Business & Economic Review 1995年09月号
【戦後50年特集 論文】
教育行政における地方主権の早期確立を-「偏差値教育」後の新しい教育システムの構築に向けて
1995年08月25日 総合戦略研究部 三橋浩志
要約
戦後50年、欧米のキャッチアップを目指した社会発展の成功は、学校教育において均質で高質な人材が育成され社会に供給されたことが大きな要因であった。具体的には、子供の個性や独創性を重視した終戦後の「問題解決型学習」を昭和33年版学習指導要領から知識詰め込み型の教育へと転換した点、科学技術教育の充実(例:理科教育振興法、産業教育振興法)により産業界にとって「即戦力」の人材を社会に大量供給することに成功した点、また、高学歴人材が大量供給されることで人材が均質化し、「会社人間」化を助長することで「企業内教育」が効率的に行われた点等が挙げられる。さらに、教科書検定や、地方自治体における教育長の人事権の制約等、国家による教育の一元管理が確立し、全国において均質で高質の教育が安定的に提供された点も重要な要因であった。しかし、戦後の発展を支えた従来型の教育システムは、「偏差値教育」に代表される過熱した受験競争により、子供達の個性や独創性の育成を阻んでいる。
このように、わが国の教育制度は制度疲労を来しつつあり、新たな教育システムの提示が必要とされている。教育改革の検討に際しては、「教育の機会均等=教育の平等」を推し進めるほど社会的な不平等が拡大するという事実を踏まえた議論が必要である。また、「飛び級」等の個人の能力を最大限引き出す教育は、「誰でも頑張れば100点を取れる」という“神話"のもと戦後教育界では差別的教育としてタブー視されてきたことが、結果として学歴社会の再生産を助長しているという事実を踏まえた議論も必要である。このように、教育問題を教育論のみで議論することは危険である。
そこで、教育制度改革の方向性として個性・独創性の育成を掲げ、具現化には教育の責任体制の明確化と、文化的背景に基づいた主観的評価から「落ちこぼれ」た子どもに「逃げ道」が用意された複線型教育制度の導入が重要であることを提案した。
さらに、個性的・独創的教育の推進が社会階層の固定化・再生産という地域問題を生み出すことから、各地方自治体が社会・産業構造等の明確なビジョンを立案し、ビジョンを踏まえた教育を実施することが必要となる。そのためには、地方財政の確立とともに、国庫負担や補助のワク組みを見直し、さらに、地方自治体の教育行政の責任者である都道府県教育長に対する文部省承認制度を廃止することで、教育行政の地方主権を早期に確立することが必要不可欠である。
一方、教育行政の地方主権を支えるには、学校運営そのものへの市民参加を促進するしくみ、いわゆる学校・家庭・産業等の関係者による「スクール・コミュニティ・フォーラム」を設立し、教育行政の地方主権を土台から支えることが重要である。