Business & Economic Review 1995年08月号
【論文】
デフレ・スパイラルの回避に向けて-求められる「新財政スタビライザー機能」の創出
1995年07月25日 調査部
1.わが国経済の現状
(イ)わが国経済は、これまで緩やかな回復傾向を継続してきた。生産活動が、94年1~3月期から95年1~3月期まで5・四半期連続して前期比プラスとなる等、少なくともこれまでの実質ベースでの推移をみる限り、景気回復の動きが途切れる事態に至った証拠はない(図表1)。
しかしながら、今回の景気回復が、93年10月を底に本年6月ですでに1年8カ月を経過するなかで(図表2)、国内生産の海外シフトに代表される産業構造調整(図表3)(図表4)や、流通部門あるいは間接部門での雇用調整等(図表5)(図表6)、各種構造調整の進展を背景に不況色が依然として根強く残存している。ちなみに、従来の景気循環を振り返ってみると、底入れ後2年目には、総じて当初の回復局面から拡大局面へ移行するなかで、景気回復のテンポが加速し、好況感が浸透していた。
さらに、95年入り後には、1月17日の阪神・淡路大震災、3月初以降の急速な円高・株安の進行、3月20日の地下鉄サリン事件等、不測の事態が相次いで発生するなかで、先行き不透明感が強まっている。
(ロ)こうした現下の景気情勢を、主要な景気指標について過去の景気回復期当初の動きと対照してみると、次の通りである(図表1)。
まず、鉱工業生産や売上高の回復ペースは、過去の景気回復期のテンポを下回る。さらに、実質GDP(国内総生産)は、減税・猛暑効果の剥落等によって94年10~12月期に大きく落ち込んだ後、95年1~3月期にはやや持ち直したものの、前年同期比 0.1%増と1年前の94年1~3月期とほぼ同水準にとどまっている。とりわけ、設備投資の回復力はきわめて鈍く、景気回復から半年後の94年4~6月期にようやく底入れした後、95年1~3月期までほぼ横這いで低迷している。一方、雇用面では、新卒採用の絞り込み等、企業の厳しい雇用姿勢を反映して、雇用者数の伸び悩み傾向が続いている。
こうした実体経済の動きを反映して、企業マインドの回復テンポも、きわめて緩慢なものとどまっている。すなわち、業況判断DI(日銀短観、主要企業・全産業ベース)は、これまで戦後最低を記録した第一次石油危機直後の景気回復期(75年1~3月期~77年1~3月期)に次ぐ低水準にとどまってきたうえ、95年5月調査ではマイナス22にとどまり、景気底入れ後6・四半期目の水準としては第一次石油危機直後の景気回復期の水準を下回り、戦後最低となっている。
(ハ)さらに、名目ベースでみると、そもそも、93年10~12月期以降の景気回復はなく、91年度入り後の後退局面が今日まで続いている。すなわち、名目成長率は、90年度の 7.5%成長をピークに91年度以降一貫して低下してきた。94年度には 0.3%とほぼゼロ成長となり、四半期ベースでは、95年1~3月期には前年比▲ 0.8%とマイナス成長に落ち込んでいる(図表7)。こうした動きは、実質経済成長率が93年度の▲ 0.2%から94年度には 0.6%へ上昇し、マイナス成長からプラス成長へ転換したのと全く逆の動きである。その意味で、今回の景気回復は、いわば、「実質回復下の名目不況」という、従来にみられない希有の回復パターンをたどってきたといえる。
(ニ)こうした名目と実質の乖離は、価格破壊現象の進行に起因する。すなわち、低価格化の動きが一段と強まるなかで、生産が増加しても、企業業績等の回復には直結しにくくなっている、という情勢変化である。
(a)まず、物価の推移をみると、次の通りである(図表8)。
