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Business & Economic Review 1995年03月号

【PLANNING & DEVELOPMENT】
行政への住民参加の新展開に向けて-大規模公共事業や行政手続きを巡る諸動向から

1995年02月25日 東一洋


1.大規模公共事業推進を巡る状況

昨年10月、成田空港問題が和解に向けて一歩踏みだした。さらに地元住民も参加して空港建設をチェックする全国で初めての監査機関を設置し、国側はその提言を尊重する義務を負うこととなり、より民主的な体制がつくられつつある。

この一連の動きの中で、建設相が長良川河口堰(ぜき)問題に対してもこの「成田方式」で円満な解決を図りたいとの発言があった、と報じられている。

長良川河口堰建設事業は、1988年に着工されている。この事業を全国的に有名にしたのは、着工後の反対運動の広域化やそれに伴う政治問題化である。反対派はマスコミや文化人を巻き込み、地球サミットで高まった国民の地球環境問題意識に訴える戦術を展開した。現在約1,500億円かけた堰の本体工事はほぼ完成し、環境面を中心に各種の調査が実施されているが運用の目処は未だ立っていない。

他にも事業推進がままならない大規模な公共事業が多くある。宍道湖・中海の淡水化事業は事業そのものが中止となった。千歳川放水路建設事業は環境アセスメントが実施できない状況である。

2.反対運動と行政担当者の意識

事業進捗を遅らせる反対運動の性質は様々であるが、ここ数年の特徴としては

・環境問題がキーワード
・マスメディアの活用(外国メディア含)
・ノー・イデオロギー(明るく楽しい)
・参加する人に応じた受け皿づくり(多様な参加機会)
・直接利害地域を越えた広域化

などが挙げられよう。市民のアクセシビリティを高め、情報化社会に対応しつつ、時には外圧をも利用しようとする積極性が見られる。これに対し、事業を進める行政担当者の意識は、当社のヒアリング調査においては

・市民の合意は議会で図れる
・(都市計画の)手続きの遵守しかない
・マスメディアは反対派寄り

といった意識が主流であるように感じられた。議会制民主主義の我が国においては、法に定められた所定の手続きを踏むことが基本となる。しかし、現実に多くの市民による反対運動が展開される中では「反対運動そのものを認識しない」のでは余りに建前論過ぎるきらいがある。

3.反対運動と住民参加

公共事業に対する反対運動は、視点をかえれば積極的な住民参加の意思表示であると解釈できる。住民参加には一般的に

・自己ないしは集団の利害に係わる事項について事実や意見を表明し、法律の適正な執行を求めるための利益代表・的な参加
・必ずしも自己の直接的な利害を主張するのではなく、行政の公開、各種意見の公正な反映等合理的な意見形成の確保をめざす参加

の2つがあるといわれている。

近年の国による大規模な公共事業に関しては、後者と対をなす運動が主流となっている感が否めないが、マスメディア等に登場しない反対運動の多くは前者を対としていることは想像に難くない。

4.「行政手続法」と「情報公開制度」

住民参加ニーズの高まりに対応する国の動きとして昨年「行政手続法」が施行された。これは公正で透明な行政の運営を目指した法律で、そのポイントは以下の2点となっている。

・国民が行政機関に許認可申請や届け出をする際の手続きの明確化
・行政機関が個人や企業などを行政処分したり、行政指導する際のルールの設置

ただし、今後の運用を踏まえ、

・今回の行政手続法では行政計画・行政立法手続の制度化は見送られていること
・文書閲覧制度において意志形成過程情報が、その請求の主体が当事者等ではあるが、当事者等の範囲に対する法執行機関の判断如何により、関係市民への公開可能性を有している、とも判断できること

の2点に留意しておく必要がある。

一方、自治体においては「情報公開」に関する条例や制度が動き始めて約10年が経つ。情報公開に関する条例や制度では、市民に公開される文書は行政運用上「決済済み」の文書であることが多く、意志形成過程情報は非公開情報(公開しないことができる、またはしてはならない情報)であるのが通常である。

このように、行政手続法や情報公開条例(制度)は様々な限界性を有してはいるものの、その基本的な理念として行政の「透明性の確保による住民の参加」という一面があることを積極的に評価すべきである。

5.むすび

今後、国の行政手続法は自治体での独自の運用の工夫が必要となる。また既存の情報公開条例(制度)とともに、住民参加の環境を整備し、高まりつつある行政への住民参加ニーズを満たしていく取り組みが必要である。

一方、住民においてもその公共事業が自分達や子供達にいかなる影響を及ぼすものであるか、について議論を重ねる必要がある。さらに反対運動が拡がっているならばそれが住民参加意識の発露であるのか、一部の環境派インテリゲンチャ層の自己実現欲求によるものなのかを冷静に判断し、行動する知恵が必要となるであろう。

このように、行政と住民双方の努力によってその地域独自の「成田方式」(手続法の独自の運用、情報公開制度との連携等)により、自分達のまちの環境整備に対する自己決定権を支援する仕組みを構築するよう切望する。

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