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Business & Economic Review 1997年08月号

【OPINION】
FBの市中引受を直ちに実施せよ-ビッグバン時代にふさわしい市場規律の導入と短期金融市場の育成を

1997年07月25日 調査部


Free、Fair、Globalを基本理念として掲げる日本版ビッグバンが、実現に向けて今まさに動き出そうとしている。この改革をより実効性のあるものとするためには、金融機関の活動の場である短期金融市場の整備も忘れてはならない課題である。具体的には、金融市場における最大のプレイヤーの一人である政府に対しても、今後その行動に対して民間と同様の透明性が求められるほか、中核となる短期金融市場商品を育成する必要がある。これらの実現のため、FB(政府短期証券)の市中引受を直ちに実施することが望まれる。

政府の資金調達における市場規律導入の必要性

FBとは本来、国庫の資金繰り、すなわち、各会計年度の途中における歳出と歳入の一時的なギャップを埋めるために発行されるもので、現在、大蔵省証券(通称「蔵券」)、食糧証券(同「糧券」)、外国為替資金証券(同「為券」)の3種類が存在する。これらのうち、為券の発行残高が年々積み上がっており、1997年4月時点でのその金額は約38.8兆円、全国債・FBの発行残高に対する比率は13.6%に達している。為券は外国為替市場介入の原資調達のために発行されており、その実態はFB本来の趣旨と乖離しているが、そのことを別にすれば、FBの最大の問題は、「定率公募残額日銀引受方式(一定の割引率で公募し、売れ残った分を日銀が引き受ける方式)」で発行されており、その割引率は常に市場金利を下回る水準に決められているため、事実上ほぼ全額の日銀引受が恒常化している点にある。すなわち、中央銀行引受による国債の発行は、財政法第5条で明確に禁じられているにもかかわらず、このFBはその例外として扱われ、実際上は、何ら規律を課されることなく、政府が市場金利を下回る低利で長期資金調達を行うことが可能となっているのである。

残念ながら、今般国会で可決・成立した改正日銀法の中には、この点を改める内容は盛り込まれるには至らず、逆に、旧日銀法の条文上には存在しない、FBの引受を明示的に認める文言が組み込まれる(第34条第4項)結果となっている。しかしながら、FBの発行残高の実態が、融通(資金繰り)証券としての本来の性格を大きく逸脱したものとなっている以上、FBの日銀引受は、政府の資金調達における規律の欠如という、きわめて重要な問題にほかならない。中央銀行による国債の引受という、市場のフィルターを通さない政府の安易な資金調達がインフレを助長しかねない点は、内外の歴史的な経験が示すところである。

なお、中央銀行の対政府信用供与に関しては、各国制度の運営上の実態をみても、欧州中央銀行設立を控えた最近のEU諸国の動きからも明らかなように、その目的を問わずこれをより厳格に禁止する方向がグローバル・スタンダードとなりつつある。この点は、外為介入のための資金調達についても例外ではなく、政府の意思決定により政府の勘定において外為介入を実施するために、中央銀行に政府に対して信用を供与させる制度を有する国は、1999年に欧州中央銀行が設立された暁には、欧米主要国の中には存在しないことになる。すなわち、自国通貨売り介入を実施した場合、通貨当局のバランス・シートの拡大という、インフレを助長しかねない副次作用が随伴する可能性がある点に鑑み、欧米主要国においては、政府の勘定で外為介入を実施するのであれば原則として一定額の資金の範囲内で行うか、さもなければ中央銀行のオン・バランス勘定で介入を実施することにより、介入額の累積的な増嵩、すなわち通貨当局のバランス・シートの膨張に歯止めをかけるというシステムが採られているのである。

わが国においては、巨額の発行残高を有するFBは、通貨当局のバランス・シートを膨張させているほか、市場金利よりも低い金利で発行されているため、日銀の資産の健全性をも低下させている。FBの発行が、事実上政府による長期の資金調達となっている以上、少なくとも実態上の姿として、その発行に当たっては、金利入札方式での公募による市中引受とすることによって規律を課すことが望ましいといえよう。

