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Business & Economic Review 1997年01月号

【論文】
97年度経済見通し-好調・調整が混在する複合景気

1996年12月25日 調査部


1.わが国経済の現状

(イ)96年度のわが国経済は、夏場にかけて足踏み感がみられたものの、秋口以降は持ち直しの動きがみられる。

まず、家計部門では、食中毒発生の影響が個人消費の一時的な落ち込みをもたらしたものの、秋以降は次第に持ち直す方向にある。すなわち、百貨店売上高は全国ベースで7月には前年割れの状況となったが、8~9月には再び前年比プラスとなった(図表1)。

また、チェーンストア売上高についても、7月に前年比で大幅な落ち込みを記録したが、8月にマイナス幅は縮小し、9月には若干ながら前年を上回る水準に戻っている。こうした消費の底堅さの基本的背景には、所得・雇用環境が回復傾向にあることが指摘できる。すなわち、生産活動が回復基調を示すもとで、所定外労働時間の増勢を映じて所定外給与が増加する方向にあることに加え、雇用者数も緩やかな増加傾向に転じている(図表2)。また、住宅投資についても、低金利・消費税率引き上げ前の駆け込み需要等を背景に、96年度上期の住宅着工戸数は年率ベースで平均160万戸を上回る水準で推移しており(図表3)、当面は超低金利が維持されるとみられるもとで、年度内はこうした高水準が持続する見通しである。

また、企業部門については、生産活動の緩やかな回復が持続している。在庫調整の進展具合をみると、縦軸に在庫の前年比伸び率、横軸に出荷の前年比伸び率をとった在庫循環図によれば、鉱工業全体では、95年7~9月(図表4)にそれまでの〓積極的な在庫積み増し局面〓から〓意図せざる在庫積み上がり局面〓に入ったものの、96年7~9月には出荷の伸びが在庫の伸びを上回り、在庫調整の終了を示唆する状況にある(図表4)。財別には、公共投資・住宅投資の増勢を背景とした建設財分野、さらには、情報関連機器の好調・設備投資の回復等を背景とした資本財分野において、在庫調整がすでに終了している。また、調整が遅れていた生産財分野についても、半導体・洋紙等で在庫がなお過剰の状況にあるが、鉄鋼・化学など素材型産業を中心に在庫調整が進展してきており、市況も持ち直す方向にある。こうしたもとで、鉱工業生産指数は緩やかながらも回復傾向にあり、96年4~6月期は前期比▲0.3%となったものの、7~9月期には同1.6%と持ち直し傾向にある。さらに、予測指数を用いて10~12月期を展望すれば(12月は11月比横ばいと想定)、同2.9%のプラスと回復傾向が続く見通しとなっている。また、企業の収益体質も改善傾向にあり、全産業ベースの損益分岐点売上高比率の推移をみると、95年中頃以降改善傾向が明確化しており、ピーク時(93年10~12月期)には91.9%であったものが、利払費軽減に人件費抑制の効果が加わって96年4~6月期には87.0%まで低下してきている(図表5)。こうしたもとで、設備投資も回復基調が持続しており、最近の各種機関のアンケート結果によれば、大・中堅企業の96年度設備投資は前年度対比(図表5)(図表6)6~7%の伸びとなる見込みである。

一方、公共部門については、昨年9月の補正予算の効果剥落に加え、本年度当初予算の成立が遅延したこともあって、公共工事請負金額は4月以降8月まで前年比マイナスの状況が続いてきた。もっとも、9~10月には当初予算成立遅延の悪影響が薄れるもとで、前年比でプラスに転じている(図表6)。