消費者物価については、公共料金では昨年末以降上昇ペースが加速しているものの、これを除いたベース、いわば、民間ベースの消費者物価では、昨年半ば以降上昇ペースが一貫して鈍化している。ちなみに、月次の振れが大きい生鮮商品を除くベースでみると、民間ベースの消費者物価は、95年2月に前年同月比0.03%のマイナスに転じた後、3月の同 0.2%マイナス、4月同 0.3%マイナスから、5月には同 0.5%のマイナスへ、下落傾向が徐々に強まっている。これは、商品価格の下落ペースが一段と加速する一方、こうした価格破壊現象が民間サービス分野にも波及し、昨年末以降、民間サービス価格の上昇ペースが鈍化し始めているためである。
一方、企業間取引価格についてみても、卸売物価・企業向けサービス価格ともに、マイナス傾向が続いている。
(b)価格破壊現象を企業サイドからみると、販売価格が仕入れ価格を上回って下落しており、企業にとって交易条件が悪化する傾向が広がっている(図表9)。
まず、産業の川上段階からみると、製造業では、投入価格の下落ペースが94年入り後鈍化するなかで、95年に入り、産出価格が投入価格を上回って低下している。次に、小売業についてみると、こうした逆転現象は、耐久消費財の分野でいち早く現出しており、93年半ば以降、消費者物価が卸売物価を上回るペースで低下している。一方、サービス業では、情報サービス業等、人的サービスが業務の中心となっている業種が多いため、賃金とサービス価格の動向を対比してみると、94年に入り、景気回復を背景に賃金の上昇ペースが速まるなかで、サービス価格のマイナス幅は一段と拡大し、賃金とサービス価格との格差が拡大している。
(c)価格破壊現象の進行に伴う企業交易条件の悪化等を反映して、企業業績の改善傾向が、本年に入り頓座している(図表10)(図表11)。
まず、経常利益は、94年入り後の増益傾向から95年1~3月期には前期比 6.7%の減益に転じた。その結果、売上高経常利益率は、94年10~12月期の 2.1%から95年1~3月期には 1.9%に低下した。こうした売上高経常利益率の悪化を、製造業について、数量要因、価格要因、固定費要因の3要因に分解してみると、産出物価と投入物価の比である相対価格要因、すなわち、企業の交易条件の悪化が主因となっていることがわかる。
さらに、企業の収益体力を示す損益分岐点売上高比率は、93年10~12月期の91.9%をピークとして94年10~12月期には89.3%まで低下したきたものの、95年1~3月期には90.2%へ再び悪化している(図表12)。
(ホ)価格破壊現象の進行を反映して、GDPデフレータは94年7~9月期に前年比 0.5%のマイナスに転じた後、10~12月期同 0.6%のマイナス、95年1~3月期には 0.8%のマイナスへ、低下テンポが加速している。この結果、95年1~3月期の名目GDPは、前年比 0.8%のマイナス成長に落ち込んだ。こうした動きを受けて、現下のわが国経済はすでにデフレ状況に陥っている、と判断する向きもある。
しかし、単に物価の低下だけで、現下の情勢をデフレと判断するのはやや早計に過ぎよう。すなわち、これまでの物価低下は、デフレとは異なるメカニズムによってもたらされてきたためである。
そもそも、物価低下には、大別すると、次の2タイプがある。
[1]価格革命による物価低下
この場合の物価低下は、円高や原油安等による輸入コストの減少(交易条件の改善)や、経済成長や技術革新等による生産性の向上、等の果実が、名目国内付加価値の増加ではなく、企業の経営革新を原動力として、物価低下に結実するケースである。この場合、景気は実質所得の増加を通じて回復・拡大軌道をたどる一方、構造調整の進展等を通じて、わが国経済・産業の競争力が向上する。
[2]デフレによる物価低下
一方、デフレによる物価低下では、賃金・雇用、あるいは企業利潤等、国内付加価値の減少を通じて物価低下が進行するケースである。なお、デフレ状況とは、物価低下と国内付加価値の減少との相互作用を通じて持続的に物価が低下し、経済が縮小均衡に陥る局面であり、通常、深刻な景気後退を伴う。
こうした観点からみると、少なくともこれまでの物価低下は、交易条件の改善および経済成長による生産性の向上に主導されてきたものであるだけに、わが国経済にとってむしろ好ましい動きであった(図表13)。
