コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 1995年07月号

【OPINION】
企業課税実効税率30%台への引き下げを

1995年06月25日  


日本経済では、いま様々な「空洞化」が進行している。円高・高コストに伴う産業や金融の空洞化に加え、財政の領域でも深刻な空洞化が進みつつある。

この財政の空洞化は、ふたつの側面で進行している。その第1は、歳出面の財政配分を通した「国の機能の空洞化」である。阪神大震災の復興をめぐる財源問題でも明らかとなったように、外交・防衛と並んで国の根源的役割である防災・災害復興に対し、現在の日本財政は残念ながら機動的に対応できる状況にはなかった。政府の危機管理体制の未整備とともに、これまで続けられてきた総花的歳出膨張と財政の硬直的体質が、国の根源的役割の空洞化を知らず知らずにもたらしてきた。財政改革は、活力ある高齢化社会、世界に開かれた日本を実現するためだけではなく、国の担うべき根源的役割を取り戻すためにも取り組まなければならない喫緊の課題となっているのである。

しかし、こうした取り組みを阻むより重要な空洞化が財政では進行している。それは、「法人税の空洞化」である。法人税収は、1989年度の18兆9933億円(決算ベース)から94年度では12兆2290億円(第二次補正ベース)と、6兆円以上も減少している。この急激な法人税収の減少は、景気低迷と不動産・株式等資産デフレによる企業収益の落ち込みが主因となっているものの、さらに、日本経済の空洞化が、法人税制度そのものの構造的空洞化を生みつつある。

構造的空洞化は、各国間の法人税制の違いによる企業の立地国選択や法人税の裁定行為等が活発化することで、一層加速される。第1の立地国選択とは、各国間での法人税の負担格差が継続的に大きい場合、本社、工場等企業の組織体そのものを海外へ移転する行為である。これに対し、第2の法人税の裁定行為とは、立地国選択を必要とする程継続的な負担格差が生じていない場合でも、企業の活動している国において法人税負担の水準が上昇した場合、課税所得を負担の低い国に移転する行為である。

立地国選択や裁定行為の活発化は、国際的な法人税負担の水準を無視して、法人税率等を一国が決定することはもはや困難な状況にあることを示している。国際的な法人税負担の水準を無視し高い税負担を求め続けることは、経済の空洞化を加速させるだけでなく、財政面において慢性的な歳入不足状態を生み出し、国債の累増や消費税等他の税負担の拡大をもたらす要因ともなる。

日本の企業課税について地方税である事業税等を加えた企業の実質的な税負担、いわゆる「実効税率」(表面税率に対して、各種控除等を実際に適用して算出された税率)をみると、現行49.98%と収益の約半分が税負担となっており、米国の41.05%、英国の33.0%等他の先進国と比べて高い水準にある。さらに、アジア諸国と比較すると、日本の企業課税との負担水準の格差は一段と拡大する。都市国家であり地方税が存在しない香港の法人税率は16.5%と低く、シンガポールの法人税率も一律27%(将来的には25%まで引き下げる予定)となっている。また、中国の法人税率は地方税と合わせ33%となっており、ハイテク企業等法律に定める生産活動に従事する場合や経済特別区に進出する外資系企業に対しては、減免措置がとられている。

しかし、立地国選択により生ずる法人税の空洞化の問題を検討するにあたっては、自由に投資先を決定できる新規投資に対する税負担の水準を比較しなければならない。この新規投資資本に対する税負担を測定する尺度としては、「限界実効税率」があげられる。限界実効税率は、企業の資本コストの測定等を通じて算出される。新たに投資される資本に対して追加的に必要となる税等のコストがどの程度にあるかは、企業の投資行動に大きな影響を与える。日本の限界実効税率は、投資税額控除や減価償却制度等の相違により、アメリカに比べ少なくとも二倍程度高い水準となっている。高い限界実効税率は、日本企業の海外移転を促進させると同時に、外国企業の日本進出を阻む要因ともなることに留意する必要がある。

日本経済を国際的に魅力ある市場とし、国際的な分業体制を実現するため、企業課税の見直しは喫緊の課題である。その実現のためには、企業課税の課税ベースを拡張しつつ、税率を引き下げることが基本となる。その場合、租税特別措置の取扱いや公益法人、赤字法人等従来議論の対象となってきた課題に加え、税務会計の仕組み、徴税制度等をも対象とした抜本的な議論が不可欠となる。

また、現行税制の直接税依存の高い状況は、所得税だけでなく法人税等企業課税が国際的に高い水準にあることによりもたらされている。このため、地方税である事業税の外形課税化等実質的な間接税化を検討することも必要となる。企業課税の新たな姿の模索は、政策の大きな柱となっている地方分権の推進にも密接な関係を有するのである。欧米とアジアを繋ぐ活力ある日本経済を生み出すため、企業課税の実効税率をまず、主要先進国並の30%台に引き下げる努力が求められる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