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Business & Economic Review 1997年10月号

【OPINION】
財政構造改革を完結させる歳入構造の見直しを

1997年09月25日  


本年6月、財政構造改革会議が策定した「財政構造改革の推進方策」が閣議決定された。これを受けて、政府は1998年度から向こう3年間を集中改革期間と位置づけ、主要経費ごとに異なる歳出上限を定めるキャップ制のもとで、一般歳出は厳しくしかもメリハリをつけて、総額ベースで管理されることになった。また、社会保障、公共事業、政府開発援助等の分野では、歳出の抑制・効率化に向けた個別制度の見直しが始動しつつある。このように歳出面については、ようやく改革に向けた第一歩が踏み出されたといえる。

しかし忘れてならないのは、戦後50年の右肩上がりの成長経済のなかで既得権益化・硬直化しているのは歳出面だけではないことである。財政構造を成熟化、超高齢化する経済・社会に適合する形に再構築するためには、歳入面の改革を併せて行う必要がある。その場合の視点としては、次の3点が重要である。

第1は、税制をグローバルスタンダードに照らして見直し、国際的な整合性を欠いた課税はわが国の立地競争力を確保する観点から思い切って是正することである。とりわけ、国際的にみてもきわめて重課となった法人税制の見直しは喫緊の課題である。

すなわち、主要先進国の法人所得課税の実効税率をみると、わが国の実効税率は49.98%とこれまでドイツ(52.35%)と並んで高い状況にあった(アメリカ41.05%、フランス36.66%、イギリス33.00%)。しかも、経済・通貨統合の基準達成に向けて財政赤字削減を最優先課題としているドイツですら、国内産業の空洞化や雇用問題の深刻化に対応するため、先頃大規模な法人減税を含む税制改革の政府案が示されたところである。この税制改革案は現在与野党間で協議中であるが、仮に同案に沿って法人税の基本税率(内部留保分)が現行の45%から99年までに35%に引き下げられた場合には、ドイツの実効税率は最終的には44%程度に低下し、その結果としてわが国の実効税率は突出する形となる。

こうした法人重課の構造を放置しては、いくら規制緩和や高コスト体質の是正策等に取り組んだとしても、税制面からわが国の立地競争力を阻害する要因が残り、立地条件の本格的な失地回復は期待薄である。その意味で、現行37.5%の水準にある法人税の基本税率を10%ポイント程度引き下げ、わが国の実効税率をアメリカ並みの40%程度に引き下げる抜本的な法人税改革が必要である。ちなみに、10%ポイントの基本税率引き下げは、国税・地方税合算で約4兆円の減収要因となる。その減税財源を確保するには、租税特別措置の見直し、赤字法人課税の適正化等を通じ課税ベースの拡大に努めるとしても、法人課税の枠組みのなかだけで税収中立を図ることは妥当とはいえない。法人税改革の財源確保は後述する第2の点も含め、税制全体を改革する視点から検討されるべきである。

また、個人所得課税においても、急激な累進税率の適用や株式投資において発生したキャピタルロスの次年度繰り越しを認めない税制が、ベンチャー的気風の発揚を阻害している可能性があり、この面から一段の減税を検討する余地がある。

さらに、金融関連税制に関しても、金融・資本市場においてアングロ・アメリカンスタイルがデファクトスタンダードとして席巻する状況下、これと整合的でない有価証券取引税等は撤廃するなどして、徹底した規制緩和に併せて税制面からもわが国金融・資本市場の魅力を高める工夫を講ずることが求められる。

第2は、超高齢社会を迎えるなかでこのまま直接税中心の税制を維持すれば、将来世代に過大な負担を強いる可能性が大きいだけに、世代間の公平性確保に軸足を置いた税体系、歳入構造に改めることである。