なお、国内卸売物価を、これまで主要な決定要因とされてきた、円ドル相場、原油価格、単位労働コスト、稼働率指数、製品輸入数量、の5要因によって回帰してみても、最近の動きは有意に説明されており、直ちに現下の物価低下が従来と異なるメカニズム、あるいは別の要因によって生じている、と判断することはできない(図表14)。
(ヘ)しかし、95年に入り、これまでの物価低下メカニズムに変調の兆しがみられ、こうした情勢変化を加味してみると、現下のわが国経済は、デフレ局面の入り口にある、と判断される(図表13)。
第1は、昨年末以降、円高の効果が原油高等、国際市況の上昇によって打ち消され、交易条件が悪化していることである。
第2は、生産性の向上にブレーキがかかってきたことである。95年1~3月期の実質GDPが前年比 0.1%とゼロ成長に陥る一方、生産活動が深刻な不振に落ち込んでいる。すなわち、鉱工業生産は、4月に前月比 0.9%のマイナスに転じ、5月も同 0.3%マイナスとなった。さらに、生産予測指数によると、6月に同 1.4%マイナス、7月でも同 1.5%マイナスへと、4カ月連続して前月比マイナスに見通しとなっている(図表15)。ちなみに、戦後わが国経済でこれまで4カ月以上連続して生産がマイナスとなった局面は、[1]第一次石油危機後の不況期(74年6月~75年3月(10カ月))、[2]第二次石油危機および世界同時不況の外的ショックが重畳的にわが国経済を襲った景気後退期(80年5月~80年8月(4カ月))、[3]前回のバブル不況期(91年12月~92年5月(6カ月)、92年10月~93年1月(4カ月))、の3回だけであり、いずれも深刻な景気後退期であった。
第3は、国内付加価値が減少する方向に向かいつつあることである。企業収益が95年1~3月期に前期比 6.7%の減益となる一方、本年春以降、雇用情勢が一段と悪化している。すなわち、完全失業率が、95年4、5月とも 3.1%前後と戦後最悪の水準で推移する一方、就業者数<労働力調査ベース>は、4月の前年同月比21万人減から5月には同31万人減へ減少ペースが加速した。ちなみに、こうした大幅な就業者数の減少は、第一次石油危機不況直後の75年4月(同87万人減)以来である。さらに、正社員等、基幹労働力の動向をみると、常用雇用<毎月勤労統計ベース(事業所規模30人以上)>は、94年4月以降の前年比 0.1%前後のマイナス傾向から、95年4~5月には同 0.7%のマイナスへ減少ペースが加速している(図表16)(図表17)。
なお、こうした雇用環境の悪化に加え、[1]戦後最低となった春闘賃上げ率( 2.8%<日経連調査>)等、所得環境の改善遅延、[2]1月以降の相次ぐ突発的事件に伴う消費者マインドの慎重化、等を背景に、これまで景気回復を主導してきた個人消費が、本年に入り、それまでの着実な回復傾向から、まだら模様の展開へ転じている(図表18)。
まず、チェーンストア売上高は、95年2月には、94年8月以来6カ月振りに前年同月比 0.2%とわずかに増加したものの、3月に同 0.6%減と再びマイナスに転じ、4月同 0.7%減の後、5月も同 1.5%減少した。一方、百貨店売上高は、94年11月には同 0.1%減とほぼ前年水準並みまで回復したものの、94年12月以降再びマイナス傾向に戻り、95年5月でも同 2.2%減少した。さらに、旅行取扱高は、94年半ば以降増加傾向で推移していたものの、95年1月に同 2.0%のマイナスとなった後、2月には同 6.8%減、3月には同 3.1%減少と、マイナス傾向が続いている。もっとも、家電量販店販売額や、VTR・カラーテレビの出荷台数については、94年半ば以降の前年比2桁のプラス傾向が続いており、耐久財消費の底堅さに大きな変化はみられない。
2.今後の展望
(イ)今後、円高・株安のデフレ圧力の顕在化は不可避とみられるものの、次のプラス作用が今後着実に広がるとの前提に立てば、下期にかけて、実質ベースで景気が一段と落ち込み、深刻な失速・腰折れに至る事態は水際で回避されるとの見方が可能である。
