づいて本稿では、戦後のわが国経済システムの生成プロセスを「協調のゲーム理論」を用いて経済理論的に把握することを試みた。また、この分析に基づいて、現行経済システムの安定性や変革可能性に関しても考察を加えた。
本稿の分析結果は以下の3点に集約されよう。
●わが国の経済システムが諸外国と比べ独特なものであるのは、戦時期に高圧的な経済システム改革が強行されたためである。
●いったん、社会の大勢として定着した経済システムの移行は困難であるが、そのことは現行システムが盤石であることを意味しない。むしろ、システム全体を安定的なものとしてきたサブ・システム相互間の「補完性」が、現行システムを一挙に崩壊に導く可能性すらある。
●社会的混乱を避けるためにも、経済システム移行は「社会全体の協調行動」として推進されなければならない。
その実現のための必要条件として、
●望ましい経済システム像の提示と国民的合意の形成、
●民間主導による社会全体の協調活動の推進、
●変革阻害要因を除去するための公的規制緩和・地方分権の推進、
の3点が指摘できる。