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Business & Economic Review 1995年08月号

【PLANNING & DEVELOPMENT】
不動産の流動化に関する考察

1995年07月25日 社会システム研究部 松本吉雄


内外価格差問題の台頭

先般、国土庁土地局より地価、住宅価格等に関する世界比較調査(注1)が発表された。比較されている都市圏(30都市圏)は欧米、NIES、ASEANに属する都市圏のほか、中米や豪州も網羅され、世界における地価等の動向がある程度客観的に把握できる資料であると考えられる。

地価は、各国の土地制度や慣習、施策及び需給バランス等の要因が絡み合って形成されていることから、その比較を世界的に行うことは簡単ではない。従って、従来はこの種の比較が断片的なものでしかなかった、というのが実態である。

しかし、国際化が進展してきた今日、これまでは非貿易財とされてきた土地や住宅についても海外との対比を余儀なくされる状況となっている。今回の調査は、こうした意味でこれまで断片的にしか比較されず、全体像がみえにくかった面に切り込んだという点で、その意義は大きいものといえる。

今後、これをベースに諸外国と我が国の地価水準や住宅価格水準を可能な限り正確に比較し、土地問題のあり方を検討することは国際化への対応を図る上で不可欠の要素であると言える。

さて、この「世界地価等調査」の結果によると、東京の一般的な戸建住宅地の単位面積(?)当たり地価はロンドン、パリ、フランクフルトの9~12倍、ニューヨークの30倍、高度商業地の地価は同様にヨーロッパの都市圏の4~5倍、ニューヨークの9倍とかなりの格差がみられる。また、一般的な戸建住宅の住宅価格は、ロンドン、パリ、フランクフルト及びニューヨークの2~4倍と高くなっている。

「標準的である」として各国の不動産鑑定士等が選定した戸建住宅や集合住宅の敷地面積や延床面積についても1.5~2倍程度海外のほうが広くなっている。この結果からみると、価格面だけでなく量的な面でも「内外量差」があるといえる。

また、最近、内外価格差に関する調査結果が多く発表され、電気料金、電話料金、公共交通費、港湾料金等の公共料金、さらにゴルフ・プレー代等のレジャー関係の料金に至るまで、総じて我が国の物価は高水準にあることが指摘されている。

経済活動の指標として1人当たりGDP(1993年)をとりあげてみると、我が国は33,903ドルであり、イギリスの2.1倍、フランスの1.6倍、ドイツの1.5倍、アメリカの1.4倍である(注2)。地価やオフィス賃貸が高水準であっても、産出する付加価値が高水準を維持できれば問題はない訳であるが、地価やオフィス賃貸料以外の諸要素も依然として高水準であり、こうした内外価格差の存在が企業の国際競争力確保の面からみて不安材料となっている。また、国民の生活水準を維持、向上させる上においてもネックとなるおそれがあるといえる。

高価格水準にある公共料金、エネルギー、原材料等を投入しながら経済の活性化を図り、高付加価値社会を創出するためには、投入要素の一つである不動産についても「使用価値」を最大限に引き出す必要がある。しかしながら、我が国の不動産を巡る法的規制、慣行等は不動産の「資産価値」に着目して形成されており、不動産の活用という視点から再点検してみる必要があると考えられる。

不動産流動化促進の意義

欧米諸国では不動産取引は、その「使用価値」に着目して行われているのに対して、我が国では、これまで「使用価値」よりも「資産価値」に重点が置かれおり、税制や諸制度、取引慣行等も「資産価値」中心型になっている。例えば、バブル経済の崩壊、という場合には、資産価値の上昇を前提とした経済の崩壊を意味し、また、借地制度の場合は、土地評価額に対して5割~8割といった借地権料が決められ、このイニシャルコストを前提として取引が行われている。このため、不動産の価格が下落傾向にある現状では、不動産の所有者は売却しにくく、不動産の「使用価値」に着目して新たに事業を行う企業にとっては不動産を取得しにくい状況となっている。我が国の経済活性化のためには、不動産の「資産価値」よりも「使用価値」に着目し、不動産が流通しやすい制度、慣行等に徐々に改めていく必要がある。

