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Business & Economic Review 1995年06月号

【OPINION】
金融改革は第二ステージへ

1995年05月25日  


金利の自由化を終了し、わが国は金融自由化の第二ステージともいうべき新たな局面に入った。しかし、わが国の金融機狽ヘ金融機関の不良債権問題や金融市場の空洞化といった大きな困難に直面し、今や閉塞状態にある。わが国の金融市場がこうした困難を乗り越えていくためには、今こそ民間のイニシアティブが求められている。すなわち、金融自由化の第一ステージと第二ステージの決定的な違いとは、行政主導の金融自由化ではなく、民間のイニシアティブで民間自身が航路を定め、進んでいくところにあるといえる。勿論官も、第二ステージにおいては、こうしたイノベーティブな動きを側面支援はしても、もはやこれに対してブレーキをかけることは許されない。しかし、民間サイドはそれ以上に現状までの保守的な姿勢を180度転換し、次のような点において独自の戦略を立て、航路を見出していくべきである。

第一に、金融機関の最も基本的な機狽ナある伝統的預金貸出業務を助ェに果たしていくことである。現在、多くの金融機関が不良債権を抱え、その処理に呻吟している。そして、バブル時代の反省から、新規貸出に対しては総じて慎重であり、また防衛的である。勿論、不動産担保主義に過度に偏重した貸出態度は改めてしかるべきであるが、これが過剰なものとなってはならない。そもそも景気の回復期において、資金需要を助ェにくみ取り、景気回復を後ろ側からプッシュしていくことこそ金融機関の本来の機狽ナある。金融機関はイノベーティブな新商品開発によって預金の魅力をどんどん高め、また自らの審査力の向上によって新たな企業を育てることにより、積極的にその資金仲介機狽ハたしていくことが現在求められている。こうした本質的な機狽ナある資金仲介を積極的に果たしていかねば、銀行業の発展の余地はない。

第二に、資金仲介業務を中核としながらも、金融機関は個性のある経営を行うことを求められている。金融市場空洞化の解決も、当局によるインフラ整備や税制、会計制度等の見直しは重要であるが、市場の主役プレイヤーである民間金融機関がイニシアティブをとり、新しい情報発信を行っていくことが最も必要とされるところである。

金融機狽フ閉塞状態を抜け出し、活力ある金融業を再生するためのわが国の金融機関のキーワードは、「オリジナリティーの発揮」、すなわち、横並び体質からの完全な脱皮である。これまでわが国の金融機関の戦略は概ね同質的であった。その姿は巨大な原油搬送力を持つが、武器を持たず船足も遅い巨大タンカーの船隊を思わせる。しかし、邦銀がこのように消極的な姿勢をとっている間に、米銀のマネーセンターバンク等は、企業向け、個人向けに様々な新しいサービスを行うようになり、米銀と邦銀の間には歴然とした差がついてしまった。いわば米銀には空母から駆逐艦、潜水艦まで様々な船種が存在するようになっている。

たとえば、米銀の一部はリテール部門を切り捨てホールセールに特化し、デリバティブ取引を駆使し、企業に対して積極的にリスクマネジメント・アドバイスを行っている。さらに、キャッシュマネジメントやカストディ(証券保管)などについても、インフラ投資を積極的に行い収益を上げている先もあり、これが企業取引深耕にもつながっている。これらのアプローチは決して一朝一夕でできるものではなく、人材の育成や、長期的な設備投資が不可欠であり、1980年代後半の不良債権処理に忙殺されていた時代から実施してきた先行投資が実を結んだとみることができよう。

このように、銀行業務が多様化するなかで、米銀は自己の経営資源の強みから最大限の効果を上げるべく狙いを定めて、個性がにじみ出る戦略を採用している。そのためには、既存の枠にとらわれない新たな「アイデア」こそ重要である。わが国においても金融改革が第二ステージへ入り、時代が変化していると感じさせるいくつかの動きがある。昨年末の城南信用金庫の懸賞金付き定期預金にみられるような新商品開発積極化の動き、東京三菱銀行の誕生などである。特に東京三菱銀行の誕生は、規模のみでなく、国内企業取引での強さと国際性が相互に補いあって高い商品開発力を持つ金融機関として育っていく可柏ォが高い。それだけでなく、この合併が他の銀行への良い刺激となり、わが国の金融機関が業態の垣根を越えた合併や、よりユニークな組織体制、戦略を採用し、大いに競争が促進されていくことが期待される。

第三は、グローバルな意味でもわが国の金融機関は活性化しなければならない。昨今の円高の進展で、アジア諸国はドル離れ現象を起こしつつあり、円に対するニーズも高まっている。円の国際化の問題は、一義的にはわが国の適切な金融政策運営により円に対する信認を確保をしていくことが重要であるが、わが国の金融機関が国際的な活動を活発に行っていくことは、国際通貨としての円の機伯・繧ノ結びついていくだろう。たとえば、円建て貿易金融を充実させるとともに、アジア企業向けにデリバティブを利用した魅力的な新商品を提案するといった戦略は、長期的には円の国際通貨としての機狽b゚る方向に作用しよう。

以上のように、日本の金融改革の第二ステージの成功は、民間金融機関の活力にかかっている。21世紀にわが国金融機狽ェ再び活性化するためには、今こそ個々の金融機関における発想の転換が求められている。
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