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Business & Economic Review 1997年06月号

【論文】
金融監督政策の新潮流

1997年05月25日 調査部 翁百合


要約

1990年代における不良債権問題の発生は、これまでの金融監督政策について、多くの問題点を顕在化させた。一方で、日本版ビッグバンの進行に伴い、今後金融環境が大きく変化すると予想されるなかで、金融監督政策についても抜本的な見直しが迫られている。また、現在官民の役割分担の見直しが社会全体として大きな課題となっており、公的関与の手法を極力市場メカニズムになじむ手法としていくと同時に、公的関与自体を可能な限り後退させていく方向が標榜されている。銀行監督も典型的な公的関与である以上、そうした視点からも再検討されるべきである。特に、新しく設立される金融監督庁については、組織論が先行したこともあって、これからの金融監督のあり方に関しては、議論の広がりと深まりが欠けている状況である。

まず、将来の監督手法の視点として重要な第1の点は、金融機関の自主的なリスク管理のインセンティブを阻害するような規制手法ではなく、むしろこれを尊重し、市場規律を活かす手法を採用することにより監督上の目標を達成するという点である。こうしたアプローチをインセンティブ・コンパティブル・アプローチという。たとえば、現行のBIS自己資本比率規制は、信用リスク管理に関して一律のリスクウエイトを指定しており、金融機関の内部リスク管理手法と乖離している、将来の金融技術発展とも齟齬をきたす可能性が高い、といった問題点がある。こうした問題点を克服すべく、現在米国では、マーケットリスクに関するプリコミットメント・アプローチが試験的に進められている。このアプローチは、監督当局の役割を後退させ、金融機関の自主的なモデル構築を尊重する手法であるという点で注目に値する。

第2に重要な点は、機能別の監督手法を採用するという点である。金融技術の発展に伴い、債券や株式市場間の関連が密接になるにつれて、従来の銀行や証券会社といった企業組織を単位として考えるアプローチに比べて機能別アプローチはより効率的なアプローチとなっている。今後出現が予想される金融持ち株会社に関しても、持ち株会社自体を包括的に監督するアプローチよりも、機能別アプローチを基本とする方が自由な参入と競争を促進するうえで望ましい。

第3に重要な点は、システム設計上、.セーフティネット+自己資本比率規制.という公的関与を極力削減し、情報開示を拡充することにより、市場の力によって金融機関の健全性が確保できるような環境を作っていくことである。早期是正措置の将来像も、監督当局の判断よりも市場の力に委ねていく方向を標榜すべきであろう。こうした状況では、監督当局の役割は、経営体としての金融機関のコーポレートガバナンスを補完する役割に徹することになろう。

わが国の金融システムを改革していくビッグバンの過程においても、金融監督・規制の従来のあり方を転換し、(1)金融機関の経営のインセンティブと両立する手法としていくと同時に、(2)機能別アプローチの考え方を採用していくことが重要である。そうした手法の延長線上には、常に(3)効率的に金融システムの健全性を図るべく、公的関与を極力後退させていくという視点が必要である。こうした方向感を根づかせるためには、(1)金融機関自身がリスク管理を監督当局を意識した後ろ向きの観点ではなく、収益性と競争力を意識した前向きのものとして位置づけると同時に、(2)会計基準や外部監査の充実などの市場基盤整備を急ぐ必要がある。
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