Business & Economic Review 1997年04月号
【PLANNING & DEVELOPMENT】
商店街のサバイバル戦略-活性化実現に向けての7つの条件
1997年03月25日 村田丈二
1.はじめに
ここ数年、商店街の地盤沈下が進んでいる。1982年のピーク時には170万店を超えた小売商店は94年でついに150万店を割ってしまった。わずか10年余りで20万店の小売店が姿を消したことになる。大規模小売店舗法(大店法)の規制緩和に伴う大型店舗の出店攻勢、価格破壊の進展、消費者ニーズの多様化等、中小小売業を取り巻く環境は厳しくなるばかりで、これらの中小小売業により形成されている商店街の衰退に歯止めをかけることはできるのだろうか。本稿ではこのような商店街の問題点に焦点をあて、今後、商店街が生き残るための条件について検討する。
2.商店街形成の経緯
わが国において、現在の小売業の形態は戦後の復興期を通じて形成されたといえる。終戦後、物資が極度に不足し、日常の必需品は配給制のもとで供給されていたが、一方で闇市が発生し、商品が流通するようになった。そのような環境のなかで、小売業は以下の要因により成長を遂げることができたと考えられる。
(1)当時わずかな資金と少人数で営業できたため、参入しやすい業態であった。
(2)中小小売業の適正な事業機会を確保する必要があったこと、雇用機会を吸収する分野としての役割を担っていたこと等の点から、中小小売業は国の商業政策により保護されていた。
(3)戦後の高度経済成長に伴う個人消費の拡大により市場が急速に拡大した。
このような発生経緯や商業政策をみても分かるように、小売業の多くは従業員5人未満のいわゆるパパママ・ストアと呼ばれる中小零細企業で構成されており、94年において小売業全体の4分の3(75.7%)を占めている。
そして、これらの小売店が一定の人口集積地域に自然発生的に商業集積を形成してきたのが全国各地でみられる商店街である。
商店街は、一般に最寄り品(日用品、食料品)、買回り品(衣料品、靴・鞄等)、飲食・サービス、非商店(金融機関、医療機関等)等の業種から構成され、いわば専門店のデパートといえる。地域の消費者にとってはこれらの店が近隣地域に集中していることから、その商店街に行けばほとんどの買物ができるというメリットがあった。
このように商店街は、有利な社会政策のもとで、消費者に近い立地特性、利便性、専門性を兼ね備えていたこともあり、発展してきたと考えられる。
3.衰退する商店街
しかし、国の商業政策の転換、日本の流通システム(慣行)の変革に対する内外からの圧力、消費者ニーズの変化等、経営環境が変化するなかで、中小小売業の経営は厳しくなってきた。国の商業政策は中小小売業の保護一辺倒の立場から、徐々に市場の競争原理に適応できるような中小小売業の体質づくりに対する支援へと移行してきた。これにより中小小売業はもはや国の保護政策だけに依存したままでは存続することが困難になった。大店法の規制緩和はまさに商業施策転換の象徴的な動きの1つであり、これにより大手資本と中小零細企業との実力格差も歴然とするようになってきた。
このような状況のもとで、82年~94年では従業員数1~2人の商店は27万1,000店(82年対比26.2%)、3~4人の商店は4万2,000店(同10.1%)減少している。その一方で、従業員数10~19人、20~49人、50人以上の商店数は同時期において、それぞれ65.3%、72.8%、57.8%増加しており、5人未満の商店との格差が鮮明になっている(図表1)。また、従業員規模別に82年~94年の年間販売額構成比の推移をみると、従業員5人未満のシェアは32.9%から23.3%へ低下し、従業員10人以上では45.2%から56.5%へ上昇している(図表2)。
従業員規模からみてシェアを伸ばしている小売業は主にスーパー等の大型店と考えられ、商店街と競合する食料品、日用品等、最寄り品の領域で商店街のシェアを奪いながら勢力を拡大していると考えられる(図表3)。