最近、不動産流動化の面では、担保不動産の流動化への動きがみられるが、いわゆるバブル期においては不動産が投資の対象となることが多く、土地を活用して事業を行う法人や個人のニーズに合わせて不動産が流通する状況ではなかったため、こうオた動きは望ましい方向である。今後はこうした担保不動産に限らず、不動産全体の流動化を促して土地の有効活用を行う具体的方策の検討が必要である。

韓国、台湾等における土地取引制度

NIES諸国では、不動産の有効活用を促し、流動化を図る制度が存在する。その例として韓国の「伝貰制度」と、台湾の「畸零地」の建築制限を紹介する。

韓国の「伝貰(チョンセ)制度」は、オフィスやマンションの賃貸借契約を締結する場合、借り主が貸し主に預け金として支払う保証金であり、貸し主はその運用益を月々の賃貸料とするものである。伝貰制度は登記することも可能である。伝貰金が少ない場合は、借り主は毎月賃貸料を支払う必要がある。伝貰金と月額賃貸料の金額の組み合わせは、契約により取り決めるもので、賃借人が当初準備する金額に自由度がある。例えば、ソウル市内で取得価格が2億ウォンのマンションを借りる場合、42.5%にあたる8,500万ウォンの伝貰金を貸し主に支払えば月々の賃貸料は不要である。この制度はオフィスの賃貸借にも適用され、初期の保証金設定はかなりフレキシブルである。

台湾の「畸零地の建築制限」とは、面積過小又は境界線が曲折している敷地を畸零地といい、畸零地を含む敷地で建築を行う場合には、原則として畸零地となる部分の土地を隣地と合併して建築しなければならないこととされている(注3)。例えば台北市内の商業地は、「商一地区」の場合、最小幅が3m、最小の奥行が9m、「商二~商四地区」では最小幅が3m、最小の奥行が10.8mとなっている。角地などの面積過小地が、それだけで高地価を形成する我が国とは異なり、単独では有意義な価格を持たない方向に働く制度である。

また、香港では、不動産の鑑定評価と不動産取引が表裏一体のものとして取り扱われ、不動産コンサルタントが「使用価値」を高める方向に努力している。

韓国の「伝貰制度」は、伝貰金と月額賃貸料が当事者間の契約により決められるという自由度があり、賃借人の幅を広げて流動化を促しており、台湾の「畸零地」は面積過小地等の「使用価値」を高める方向で流動化を促している。

流動化の促進に向けて

高度情報化が進展し、国内外を問わず誰でもが国際的なネットワークにより不動産情報を取得できる環境が整いつつある。海外の地価やオフィス賃貸料との対比を行いながら国際的なビジネスが進展することになる。我が国の経済活性化のためには、「産業構造の高度化」と「アジア全域における水平分業」を進めながらパイを拡大することが基本となるが、その前提となる経済環境整備のため、不動産の流動化に着目し、いくつかの規制要因を見直しすることが不可欠であると考えられる。

従来の借地権制度は、土地に対する高額の借地権料の設定や借地契約解消時における事由の有無がネックとなって契約が進まない面が多く、定期借地権制度の導入により漸く「借地」が流動化する方向にある。このほかにも土地用途規制、面積過小地の存在、相続税対策等の土地の流動化、有効活用のために法的規制の緩和や導入が必要な面がある。不動産の「資産価値」よりも「使用価値」に重点を置いて、不動産に係わる諸制度、規制、取引慣行全般について見直すことが重要である。その第1段階としては、海外の事例も参考にしながら、(1) 定期借地権制度の推進、(2) 不動産に関する情報の流動化、(3) 不動産の流動化促進のための税制などを検討課題とし、衆知を集めて不動産の流動化を図ることが望まれる。



● 「世界地価等調査」:国土庁土地局が1995年5月30日に発表した調査。
● 『国際比較統計』(日本銀行)による1993年の数値。
● 『土地取引・利用・保有の基本指針』(国土庁監修、東洋経済新報社)
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