第1は、積極的財政・金融政策の効果である。政府・日銀は、阪神・淡路大震災後、その復興に向けて間断なく94年度補正予算を作成し、次いで4月14日には公定歩合を1.75%から1%へ引き下げた。さらに、5月19日には復興事業に加え円高対策の観点から策定された95年度補正予算が成立している。この結果、本年4~5月の公共工事請負金額が近畿圏での増加を主因に前年比 1.8%のプラスに転じる等、すでに復興事業の効果が顕在化しつつある(図表19)。
ちなみに、マクロモデルによって試算してみると、これらによる95年度実質GDP押し上げ効果は、まず、94年度第二次補正予算が 0.2%ポイント、公定歩合の引き下げが 0.2%ポイント、それぞれプラスに寄与する一方、95年度補正予算については、?予算の執行開始時期は7~9月期以降、?公共事業の執行ペースは四半期毎に3割、4割、2割、1割等、一定の前提条件を置いてみると、その押し上げ効果は 0.6%ポイントとの結果が得られる(図表20)。これらを合算すると、プラス効果は 1.0%ポイントになる。
問題は、こうしたプラス効果が、円高・株安のデフレ作用を克服するかどうかである。ちなみに、94年度の円ドル相場が99.4円/ドルとほぼ 100円/ドル水準である一方、株価は日経平均ベースで 19,508.51円と2万円近い水準であった。そこで、マクロモデルによって、1ドル 100円から85円への15円の円高、および、2万円から1万 5,000円への 5,000円の株安が、95年度わが国実質成長率に及ぼす影響をみると、円高がマイナス 0.8%ポイントに上る一方、株安はマイナス 0.4%ポイントと試算される。合計すると、押し下げ圧力は 1.2%ポイントとなり、前述の公定歩合引き下げ・94年度第二次補正予算・95年度補正予算のプラス効果を 0.2%ポイント上回ることになる。もっとも、規模・内容は未定であるものの、今秋以降、第二次補正予算の策定が確実視されているだけに、この効果を勘案すれば、円高・株安のマイナス影響はほぼ相殺されるとみることが可能である。 第2は、個人消費の回復傾向持続である。
まず、所得減税の効果浸透が名目可処分所得の増加に作用するうえ、円高等を反映した低価格化の進行が実質所得の増加に寄与しよう。減税による実質成長率押し上げ効果は、94年の年末調整および確定申告時に追加的に実施された所得減税の効果が95年度に持ち越される結果、94年度の 0.5%ポイントから95年度には 0.6%ポイントに達する見通しである(図表21)。一方、1%ポイントの消費者物価の低下は、実質GDPを 0.5%ポイント、実質個人消費を 0.3%ポイント押し上げると試算される(図表22)。
さらに、95年度には、耐久消費財の買い替え需要の盛り上がりが見込まれる。例えば、乗用車販売は、前回ピークの89年から平均買替期間の 6.2年を経過し、95年は増加局面に転じるとみられてきたなかで、すでに94年半ば以降、前年比プラス傾向に転じている(図表23)。
(ロ)しかしながら、名目ベースでは、停滞色が今後一段と強まる見通しである。
第1は、3月初以降、急速に進行した未曾有の円高が価格破壊の動きを強めるとみられることである。さらに、現下の価格破壊の動きは、単に円高によるものではなく、東アジア経済の飛躍的発展や、中国等旧計画経済の自由化等、世界情勢の構造変化によるものでもあるだけに、わが国経済が、OECD先進各国対比2倍に及ぶ内外価格差等の高コスト体質を脱却し、国内物価が国際価格とバランスのとれた水準へ低下するまで、根強く持続する公算が大きい(図表24)。
第2は、今後、わが国物価水準の低下が国際的にみても不可避であるなかで、その源泉として、競争力回復に向けた大型所得・法人減税等による需要拡大、あるいは抜本的な規制撤廃による新規産業・ニュービジネスの創出等、経済成長を軸とした生産性の向上が、当面見込み薄なことである。こうした情勢下では、今後の物価低下が、一時的には円高等の輸入コスト減少、あるいは、部分的には半導体メモリー等、技術革新による生産性向上等によって実現される局面も展望されるものの、基調的には、雇用・賃金、あるいは企業利潤等、国内付加価値の減少に主導される可能性が大きい。