商店街は中小小売業の集積により形成されているため、構成している個々の商店の活力低下や空店舗の増加は商店街の地盤沈下に直結する。最近の商店街の景況に関するアンケート調査(日本商工会議所)においても、繁栄していると回答した商店街は3%にすぎず、停滞ぎみ・衰退傾向であるという商店街は89%に上っており、商店街の小売店経営者も商店街の衰退を実感している(図表4)。
4.商店街の衰退要因
そこで、商店街が衰退してきた背景について、商店街を取り巻く外部環境要因と商店街経営にかかわる内部環境要因とに分けて考えてみる。
1)外部要因(商店街を取り巻く環境変化)
(1)大店法の規制緩和に伴う大手の攻勢
まず第1に、大店法の規制緩和による影響がある。大店法はそもそも戦後の中小小売業に対する保護政策的側面を踏襲したものであり、ある意味で中小小売業の経営を外部環境から守ってきたといえる。
しかし、90年の大店法の規制緩和、92年の改正大店法の施行、94年の第3次規制緩和措置等を機に、中小小売店への保護政策には実質的に終止符が打たれたと考えてもよいだろう。
大店法の規制緩和に伴い、大規模小売店舗の出店件数の増加、大手スーパー等の営業時間延長等、大手小売業の新たな動きが活発化している。最近のスーパーに対するアンケート調査では、3年前に比べてほとんどの店舗で営業時間を延長していると回答した企業が34.3%もあった。また、96年夏(6月~8月)スーパー大手各社は、営業時間を午後10時まで延長する店舗を大幅に増やしており、これらの夜間営業店舗の売上は好調だったといわれる。
一方、中小小売店の多くは家族経営であり、営業時間延長にも限界があること、従業員の交代制やパートの活用等による人件費の増加を吸収するほど経営状態に余裕がないことからこのような状況への対応は難しい。
(2)価格破壊の進展
第2に、内外価格差に対する認識の高まり、流通構造の変化、円高の進行に伴う低価格輸入品の増加、ディスカウントストアを中心にした価格競争の激化等を背景に、商品の低価格化が、ここ数年で急速に進行してきたことである。
価格破壊は、まず第1段階では安い方がよいという考えが支配し、商品の低価格化を促進した。しかし、低価格化が一巡すると次にはただ安くても品質が伴わなければ消費者ニーズを充足できないという状況に変わり、価格破壊が第2段階に突入したことを示している。この背景には、近年の海外旅行の急増、輸入品の増加により消費者にとって高級品やブランド品が身近なものとなり、品質のよいものが安価で購入できるようになったこと、それに伴い商品を見る目を養う機会が増えてきたこと、各種メディアを通じて商品情報が容易に入手できるようになったこと等がある。このように消費者ニーズは低価格プラス相応の品質といった両者のバランスを重視したものへと移行してきている。
(3)消費者ニーズの多様化
第3に、消費文化は成熟期を迎え、消費者の欲求は物質的な豊かさから精神的な豊かさや自己の確立へとそのウエートが移り、消費者のニーズの個性化・多様化が進んでいることである。消費者ニーズは商品そのものへのこだわりだけでなく、買物手段においても多様化してきている。例えば、通信販売、訪問販売等の無店舗販売や配達形式の生協の利用が増え、消費者は自分のライフスタイルやニーズに合った独自の手段で買物をする傾向が強まってきている。通信販売は、テレビ・雑誌等の広告や魅力あるカタログ等で消費者に強くアピールし、働く女性を中心に時間を効率的に使いたい人等に利用されている。生協は、定期的に自宅まで配達してくれる利便性や健康食品・自然食品に対するニーズの高い主婦層を中心に支持されている。 また、車社会の進展で自家用車の保有率が年々高まり、それとともに買物に自家用車を利用する比率が高くなってきている。さらに、居住地域の郊外化が進むことにより、郊外に大規模駐車場を整備した大型小売店が相次いで進出し、これに伴い郊外に居住する消費者はもとより都心部の居住者でさえも郊外にある大型小売店へ買物に出るという動きもみられ、消費者の買物行動は広域化している。