わが国の高齢化は2050年頃にピークを迎えるまで今後もそのマグニチュードを高めていく状況にあるため、財政需要は社会保障関連を中心にますます増嵩する筋合いにある。一方、こうした財政需要を賄う歳入構造をみると、税制面では所得税を主体とする直接税が中核財源となっており、他方社会保障制度においては年金・医療保険向け財源を主として社会保険料に依存している。この点、所得税は個々人の所得を包括的に捕捉することの実務上の困難さから、また社会保険料についてはそもそも制度上の理由から、いずれも賦課対象が勤労所得に偏っているとの問題がある。その結果、今後増嵩していく財政需要は主として、これから大幅な減少が予想される勤労世代という限定された賦課対象層の負担で賄われることになるだけに、世代間の負担の公平性が著しく損なわれる懸念が大きい。換言すれば、社会保険料も一種の直接税とみなし得るだけに、歳入に占める広義の直接税比率は今後一段と上昇し、賦課ベースの狭い直接税偏重の歪んだ税構造が温存・強化されることになる。

こうした事態を回避するためには、海外諸国と比べて著しく低位にある消費税率の一段引き上げ等により、直間比率を見直すことが不可欠である。間接税の拡充の主眼は、社会保険方式で運営され、急速な高齢化のなかで財政基盤が大きく動揺している公的年金の基礎年金制度や老人医療費拠出制度の財政基盤を立て直し、社会保障制度を世代を越えて国民全体で支える仕組みに改めることにあるが、併せて前述の法人税改革の財源を確保する観点からも求められるものである。

もっとも、間接税への過度の傾斜には逆進性拡大という副作用も伴うだけに、直接税の実務上の欠陥(所得捕捉の不完全性)を克服するための納税者番号制導入は一刻も早く本格的な検討が始められる必要がある。

第3は、特定の歳出と強く結び付き既得権益化した歳入面の諸制度を見直し、歳入面から財政構造の抜本的な改革を後押ししていくことである。

その一例が建設国債と赤字国債という財政赤字の形式上の区分の問題である。現に、財政健全化目標においても国の一般会計に関して「2003年度までに赤字国債発行ゼロ」という項目が設定され、財政赤字に関するこうした形式的な区分が財政再建の道筋を事実上拘束するメルクマールとなっている。しかしながら、こうした区分けは、公共投資等のハード整備は、後世に資産が残るという理由でその財源を建設国債という名の財政赤字で賄うことが相対的に容易に認められる一方、建設国債発行対象事業に該当しないソフト整備は、それがいかに21世紀の公共インフラとして必要なものであっても、赤字国債を増加させるが故に予算確保が困難になりがちという傾向を助長する。このように建設・赤字国債という形式的な区分けが、財政の資源配分機能を歪めている可能性が否定できないだけに、その全面的な見直しは急務である。それとともに、一般会計の健全化目標としては、「赤字国債ゼロ」の目標に代えて、一般会計の財政赤字を意味する国債発行総額をGDP比等の合理的基準で管理する手法を導入することが検討されるべきであろう。

このほか、揮発油税、自動車重量税等、税法等の法律や予算編成上の慣例に基づく特定財源の見直しも必要である。国税ベースで4兆円強(97年度当初予算)の規模に達する特定財源は、道路や空港整備等の従来型の土木中心の公共事業と不可分な関係にあるだけに、公共事業配分を抜本的に見直すうえでの桎梏となっている。道路整備等、閉ざされた政策目標のなかで受益と負担の一致を図ろうとする視点よりも、歳出構造を新たな経済社会構造に即した形に組み替えることが求められる状況下、特定財源のあり方を見直し、一般財源として幅広い活用を図る視点が優先されるべきなのは明らかである。

もっとも、上記の主張は環境税のように、課税を通じて特定の経済活動を政策的に望ましい方向に誘導する政策手段まで一律的に否定するものではない。ただし、その導入に当たっては、当該税が所期の目的を果たした後も特定歳出と結び付き既得権益化するのを避けるため、その必要性を一定期間経過後にはゼロベースで見直すサンセットルールをあらかじめ設定しておくことが不可欠である。
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