Business & Economic Review 1995年09月号
【戦後50年特集 論文】
新産業創出に向けた産業政策の展望
1995年08月25日 事業企画部 井熊均、事業企画部 丸尾聡
要約
わが国では、これまで官民連携の下、大企業中心の産業政策が取られてきた。こうした政策は、わが国の経済的な発展の基礎を築いた半面、大都市への頭脳労働者の集中、中央と地方の垂直的な連携を生み出すこととなった。地方に対しても企業誘致による地域経済の成長をもたらしたが、近年の経済情勢の変化により地方が企業サイドから海外を同じ基準で扱われるようになると、むしろ中央との格差拡大、地方経済の停滞をもたらすようになった。最近になってリサーチコアのような研究開発機能を地方に立地させるための政策もとられるようになったが、企業誘致という基本的なスキームは変わっておらず、こうした情勢変化による問題を解決していない。また、ベンチャー企業の育成を目指した施策も試みられたが、必ずしも大きな成果を上げていない。それは、ベンチャー企業を育成するための孵化装置のみを整備し、ベンチャー企業の立ち上がりを受け身に捉えたことにある。既存の産業構造が長く続いたわが国でベンチャー企業を育成していくためには、こうした孵化装置にくわえて、戦略的な産業や事業の卵とそれが育成される市場開発を同時に進めるような施策、産業インキュベーション政策、が必要である。
産業インキュベーション政策は、産業構造がシーズ型からマーケットのニーズを重視した形態に変わることに対応した政策である。こらまで個別企業ベースでの多角化戦略や異業種交流が、シーズ型の産業構造の理念から脱しないが故に必ずしもきたいされた成果を上げてこなかったのに対し、産業インキュベーション活動は、業種を越えた戦略提携を軸としたニーズ型産業構造対応の事業形態を生み出す。
産業インキュベーション活動を地域の産業政策として適用するためには、活動の中心となる地域産業インキュベーターを創設することと地域の産業インキュベーションシステムを構築することが必要である。地域産業インキュベーターの構築に関しては、大学を中心とした米国型の形態ではなく、わが国の産業構造を活かしたビジネスの現場のノウハウを有する団体を中心とした組織形態を構築する必要がある。また、地域の産業インキュベーションシステムの構築に関しては、活動の戦略的橋頭堡である地域産業コンソーシアムの創設、先進的インキュベーターとの連携によるノウハウ導入、他の産業インキュベーション機構との協調体制の確立、等が必要となる。