(ロ)このように、96年前半の景気を牽引してきた公共投資が頭打ちに傾向にあるにもかかわらず、景気の緩やかな回復基調が持続しているのは、以下の3点に求められる。

第1に、過剰資本ストック、過剰負債等バブル期の負の遺産の調整が進展してきている。バブル崩壊後の数年にわたる調整により、91年7~9月期には7.6%であった資本ストックの伸び率は、96年4~6月期には3.8%まで低下してきており、これは期待成長率2%に見合った資本ストック伸び率(4.1%)を既に下回っている(図表7)。こうした状況下、(図表7)ストック調整圧力はほぼ消滅しつつあると考えられ、景気が若干減速したからといって、設備投資が再び大幅な減少傾向に転じていく可能性は小さいと判断される。企業のバランスシート調整についても、大企業・製造業を中心に徐々に進捗する状況にある。すなわち、長期金融負債残高の経常利益に対する倍率を業種別・規模別にみると、大企業・製造業でほぼ正常水準にまで低下しているほか、建設・不動産業を除く非製造業でも相当程度低下してきている(図表8)。

第2に、移動体通信、大規模店舗小売分野を中心とした規制緩和の効果が顕在化してきている。とりわけ、携帯電話の売切り制解禁を契機とする移動体通信市場の急拡大、大店法の段階的緩和を受けた大型小売店の新規出店増加などに、規制緩和のプラス効果が明確化してきている。ちなみに、経済企画庁の試算によれば、90年度以降の規制緩和の景気刺激効果は年平均で7.9兆円、GDP対比では1.69%となっている(図表9)。(図表9)

第3に、低金利効果が景気の下支え要因として作用している。超低金利政策の継続は、まずは住宅投資を刺激しており、96年度上期の着工戸数163万戸のうち、18万戸が金利低下によるものと試算される(図表10)。また、金利低下は投資採算(固定資産収益率-長期プライムレート)の改善を通じて、企業の設備投資増加に大きく寄与している(図表11)。

ハ今後の景気動向を展望すれば、公共投資の減少が景気の足を引っ張るものの、上述の3つの要因がプラスに作用し続けるもとで、消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあって、96年度いっぱいは緩やかな回復基調が持続するものとみられる。こうしたもとで、97年初めに編成予定の補正予算(真水ベースで2兆円の公共投資追加を想定)を織り込めば、96年度の実質経済成長率は 2.6%と昨年度からのゲタ(2.2%)の影響もあって、潜在成長率(2.4%)を上回る成長を達成する見通しである。

2.新年度経済の特徴

(1) 回復基調は持続

(イ)では、97年度の経済はどのような展開が予想されるであろうか。まず、金利低下による景気刺激効果が限界に近づいていることに加え、バブル崩壊以降景気刺激を目的に拡張的スタンスを採ってきた財政が緊縮スタンスに転じることで、この面からのマイナス影響が懸念される。

第1に、公共投資が成長抑制要因となる見通しである。97年度当初予算については、国の一般会計の公共事業関係費、地方単独事業がともに前年度対比実質伸び率がゼロとなる見込みである。一方、96年度の公共投資は、(1)95年度二次補正による公共投資追加の繰り越し分に加え、(2)年明け後に編成予定の96年度補正により2兆円規模が積み増される見込み(図表12)である。この結果、97年度の名目公共投資伸び率は96年度補正後(進捗ベース)対比ほぼゼロとなり(図表12)、消費税率引き上げによるデフレーター上昇を勘案すると実質ではマイナスになる見通しである。

第2に、消費税率の引き上げ(3→5%)がマイナス要因として作用する。マクロモデル・シミュレーションによれば、消費者物価の1.5%ポイント押し上げを通じて、個人消費の年度伸び率を0.6%ポイント押し下げるとの結果が得られる。また、住宅投資を0.8%ポイント、設備投資を0.3%ポイントそれぞれ押し下げることなどにより、実質GDP成長率は0.5%ポイント低下する。これに96年度内に発生するとみられる駆け込み需要の反動減を加算すると、トータルで成長率を0.7%ポイント押し下げることとなる(図表13)。(図表13)

(ロ)このような財政スタンスの緊縮化に伴い、97年度経済は前年度に比べ成長ペースが鈍化する可能性が高い。とりわけ、消費税率引き上げのデフレ影響が大きく現れる年度上期の減速は不可避であろう。しかしながら、以下の要因を勘案すると回復基調自体が崩れる公算は小さいと判断される。

