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Business & Economic Review 1995年08月号

【論文】
「規制緩和」の時代の技術開発

1995年07月25日 佐久田昌治


要約

最近の「規制緩和」をめぐる動きの中で、産業の発展の原動力である「技術開発」の面で「規制緩和」がどのような影響を及ぼすのかに関する関心が高まっている。

「規制緩和」がもたらした恩恵の例として、電々公社の民営化に伴う電話機メーカーの指定が解除され、価格と性能の競争が生じて、高性能な電話機が低価格で購入できるようになった事例をあげることができる。また、最近の電気事業法の改正にともなう電力供給の多角化も関連する技術開発に好ましい影響をもたらすことが期待できる。問題は他の産業分野でも、「規制緩和」が引き金になって、技術開発が刺激され、消費者がその恩恵に浴することになるか否かである。

最近の「規制緩和」の動きは、外国政府(特に米国)と日本の経済団体の要望ないし圧力によってもたらされている。これらの要望ないし圧力の動機は、外国政府にとっては「自国の企業の日本参入の障壁の撤廃」であり、日本の経済団体にとっては「傘下の企業の既存事業の制約の除去」である。一方、同様に様々な規制のために事業の展開に支障を来している「新規事業者」の要望事項はほとんど緩和の対象となっていないし、議論の対象にもなっていない。

具体的な「規制緩和」要求の例として、住宅・建築分野の例を取ると、外国政府は日本の建築基準法をはじめとした建築システム全般にかかわる規制、日本の材料関するJIS、JASなどの規格、耐震性および耐火性に関する過度の規制の撤廃を主張している。外国政府の要求は概して妥当なものが多いが、一部には日本の実情をあまりにも無視したものも含まれている。日本の経済団体の規制緩和要求は「容積率、用途地域などの建築規制の緩和」、すなわち、一定面積の土地により多くの建築物を建てることを可能にすることが主眼となっている。一方、この分野で新規事業を展開しようとしている事業者は、建築基準法ばかりでなく、これに付随する告示、複数の省庁にまたがる規制、法に裏付けられない様々な行政指導、市町村レベルの規制など、過度の官僚統制に起因する多くの規制を障害と感じている。このような新規事業者の「規制緩和要求」は公の場で殆ど議論されることはなかった。

このような状況を踏まえると、現在の「規制緩和」の議論の延長線上にある新規事業、新産業とは外国企業および日本企業の既存の事業の幅がやや広がったものに過ぎない。新しい技術開発を誘発するような市場は期待できない。

現在の規制緩和の流れが契機となって、新規の市場と新規の事業が発生し、新しい技術開発の目標ができることを期待することは幻想に過ぎない。むしろ、新しい技術の開発とこれにともなう新規の事業の開発こそが「規制緩和」の原動力である。また、産業分野の中には、本来もっと強い規制があってしかるべきであるのに、現実には関連する技術が未熟であるため、十分な規制が行われていない分野がある。公害、環境問題にかかわる分野など、人類の生存に係わる分野がこの典型的な分野である。このような分野では規制の内容を実質的に決定するのも技術開発であると言える。
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