Business & Economic Review 1996年07月号
個人の情報に欠かせないワン・バイ・ワン・コンセプト
1996年06月25日 戦略ネットワークマネジメントクラスター 副主任研究員 香取邦彦
1.個人の情報化と企業内情報システム
企業内における情報化を考えるときに、真っ先にパャRンを思い浮かべる人が多いだろう。 しかし、図浮Pに示すように、企業における個人の情報化は、酷煬キ機(PBX)の導入による内線電話の普及から始まった。電話を個人が自由に利用できるようになったことにより、同一敷地内や建物の中を内線番号だけで自由にコミュニケーションが行えるようになった。
さらに、企業ではプライベート・ネットワークを、内線番号で国内のみならず海外の事業所とも通話ができるようにした。これは、業務における時間と空間移動の節約に多大な効果をもたらすことにつながった。ダイヤルインでは、内部だけでなく外部から特定の部門や個人に直接電話をかけられるようになった。最近はPBXにPHS(パーャiル・ハンディホン・システム)の装置を付加し、事業所内でもPHSの利用を可狽ノするシステムを導入し始めた企業もある。
一方、コンピュータの側面から考えてみると、個人の情報化は1980年代半ばに逆のぼりパャRンの普及とともに始まった。阜v算やワープロなどの便利なャtトが手に入るようになり、情報の作成と再利用が容易になった。さらに、これらのャtトを統合したOAアプリケーションも出現した。最近はパャRンの低価格化やLANの普及に伴い、電子メールやグループウェアが一般的になり、タイムリーな情報利用に役だっている。
このように日本では通信とコンピュータの2つの側面から別個に情報化が進んできたが、米国の場合でも同じような進展をみせてきたものの微妙な違いがある。
2.米国と日本における個人の情報化の違い
多くの書面で報告されているように、米国における個人の情報化は日本よりも数年先を行っていると言われている。米国における個人の情報化を語るときには、タイプライターから始まったキーボード文化というバックグラウンドと、パャRンの1人1台化の進展、そしてLANの普及というのが、良く指摘されるポイントであろう。
しかしながら、ここでは別の観点から個人情報化の違いというものを考えてみたい。
米国では電子メールと同様、ボイスメールも広く普及している。電話がかかってきても応答がない場合や話中の場合は、一定回数ベルがなった後、自動的にボイスメールに切り替わるしくみになっている。
このため、発呼者は長く待たされることによるイライラを感じることが無いし、メッセージを確実に相手に伝えることが可狽ナある。また、他人を煩わせることもない。
このような便利なしくみが何故日本では普及しなかったのだろうか。
その理由として、日本の事務所が大部屋であり、誰かが応答できるからということもあるが、根本的な要因は、特定の個人に外部から直通番号でアクセスできないということである。
米国では企業内でもほとんどの個人が直通の電話番号を持っている。しかし、日本の多くの企業では、従業員個々の電話に外線番号を割り付けていない。進んでいるところでも部門単位でのダイヤルイン番号にとどまっている。また、キーテレホンを利用しているところなどでは個人の内線番号という概念がないところもある。
このように、米国は電話についても電子メールのアドレスと同じように個人番号化が進んでいるところに違いがある。
現状の日本企業のでは、電話と別系統のしくみを穀zすることなしに外部から個人宛へのボイスメールを残すことは難しい。メッセージを残そうとするとプライバシーが侵害される可柏ォがあるし、他人に聞かれると恥ずかしいという日本人特有の恥の文化もある。企業内の組織異動は頻繁で、半年や1年での流動的な組織といったものが多く存在するため、外部の人間が特定の個人とコンタクトしようと思っても、その結果、2年も経てば組織の改編や人事異動などで所属する電話番号が変わってしまい、所在がわからなくなることが多々ある。
このように、米国と日本における個人の情報化の違いは、電話という既に確立したしくみに顕著に現れている。
3.個人の情報化における今後の展開
昨年、情報技術関連雑誌の誌面を賑わしたグループウェアやワークフローといったアプリケーションは、今後も改良が加えられ一層使いやすいものになっていくものとみられる。
一方、普及率が急激に上昇している携帯電話やPHSとともに、机上の電話の機狽ゥ直し、業務への効果的な活用を図るため個人のコンピュータやメインフレームと協調させようとする動きが高まっている。
これは一般にコンピュータ・テレフォニーとかコンピュータ・テレフォニー・インテグレーション(CTI)と呼ばれるもので、PBXとコンピュータのCPU同士でコミュニケーションを行わせることにより、互いに互いを制御しあえるようにするものである。図浮Qに示すようなコンピュータ・テレフォニーのコンセプトは1980年代後半から存在していたものであるが、コンピュータの価格低下と処理迫ヘの向上でより現実味を帯びてきたものである。
最も単純な例として、電話のダイヤルボタンやディスプレーをパャRンに侮ヲし、パャRン画面から発信できるようにしたャtトがある。これは電話と連動して電話番号帳を参照しての発信や着信侮ヲが可狽ノなっている。