(4)新業態の勢力拡大
第4に、大店法の改正や価格破壊の進展、さらに消費者ニーズの変化等を背景に新たな形態の大型店やコンビニエンスストア等の新業態が急速に勢力を伸ばしてきたことである。消費者ニーズの変化は、価格、商品の品質、商品の調達手段等の面で顕在化してきている。このような需要サイドのニーズに対して、低価格を訴求したディスカウントストア、スーパー、ロードサイドショップ、顧客の利便性を追求したコンビニエンスストアや無店舗販売業、専門性を強みにニッチなマーケットを狙う専門量販店(カテゴリーキラー)等、新たな業態が成長してきている。
2)内部要因(商店街経営における問題点)
商店街の衰退は、確かに外部環境変化による影響も否めない。しかし、それに加えて、こうした急激な外部環境変化への対応が遅れたこと自体に商店街衰退という問題の本質が見える。これは旧態依然とした経営からの脱却を図らなかった個々の小売店の経営上の問題であり、また商店街全体としての対応ができなかった組合のマネジメント力の問題でもある。
(1)商店街全体の集客力の欠如
第1に、商店街に集客力のある中核施設や魅力ある個性が欠如していることである。ここ数年新たに立地された大型商業施設では単に買物をできる小売機能に見る、体験するといったアメニティ機能を付加したものが多く見られるようになってきた。これらの施設には多様化した消費者ニーズに対応するためテーマ性を持たせたり、来街者の滞留性を強めるなど様々な集客装置がビルトインされている。また、そのような演出力のない場合は、徹底した低価格化(エブリデイ・ロー・プライス等)や専門分野への特化が集客装置になり得る。このような特徴を持たない商店街は消費者の流出に歯止めをかけられないのが実情である。
(2)個別店の魅力の欠如
第2に、個々の商店が消費者ニーズの変化に対応した魅力を創出できなかったことである。元々地域内では中心的な商業集積であったため、競合する商店も少なくいわば殿様商売ができた。特段の経営努力がなくても事業を継続することに支障はなかった。しかし、このような経営環境のなかで、消費者ニーズに合った商品構成、価格面での対応、店づくり(店舗レイアウト)等の経営努力が欠如していたため、結果的に消費者の商店街(中小小売店)離れを加速させてしまったと考えられる。
(3)後継者不足と空店舗の増加
第3に、廃業あるいは移転・倒産等によって空店舗が増えてきたことである。
95年の商店街実態調査(中小企業庁)によると、空店舗があるという商店街は全体の7割近くもあり、5割弱が5年前と比べて増えている。空店舗増加の主因は後継者不足による廃業・移転である。
特に家族経営の中小小売店の場合、先行き不透明な状況のなかで、後継者(経営者の血縁者)に事業を継承することが困難になりつつあり、廃業や転業を余儀なくされている商店も少なくない。このため、自社の経営状況が悪化していても、あえて対策を講じる意欲を持たず、成り行きにまかせている経営者も多い。また、空店舗の増加により商店街内の業種構成に偏りが生じ、商店街全体の活気を低下させている。
(4)商店街組織におけるリーダーの不在
第4に、個の集団である商店街組織を牽引するリーダーシップの欠如である。大型店の出店攻勢やコンビニエンスストア等の新業態に対抗するには、商店街としてある程度まとまった意思統一がなければ実行することが困難である。しかし、多くの個別店から成る商店街では、組合員の総意や協力を得ることが難しく、また、商店街組合を統率できる人材も不足していることから、活性化への取り組みが進まないのが実情である。
5.商店街活性化の方向性
それでは、このような状況のもとで、商店街がかつての活況を取り戻すにはどのような対応が必要なのか。
1)商店街活性化における問題点
