コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 1997年08月号

【OPINION】
長期波動転換期の経営者革命

1997年07月25日  


わが国経済は1993年10月を底に景気回復が続いているが、その実態をみると、業種別のみならず同一業種内でも事業分野別・企業別に好調と不調の明確なコントラストが生じている。このように、現下の景気情勢が「重層的二極化」とも呼ぶべき様相を呈している背景には、その底流に歴史的な長期波動の転換期が到来していることが想定される。長期波動の転換期には技術・政治・経済・社会・金融の各分野を含めて、きわめて多岐にわたる領域で旧来のパラダイムが大きく変わる。このもとで、企業経営者は多面的な変化への対応を迫られており、明暗を分ける要素も重層的とならざるをえない。この結果、頂点と底辺の格差は従来以上に決定的となっているわけである。

では、こうした長期波動の転換期とはいかなるものか。一般に景気循環の長期波動は「コンドラチェフの波」と呼ばれ、50年前後のサイクル・スパンを持つといわれている。こうした50年サイクル説に従えば、現在は第5波の上昇局面の初期にあたるが、確かにこのことを示唆するような各種事象が観測される。コンドラチェフは長期波動を引き起こす重要ネ原因として、(1)技術変化、(2)新しいフロンティア、(3)金生産、(4)戦争と革命、(5)農業、を指摘している。これを現代的に解釈し直せば、(1)と(2)はイノベーション要因、(3)は金融要因、(4)と(5)は政治・経済・社会システム要因、と言い換えることができるが、1990年前後を境に、各ファクターともに世界的な規模で新たな潮流が生じつつある。

まず、イノベーションの面では、情報通信革命が猛烈な勢いで進展している。半導体技術の飛躍的な進歩を契機として、世界的規模でコンピューター・通信機器類が急速な普及をみせている。このもとで、世界各国でオフィスの情報ネットワーク化が進展しているが、アメリカを中心とした先進的企業はそれを業務革新・組織改革に活用することを通じて、飛躍的な生産性向上を実現している。さらには、インターネットの登場・拡大を背景に、サイバースペースというまったく新しいフロンティアも広がりつつある。

金融面では、間接金融から直接金融へという金融取引構造の変化が進行している。この背景には、経済の成熟化・高齢化を背景に金融資産の蓄積が進行するのに伴い、個人の選好がローリスク・ローリターンの預金型資産中心から、投資信託などミドルリスク・ミドルリターンの証券型資産中心に変質してきているとの事情を指摘できる。こうした金融取引構造の変化は、企業にとっては資金調達の重点が銀行借入から株式・社債の発行へシフトすることを意味している。この結果、企業が円滑な資金調達を行うには、積極的な情報開示を通じて、投資家に対する経営の透明性を向上させることが不可欠の要件となっている。

そして、政治・経済・社会システムの面では、共産主義が破綻を迎えると同時に戦後の「大きな政府」の考え方が否定され、市場経済化の潮流が世界的に進展している。現在進行中の市場経済化は、規制緩和を促すことで既存の業種や国境の壁をなくす方向に進んでおり、この点に着目した企業や地域が目覚しい発展を遂げている。業種の枠を超えて競争と融合を進めるアメリカのメガメディア産業の躍進、国境を跨ぐ地域間ネットワークを活かした東アジア地域の高成長が、その代表的な事例といえる。

以上のように現在が長期波動の転換期にあたるとすれば、経営者に求められる使命は現在進行中の潮流変化を読み取り、「革新力」をもって新しい時代への途を拓くことであろう。それは具体的には、(1)情報技術を活用した顧客第一主義の実現、(2)投資家に対する経営の透明性向上、(3)既存事業分野や国籍にとらわれない攻めの事業展開、を柱とする経営革命を遂行することである。こうした観点からアメリカの状況をみると、これら3点を実践する経営者が数多く登場してきていることが、近年における経済活性化のキーファクターであることがわかる。とりわけ注目されるのは、テレ・コミュニケーションズ(CATV)のジョン・マローン氏、AT&T(長距離通信)のロバート・アレン氏など、従来規制の強かった産業から革新的な経営者が登場し、既成の産業の枠組みを超えて新たな産業再編成を主体的に推し進めている点である。

翻ってわが国の状況をみると、ソニー、トヨタといった重層的二極化の頂点に位置する国際優良企業においては、従来型の「調整力」に長けたタイプとは異なる、「革新力」を感じさせる経営者が出始めている。しかし、アメリカの事情と決定的に異なるのは、こうした優良企業のほとんどが製造業であり、規制の多い非製造業では新タイプの経営者はきわめて少ないという点である。日本経済が重層的二極化の状況を脱し新たな上昇気流に乗るためのカギは、規制産業の自己改革能力にあるといっても過言ではない。今後非製造業において、数多くの新しいタイプの経営者が登場してくることを期待したい。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