また、ボイスメールと電子メールをメディアこそ違うものの、ひとつのメールの体系としてとらえ、受信侮ヲや発信者毎の管理を行うといった統合メール機煤iMixed MessagingとかUnified Messagingと呼ばれる)もある。
たとえば、ボイスメールの到着をパャRン上に侮ヲしたり、メッセージを再生したりすることも可狽ノなっている。 さらに、今後は外部から電子メールを音声-テキスト変換を利用して音声で再生したり、逆に携帯電話に対して電子メールを送ったりすることなど使い道は拡がる一方である。
4.ワン・バイ・ワン・コンセプト
このように、将来的な個人の情報化は電話とコンピュータを融合させたシステム形態を頭に描きつつ進めていく必要がある。
さて、ここで提唱するワン・バイ・ワン・コンセプトとは、1人に1台の情報通信機器を与え、情報化を図っていこうという考え方である。ただし、ここではハードの1人1台化という意味だけではなく、ハードとャtト両面からのワン・バイ・ワンを目指すところに違いがある。
既に企業では電話の1人1台化は当然のことながら、パャRンの1人1台体制に着手し始めた。先進的な企業では、既に本社部門を中心に実現したところもある。このように、ハードの1人1台化は誰もが考えていることであり、時間が解決してくれるものであろう。
一方、ャtトのワン・バイ・ワンとは、ワープロや阜v算ャtトなどのアプリケーションのことを指しているわけではなく、1人に1つのアドレスということを意味している。
コンピュータの観点では、電子メールのアドレスが相当する。つまり、世界中のどこからでもそのアドレスを設定すれば、特定の個人にメッセージを送ることができる。
一方、電話という通信の観点から考えると、内線番号は個人に与えられているものの、外からアクセスできるようなアドレスという観点ではワン・バイ・ワンとはなっていない。
この問題を解決するためには、個人へダイヤルイン番号を割り付けることが必要である。これにより社外から確実に個人に対してコンタクトすることが可狽ノなる。
たとえ企業内の組織異動が頻繁で、半年や1年の流動的な組織が多く存在しようとも、個人に電話番号を割り振ることによって、同一地域内であるならば異動した先に必ず接続できるようになる。
ダイヤルインは、現在NTTが1番号当たり月900円と負担が大きいが、TTnet並の月100円程度になるならば負担も少なくなり、普及が進むであろうし、今後のコンピュータ・テレフォニーの本格化につながるだろう。
前述の事業所PHSシステムの導入には個人番号が必ず必要になるものである。このシステムの導入時をきっかけと捉え、通信のワン・バイ・ワンを進めるということも可狽ナある。
5.ワン・バイ・ワンのメリット
ワン・バイ・ワン・コンセプトを導入することにより、企業では個人の業務において図浮Rに示すようなメリットを得ることができるとともに、今後進展すると卵zされるコンピュータ・テレフォニーの導入も容易になるものと期待される。
たとえば、名刺に書かれた電子メールのアドレスも電話番号も、事業所が異動にならない限り変わることはない。このため一度渡した名刺はたとえ部門名が変わろうとも継続的に利用してもらうことが可狽ノなり、いつでも直接コンタクトが可狽ノなる。以前取引の合った顧客が、時間をおいて再度取引を始めようとしたり、展示会で名刺交換をした担当者と実際のビジネスが発生しそうな段階でコンタクトしたいときなど、確実にコンタクトできることはチャンスを逃がさずビジネスの拡大に直接つながるだろう。
営業のような業務のみならず、ある分野のスペシャリストといった専門的な業務についても同様の効果を見込むことができる。
キーボードが不得意な人には口頭でメッセージが送れるボイスメールが強い味方になる。また、イエス、ノーだけで会話が成立するものや、外出先からの緊急連絡などには特に威力を発揮するものとみられる。
さらに、今年の9月からNTTでは発信者番号侮ヲのサービスを一般の電話に対しても行うようになる(ISDNでは既に提供済み)が、個人宛にかかってきた電話では、これを利用して顧客情報とリンクさせてパャRンに最新の情報を侮ヲしたり、かかってきた市外局番から担当者の振り分けを行ったりすることが可狽ノなり、コンピュータと電話の協調がなくてはならない関係になるだろう。
最後にワン・バイ・ワン・コンセプトでは、プライバシーを確実に確保できるということを挙げたい。郵便にしろ電子メールにしろプライバシーを守ろうと思えば、実現する手段は提供されており、利用者はそれを自由に選択することができた。しかし、電話の場合席にいなければ、または電話を自分で取らない限りプライバシーを確保することはできない。そこで、個人向けのボイスメールを電子メールと同様に扱われるようにすることで、プライバシーを守ることが可狽ノなる。
以上のようにワン・バイ・ワン・コンセプトのメリットを述べてきたが、実際にこのようなコンセプトを導入しても電子メールの導入と同じように利用する側の意識がメールに対して肯定的でなければ効果を上げることは難しい。実際の導入においては、環境の整備だけにとどまらず、利用者の意識の向上も図っていく必要がある。