現在みられる商店街活性化への取り組みは2つに大別することができる。1つはコミュニティホールの建設、駐車場の建設、アーケードの改装、道路の舗装等のハード面での整備で、もう1つはスタンプ事業、ポイントカード事業、各種イベントの開催、インターネットを活用した﨣ュ信・通販(バーチャル・モール)等のソフト面での事業である。特に最近は、インターネットの活用等、情報化を進める動きがみられるようになってきている。こうした活性化策により成功した事例もある一方で、いっこうにその効果がみられない商店街も多い。それでは活性化の阻害要因は何であろうか。活性化の事例をみる限り、その取り組み方にはいくつかの問題点がみられる。
(1)行政への依存体質
まず第1に、国の補助金に依存した活性化事業が多いことである。ハード面での整備には多額の投資が必要となるが、これらの事業は国からの助成もあり、商店街組合の負担も軽減される。しかし、なかには明確な将来ビジョンを定めず国からの補助金だけをあてにした活性化策も目につく。このような事業の多くは、真の活性化対策として根付かず、単発的なものに終始し、所期の効果を得ることは難しい。
(2)自己責任の回避
第2に、商店街活性化を進めるに当たって、総論賛成、各論反対によりなかなか前進しないケースが多いことである。これは、議論はしても、実際には自店が関与すること(労働力の提供、資金負担)を極力回避したいということに他ならず、計画を実現する際の足枷になっている。
(3)独自性の不足
第3に、横並び意識が強く、他の商店街を真似たものが多いことである。
筆者も全国各地の商店街の活性化事例を数多く研究したが、成功事例として紹介されている商店街を訪れると、各地から商店街振興組合の視察団がひっきりなしに来るという話をよく耳にする。このような商店街の成功要因について学ぶ姿勢は必要だが、ただ外見だけを模倣したり、自分の商店街に馴染まないものを導入しても必ずしも効果を得られるとは限らず、無駄な投資に終わる可能性もある。
(4)現実離れした計画
第4に、商店街の現状や外部環境の変化に対する認識が足りないため、商店街の実態と活性化計画との乖離が大きくなっていることである。実態にそぐわない計画づくりをしても、絵に描いた餅に終わってしまう可能性が大きい。
2)商店街活性化のための7つの条件
以上の点を踏まえると、商店街が生き残りをかけて活性化を進めるに当たり、以下に掲げた7つの条件が必要である。 〈基本方針-戦略-〉
(1)ビジョン(将来あるべき姿)の明確化
商店街活性化策において現実離れした計画が策定されるケースが多いが、これは、活性化の着地点を見極めずに取り組んでいるからであり、例えば、以下のような方向性を定める必要がある。
-どのようなタイプの商店街を目指し、ターゲット顧客を誰に絞るのか
・ 町内会型(従来からある近所の商店街タイプ)
・ 専門店街型(人気のバッグ店キタムラを擁する横浜元町のように街全体がブランド化したタイプ)
・ ファッションストリート型(大阪のアメリカ村、原宿の竹下通りのような流行の発祥地となるようなタイプ)
・ テーマ型(横浜の大倉山商店街のように街全体をギリシャ風に変えるタイプ、歴史的背景を反映させるタイプ等)
(2)自己完結型の事業展開
第三者(行政)による支援を期待するばかりではなく、当事者意識を持ち自己責任のもとで事業に取り組む必要がある。活性化事業推進に伴い発生する事項(可能性調査、許認可申請等の事務、組織化等)に対して労働力の提供や資金負担をすることは当然のことである。
(3)専門性・独自性を生かしたニッチ戦略
自店または商店街の強みを活かせる領域(分野)や方法で活路を見い出すことである。 小売業において日常性、多様性、専門性、独自性等、すべての特性を併せ持つ業態は実際には存在せず、各々の業態が相互補完をしながら共存しているともいえる。
