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Business & Economic Review 1997年05月号

【論文】
わが国農業の現状と展望-構造的「農業問題」への国際的視点からのアプローチ

1997年04月25日 新美一正


要約

わが国農業は未だかつてない試練の時期を迎えている。牛肉・オレンジに始まった農作物の輸入自由化は、ウルグアイ・ラウンド妥結を経て、聖域とされた米の開放にまで及び、国内市場の開放と価格自由化のうねりはもはやとどめようのない段階に達している。一方、国内的には財政事情が悪化するなかで突出した農業予算に批判が集まり、また農業内部からは若年層の農業離れによる担い手不足・耕作放棄等の深刻な問題が現れている。本稿は、こうしたわが国農業が直面する諸問題に対し国際的視点から論点を整理し、わが国農業の将来に向けた展望を試みたものである。

農業を巡る構造的問題はわが国特有の現象ではない。多くの先進国では、価格政策や、関税・輸入制限等の農業保護措置が恒常化し、農業に過剰な資源が投入され農産物過剰とそれによる財政悪化をもたらす農業問題が発生している。発展途上国においては食料不足が顕在化するほどの農業搾取政策が強行され、結果的に工業発展まで制約してしまう食糧問題が発生している。グローバルな意味での構造的農業問題の解決には、先進国・途上国双方が協調体制を構築しつつ、それぞれが農産物需給の不均衡を激化させるように行われている農業への政策的介入を改めることが必要である。わが国がこうした農業を巡る国際協調体制に参画するためには、国内農業を産業として自立させ、保護によらない形で維持・発展させることが不可欠である。

わが国農業(本稿では稲作等の土地利用型農業を念頭に置く)を産業として自立させるには、農地の集約と大規模な土地改良によって農業の生産性を大幅に向上させるしか方法がない。農地価格の高騰を背景に零細農家が自作農に固執する兼業滞留現象こそ、わが国農業の生産性向上を阻む最大の病根である。こうした状況を放置したまま拙速な農業自由化を強行すれば、大規模専業農家の離農を促進して、却って農業生産性向上を阻害するおそれすらある。

わが国農業問題の解決には、農地の枠にとどまらない国土全体における土地利用方式にまで遡った検討が必要である。現実的な政策インプリケーションとして、以下の3ステップによる農地利用方式の改革とそれを踏まえた農業自由化の進行からなるプロセスを提言したい。

1.国土の明確な線引きと農地の農外転用規制の強化(農地価格高騰の抑制)
2.農地整備公社の設立(農地集約のコーディネーション)
3.大規模な農業基盤整備の実施(農業生産性向上の実現)
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