Business & Economic Review 1997年07月号
【OPINION】
政策決定への国民参加を-情報公開法の早期制定・審議会公開・公聴会システムの制度化
1997年06月25日
構造改革が本格化に向け始動している。今春以降の主な動きをたどってみると、まず3月28日、新たな規制緩和対象として890項目が加えられ、総数2823項目に上る規制緩和推進計画が閣議決定された。4月17日には、財政構造改革会議から、公共事業、農林、社会保障等、14分野を対象とする歳出削減策の原案が示され、緊縮型の来年度予算編成と、今秋臨時国会での財政改革法案(仮称)の成立が展望されている。明けて5月1日、橋本首相が会長を務める行政改革会議から中間整理が公表され、中央省庁から執行部門を切り離すエージェンシー(外庁)制度導入の方針が打ち出される等、中央省庁再編の方向性が明示された。さらに6月には、金融制度調査会や証券取引審議会等、各審議会からの答申・報告が出揃い、日本版ビッグバンを実現する体制が整う。総じてみれば、強い政治のリーダーシップ発揮のもと、改革に向けたステップはこれまで着実に進展してきた。
しかし、その内容を仔細にみると、問題点は少なくない。
第1は、重要分野での課題先送りである。例えば、3月に閣議決定された規制緩和推進計画をみると、市場の活性化を目指す法人の市場参入問題について、医療分野では97年度に検討、農業分野では98年度末までに結論を得ることとされ、実質上、両市場への法人参入は当面阻止される結果となった。
第2は、アンバランスな改革である。持ち株会社制度の創設や不動産市場の活性化対策等、新たな制度的枠組みは整備される方向にあるものの、新制度の中枢に位置する連結納税制度の導入や不動産保有・譲渡益課税の軽減に関する税制面からの対応は依然遅延しており、所期の成果が達せられない事態が懸念される。
第3は、情勢変化等により方針転換が必要とみられる旧来政策の放置である。典型例として、高速増殖炉の整備を必然とする原子力政策、あるいは採算を度外視した全国高速道路網建設計画が挙げられよう。
これらの根底には、わが国の政策決定過程において、国民参加が大きく制約されているという民主主義の根幹に関わる重大な制度的問題がある。
第1は、政策の審議・決定過程の透明性が低く、国民から提示される各種の批判や提言が必ずしも十分に生かされていないことである。この点、昨年度の経済審議会の成功はきわめて示唆的である。同審議会では徹底した議論の公開を後ろ盾に、理不尽な主張や政治的横車が排除され、画期的な改革案が作成された。
第2は、国民サイドから、旧来政策等の問題点を提起し、新たな方向性を決定する議論の場が用意されていない、あるいは制度上存在する場合でも、国民が随時利用可能なシステムとして定着・機能していないことである。ちなみに、この国民参加に関しては、78年米国カリフォルニア州で、固定資産税減税を求めて提出された住民提案13号の成功が有名である。
このようにみると、実効ある構造改革のためには、デュー・プロセス(公正な手続制度)の確立を軸とする政策決定システムの改革が不可欠であり、とりわけ、次の3制度の整備は緊急課題となっている。
第1は、情報公開法案の早期立法化である。昨年12月に同法要綱案が公表され、現在は97年度中の法案化を目指して最終的な調整が行われている。しかし、(1)同法は橋本政権が掲げる6大改革のなかで行政改革の主柱に位置する、(2)改革に向けた世界的なスピード競争のなかで、わが国はそのスタート時点で大きく欧米各国に遅れている等に即してみれば、その一日も早い立法化は至上命題である。
第2は、審議会等、政策決定過程の公開である。仮に情報公開法が成立しても、政策決定過程への事後的チェックが可能となるのに過ぎず、デュー・プロセス、とりわけ政策決定過程における議論の透明性という観点からみれば、依然不十分である。この点については、すでに審議会等の透明化、見直し等についてとして95年9月に閣議決定されており、その一刻も早い具体化と同時に、その趣旨が他の政策決定プロセスにも均しく反映・徹底されることが切望される。
第3は、公聴会等、国民参加のシステムを、政策決定のプロセスのなかに制度化することである。これによって初めて、問題ある旧来政策の変更等、改革に向け国民から積極的に働き掛ける動きが直接的効果を発揮する途が開かれる。なお、米国の公聴会制度については、一般に、(1)地方ごとに数多く開催される、(2)利害関係人等の制限なく何人でも出席し意見陳述できる、(3)提示された意見が政策決定に反映されたか否かのチェックが行われる等の特徴を指摘することが可能であり、同制度が単なるガス抜き機関でなく、政策決定プロセスのなかで重要な位置づけを占めている点は、わが国でも十分参考にされるべきである。
さらに、こうした政策決定システムの改革は、必然的に現行システムに通暁する行政サイドから一段と積極的な関与を引き出し、改革推進力の増大に寄与しよう。様々な構造問題を抱え、わが国が21世紀に生き残れるか否かの瀬戸際に追い込まれるなかで、改革推進に向けた政・官・民の強力な協力体制の構築は喫緊の課題となっている。