大手スーパーやコンビニエンスストア・チェーンは規模の拡大と合理化のプロセスにおいて、不必要な機能、商品、サービスを徹底排除しているが、その半面消費者にとっては必要な部分までが失われていることもある。例えば、コンビニエンスストアは効率性追求の結果、販売はセルフ方式となり、陳列される商品は主たる顧客層である10~20代向けの売れ筋商品が中心になり、また生鮮食品は基本的に置かれていないなど、すべての消費者のニーズに対応しているとは言い難い。販売方法についてみれば、コンビニエンスストアに不足する機能を持つのが、対面販売をする百貨店であり、商店街であるわけだ。
したがって、商店街(個店)の特性(強み)を発揮すれば大手が放棄した、あるいはカバーし切れなかったニッチ分野での存続・発展の余地は十分残されていると考えられる。
〈方法論-戦術-〉
(4)マーケット(消費者)に目線を合わした事業展開
他の商店街の事例を意識するあまり、同じような活性化策に走るケースが散見されるが、これでは独自性を発揮することはできない。また、行政からの助成を前提に計画を検討しても、そこから生まれてくるプランに斬新さは乏しい。なぜなら、補助金制度にかかわる事業には必ず助成対象、助成要件といった制約があり、対象事業に枠組みが設定されるからである。これではマーケットが求めるニーズに必ずしも適確な対応ができるとは考えられない。
したがって、商店街が消費者から認知されるような街づくりを行うためには、消費者と同じ目線に立った発想で事業展開を検討するべきである。そして、消費者ニーズに合致し、実現性があるならば斬新なことにも積極的にチャレンジすることが必要と考えられる。
(5)活性化事業の決め手は機動力と実行力
活性化事業の阻害要因の1つに総論賛成、各論反対という常套的なパターンがあるが、結論から言えば、組合員全員の総意を得て事業を進めるということは極めて困難である。反対派や無関心派を啓蒙し、説得工作等に時間を浪費するぐらいなら、参画意欲のあるメンバーだけで実現可能なことから実行する方が得られる果実は多いと考えられる。また、少人数で取り組む方が機動性があり、実行に移しやすい。その結果、部分的であれ活性化事業で実績が上がれば参画しなかった組合員への動機づけにもなる。
(6)空店舗も商店街の経営資源 空店舗の存在は商店街にデッドスペースをつくり、数が増えれば商店街の活気をそぐなど、悪影響を及ぼす懸念はある。もとより、商店街の経営実態からみれば、ある程度空店舗が生じることは避けられないといえよう。しかし、全体のビジョンや事業方針を考慮せず無理に店舗の補充を行っても期待される効果は得られない。むしろ、活性化事業に有効な利用方法を検討する方が得策である。
(7)外部の経営資源の有効活用
大型店舗の進出に反対するばかりでなく、相手の強みを生かして、活性化を図る方法もある。周辺の商店街、大型商業施設、レジャー施設等の集客施設を活用することにより相乗効果を狙うことも可能である。また、周辺にある病院、学校等の公共機関を新たなマーケットとして需要を開拓することもできる。視点を変えれば外部には意外に有効な経営資源が眠っている。
3)商店街活性化に対する具体的方策
そこで、以下ではこれらの条件を踏まえて、想定されるいくつかの具体的活性化方策のなかから、より現実的で、実現性が高いと考えられる方策の1つについて検討してみた。
イ)別会社による事業展開
行政の活性化事業に関する支援は基本的に商店街振興組合という組織が取り組むことが前提であるため、組合組織での意思統一ができず、実現に至らないのが実情である。
そこで発想を変えれば、組合という組織の枠組みにとらわれず、一部の有志が参画することにより計画を実践する手法を採ることの方が現実的な解決策と考えられる。具体的には、参画者のインセンティブを高めるとともに、事業に対する責任を課すことが可能な手法として、一部の商店が出資し、活性化事業を運営する別会社を設立するというスキームがある。この手法には以下のような特徴がある(図表5)。