第3は、一般物価の低下によって、土地・株式等、資産収益率の一段の低下が不可避とみられるもとで、資産デフレの深刻化が懸念されることである。資産デフレは、単に地価・株価の下落にとどまらず、担保価値の減少等を通じて企業の資金調達を困難にする。ちなみに、企業部門では、すでにこうした状況に陥っている模様である。非金融法人企業の固定負債額は、93年末に、含み益を算入した土地評価額に担保評価率として8割を掛けた、いわば担保限度額に達し、その後も、地価の下落傾向が続くなかで、土地評価額と同じペースで、固定負債額も減少傾向を続けている(図表25)。
(ハ)このようにみると、当面の景気情勢は、いわば、「実質低迷下の名目不況」という状況が続く公算が大きい。さらに、次の要因が、景気下押し圧力の一段の増大に作用する恐れがある。
第1は、3月初以降の急速な円高が、国内生産の海外シフト等、構造調整圧力の増大に作用するとみられることである。すなわち、3月初以降の円高は、[1]スピードが余りにも速過ぎることに加え、[2]企業努力を大幅に上回る水準に達している。製造業の輸出部門の収益構造から計算してみると、市場レートは、すでに91年末以降、輸出部門での経常利益がゼロとなる水準である輸出採算レートを大きく上回り、現時点では、輸出部門での変動費のみを賄い、固定費部分がそのまま赤字となる水準である限界輸出レートとほぼ同水準に達している(図表26)。ちなみに、95年4~6月期での輸出採算レートは 100円/ドル、限界輸出レートが80円/ドル水準と試算される。
それだけに、現下の円高水準が定着した場合、単に、輸出数量の減少や為替差損の発生等による短期的なマイナス影響にとどまらず、中長期的に海外生産の拡大加速や製品輸入の増勢加速による国内生産基盤の縮小と雇用調整の強まり、設備投資の抑制・先送りを通じて、わが国産業・雇用の空洞化を進行させる可能性がある。
なお、輸出数量については、円高以外にも、本年春以降の急速な米国経済のスロー・ダウンという懸念材料がある。すでに、米国向け、EU向けを中心に輸出伸び悩みの兆しがみられるなかで(図表27)、米国経済の低迷が定着した場合、単に米国向け輸出が影響を受けるだけでなく、その影響が東アジア等、他地域へも波及し、わが国輸出が一段の低迷に陥る可能性がある。
第2は、企業・消費者マインドの一段の冷え込みが懸念されることである。先行き不透明感の強まりや、物価下落や資産デフレによる実質債務負担の増加(フィッシャー効果)を背景に、ようやく下げ止まりに転じた設備投資が再び落ち込む(図表28)、あるいは、マンション建設を中心に住宅建設がさらに冷え込む恐れがある(図表29)一方、企業リストラの一段の広がりが懸念されるなかで、消費者マインドが今後早期に積極化する可能性は必ずしも大きくない。
(ニ)このようにみると、今後のわが国経済は、[1]企業が雇用抑制姿勢を強める、[2]国内設備投資をさらに先送り・抑制する、[3]一段と企業・消費者マインドが悪化する、等の情勢変化が生じ易く、実質の動きが一層名目の動きに鞘寄せされかねない不安定な状況が続く公算が大きいと判断される。この結果、95年度の経済成長率は、実質ベースでは低水準ではあるものの、94年度( 0.6%)とほぼ同じ . %成長となるものの、名目ベースでは94年度の 0.3%成長から0.0%と、ゼロ成長に陥る見通しである。
さらに、こうした脆弱な状況にあるだけに、一段の円高等の不測の事態発生、あるいは、本年春以降打ち出された、「緊急円高・経済対策」や公定歩合の引き下げ等、財政金融政策の景気浮揚効果が、都市計画策定等に伴う復興事業の先送りや流動性の罠によって減殺される、等の場合には、賃金抑制・雇用減による賃金コストの減少等を通じて、物価下落が一段の国内物価の下落をもたらす、スパイラル的なデフレ状況に陥る懸念を否定し切れない。