短期金融市場の育成

FBの市中引受は、わが国の短期金融市場育成の観点からも望ましいものである。わが国においては、短期資金の運用手段(短期金融商品)に未だ整備の余地があるとの指摘が従来からなされてきた。短期金融商品として適格であるための条件としては、(1)信用度の高さ、(2)流通性の高さ、(3)商品としての均質性、(4)受け渡しの簡便さ(振替決済制度が確立されているかどうか)、等が挙げられる。現在、これらの条件にもっともかなうと言えるのは、短期国債であろう。可能な限りリスク・フリーに近い短期国債が短期金融市場の中核を形成し、その指標性を高めることができれば、他の金融商品の金利は、この指標金利に、信用リスク・流動性リスク等の面でのスプレッドを上乗せして形成すればよいことになり、短期金融市場全体における金利形成の効率性が高まるものと考えられる。

実際にアメリカでは、これらの条件を満たすTB(財務省証券)が広く流通し、短期金融市場の中核を形成している。96年末時点でのアメリカの主要短期金融市場商品残高をみると、TBの残高は短期金融市場全体(FFおよびレポ、CD、CP、TBの合計)の27.4%を占有するに至っている。

一方、わが国においては、1986年から割引短期国債(TB)が発行されているものの、「借換債」という制度上の性格上、その発行は既発国債のうち償還期限が到来した分の借り換えに限られるため、発行残高の増加には限界があるのが実情である。96年末時点でのわが国のTBの短期金融市場全体(コール、手形、CD、CP、TB、FB、債券現先の合計)に占めるシェアは12.3%にとどまっている。

こうしたなかで、FBは融通証券(資金繰り債)であるため、その制度上の性格はTBとは異なるものの、上記の(1)~(4)の条件のいずれをも満たすため、短期金融市場参加者にとっては、TBと同種の商品として認識されている。短期金融商品としてのFBに対するニーズの強さは、全国債・FBの売買高に占めるシェアの高さ(96年中の全売買高中のシェアは20.8%、うち現先取引高中のシェアは37.5%〈ちなみに96年末時点のFB発行残高の全国債・FBの残高に占めるシェアは10.0%〉)からも明らかである。しかしながら、その最大のネックは、「定率公募残額日銀引受方式」というFBの現在の発行方式に起因する市中流通量の少なさ(96年末時点でのFBの市中流通残高は9,000億円で、その短期金融市場全体〈同上〉に占めるシェアは0.9%)であろう。FBの市中引受を実施することにより、残高40兆円弱の中核的な短期金融商品に成長させることができれば、ひいては円の国際化にも資することになろう。

このほか、手形の流通残高の減少等を受けて、日銀の資金供給オペレーションの際の買い玉の不足も問題となっているが、市中流通量が限られているため従来は売りオペの手段のみとして使うしかなかったFBが、発行段階で市中が引き受けることになれば、買いオペの手段とすることも可能になるため、短期金融市場調節の円滑化にも役立つこととなろう。

FBの市中引受を直ちに実施せよ

以上みてきたように、FBの市中引受は、政府の資金調達における市場規律導入の必要性の点からも、また、わが国の短期金融市場の育成という観点からも、その早急な実施が望まれる。このほか、FBの発行残高の大宗を占める為券の市中引受がなされれば、外国為替市場介入の実施等に伴う会計上の損益を経理するために設けられている「外国為替資金特別会計」の会計上のパフォーマンスを変化させることを通じて、従来政策運営上の費用対効果の分析・論議が殆どなされてこなかったわが国の外国為替市場介入政策の運営スタンスに市場規律を導入する契機になり得るという意義もあると考えられる。

ちなみに、現行制度上においても、根拠法令上は、FBの発行方式としては定率公募方式(政府資金調達事務取扱規則〈大蔵省令〉第12条における「随意引受による発行」)と入札公募方式(同第6条における「割引歩合入札の方法」)の2種類が用意されている。しかもこの省令上、どちらの方式を採用するかは、大蔵大臣の意思決定によることとなっており、その意思決定に基づいて今日に至るまで定率公募方式が採用されているわけである。したがって、FBの市中引受(入札公募方式による発行)は、現行制度上も大蔵大臣の意思決定さえあれば直ちに実行可能なのである。

ただし、FBを、ある時点以降償還期限が到来するすべてのものについて一気に(すなわち2カ月間に)市中に引き受けさせようとすれば、日銀の短期金融市場調節上、支障が出ることも考えられる。しかしながら、そうした問題は、一定期間かけて市中引受を段階的・計画的に進めることにより解決しよう。

本年2月、FBの市中引受の問題に関して、大蔵省と日銀との間で協議の場が設置された。しかし、その結果ないし途中経過については、現在のところ何らわれわれ国民には伝えられてはいない。大蔵省、日銀は速やかに協議を進め、かつ、その内容を公開し、直ちにFBの市中引受に踏み切るべきであろう。
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