(1)あくまでも自己責任のもとで行う事業であるから、組合全体の総意を得る必要もなく、根回し、個別商店の説得といったプロセスは不要であり、それだけ実行に移しやすい。
(2)参画者が自ら出資するため、事業リスクを負う半面、利益を出せばリターンを得ることができ、通常の組合活動に比べて参画者のインセンティブが高まる。
(3)出資者自らの利益を生むとともに、他の活性化事業に必要な資金を捻出することもできる(組合への投資)。
(4)事業の位置付けや進め方にもよるが、個別店(個人)の利益のみならず、商店街の集客力向上にも寄与することが期待できる。
(5)新会社を活用して、自店のマーケティングに役立つ情報収集、情報発信もできる(アンテナショップとしての機能)。
ロ)別会社方式による具体例
そこで、具体的に想定される事業パターンをいくつか考えてみたい。
(1)ケースA:組合活性化事業の継承
スタンプ事業、ポイントカード事業、駐車場運営等の従来から商店街組合で取り組んでいる事業を別会社に移行し専門的に行うケースである(図表7)。このケースには、以下のような特徴がある。
・ スタッフは組合員以外にプロパーの従業員を雇用し、管理・運営を任せることにより、事業効率を上げるとともに、組合員のボランティア運営における諸問題を解決する。
・ 基本的に組合が従来から取り組んできたソフト事業を中心に継承するので、比較的リスクが少なく、かつ手がけやすい。
(2)ケースB:関連事業の運営
出資者の事業または商店街の中核的な業種(食品・日用品等の最寄り品)に関連のある事業を展開するケースである。このケースには、以下のような特徴がある。
・ 出資者の商店に関連のある事業であるため、自店との相乗効果が期待できる。
・ 夜間営業ができない等、商店街の弱みを補完できる。
ケースBに関する具体的な事業展開パターンを示すと、以下のようなケースが考えられる。
(例1)コンビニエンスストア方式による夜間営業
・ 一般のコンビニエンスストアのような売れ筋商品に偏った品揃えではなく、むしろ商店街で日中取り扱っている生鮮食品類を中心に、夜間でも高品質な食材を購入できることを強みとする。
・ ターゲット層は、働く女性や単身赴任者、近隣の主婦等である。
(例2)生鮮食品・給食・惣菜等の宅配事業
・ 手法は、昔から中小小売店が行ってきた御用聞きと同様のパターンではあるが、商店街の営業時間外に特定の顧客層をターゲットに行う点が異なる。
・ 配達により商圏が従来の近隣地区から広がるため、商店街のマーケティング活動(PR)にも寄与する。
(3)ケースC:新規事業の運営
出資企業の事業とは無関係、あるいは商店街に不足している業種等、新規事業を外部の第三者と共同で行う。
・ 商店街または出資企業には運営ノウハウのない事業であるため、その分野で実績のあるパートナーとの共同経営を通じて、専門知識、運営ノウハウ等を取得する。
6.おわりに
以上のように、商店街が直面している課題は山積みの状況であるが、商店街の主たるマーケットにおいては、今後、大手スーパー、コンビニエンスストア・チェーン、ディスカウントストア等の攻勢が強まることに加えて、産地の生産業者、中間卸等のいわゆる川上部門からの進出や異業種からの新規参入も交えた競争が繰り広げられることも考えられ、商店街が生き残るための条件は一層厳しいものになるだろう。
しかし、目先を変えて社会環境をみると、高齢化社会の進展に伴い購買行動にも変化が生じることも想定される。例えば、買物に車が必要な郊外型のスーパー、セルフ方式で売れ筋商品しか置かれていないコンビニエンスストアから、徒歩でアクセスでき、対面販売による買物の楽しさもある近隣商店街へと顧客が回帰することも考えられる。
中小小売店が今後もある程度自然淘汰されていくのは必至であるが、一方商店街の存在がわが国の社会生活においては不可欠であることにも変わりなく、そのことを念頭において商店街の今後の奮起に期待したい。