第1に、ストック調整圧力の減衰である。すでにみたように、バブル期に積み増された過剰資本ストックの調整はほぼ終了しつつあり、循環的には設備投資はすでに回復局面に入っているとみられる。すなわち、ストック調整モデルにより98年度までの伸び率を展望すると、期待成長率が2%にとどまったとしても、年平均5%弱の伸びを確保できる見通しである(図表14)。このもとで、97年度についても基本的には設備投資の底堅い回復基調が見込まれよう。

第2に、為替相場が円安圏内で推移すると予想されるもとで、企業業績の改善基調が持続するとみられる。新年度の為替動向については、(1)内外金利差が縮小傾向にあること、(2)経常黒字の縮小傾向にブレーキがかかること、等を勘案すると95年半ば以来の円安傾向に歯止めがかかり、110円前後で推移する可能性が高い。すでにみたように、企業の収益体質が改善傾向を示すもとで、円安基調は追い風となり、企業業績は4年連続の増益を維持する見通しである。なお、マクロモデル・シミュレーションによれば、10円の円安は企業収益(経常利益)の増益率を3.9%ポイント、実質成長率を0.6%ポイントそれぞれ押し上げるとの結果が得られる(図表15)。ただし、素材産業や非製造業にとっては交易条件悪化を通じてマイナス影響をもたらすなど業種別にバラツキがあるほか、従来円安のメリットを多く受けてきた大企業・加工型製造業にとっても、国際水平分業体制を構築してきた結果プラスの度合いは低下してきているとみられる。

第3に、情報化の着実な進展を背景に、情報通信産業が引き続き景気を牽引する見通しである。すなわち、93年央以降景気回復の牽引役であった半導体分野については、市況の悪化を背景にメモリーを中心として生産調整が顕在化してきているものの、携帯電話が急成長を続けているほか、インターネットブーム等を背景にパソコン売り上げも好調に推移しており、全体としての情報通信産業の景気牽引力は依然として失われていない(図表16)。今後を展望しても、パソコン、ケーブルテレビの普及率などが米国を大きく下回るもとで、わが国の潜在的な情報化需要は極めて大きいといえる(図表17)。とりわけ、96年秋には今世紀最後の大型家電と呼ばれるDVD(デジタルビデオディスク)が登場したほか、衛星デジタル放送パーフェクTVの放送が開始された。97年度にはDVDプレーヤーの販売好調が期待されるほか、衛星デジタル放送もさらに2社の参入が予定されるなかで、新たな情報化市場が広がっていく見通しである。

(2) 構造調整は途半ば

(イ)以上、来年度のわが国経済は上期のペースダウンは不可避ながら、総じてみれば回復基調が持続する見通しであることをみてきた。しかしながら、新たな成長に向けての構造調整は依然途半ばであり、回復の強さや広がりについてはなお不確実性が残るとみておく必要がある。

第1に、資産デフレが景気の足を引っ張る状況が持続する公算が大きい。バブル崩壊後の持続的な地価下落により、地価は名目GDPとの関係から見る限りバブル期の地価高騰分は解消されたといえる(図表18)。しかしながら、商業地を中心に地価の下落基調に歯止めは掛かっておらず、次の要因から97年度中も地価の弱含み傾向が持続する公算が大きい。一つには、地価の決定メカニズムに市場原理が働くようになってきているためである。従来わが国の地価は土地神話のもとで右肩上がりが当然視されてきた。しかしながら、バブル崩壊後の地価は収益還元価格により決定される本来の方式に近づいており、地代(賃貸料収入)が地価を決める最大の要因となってきている。このもとで、近新大(近い・新しい・大きい)といわれる収益性の高い物件には下げ止まり感がみられるが、それ以外については地価の下落傾向に歯止めがかかっていない。二つには、大幅な内外地価差が残存しているためである。企業活動のグローバル化が進展するもとで、日本企業がオフィス・工場の立地を決定するに際して、国内だけではなく海外もその候補地として考慮する時代となっている。こうした状況下、わが国(東京)の地価は香港を除く世界の諸都市対比割高感が強く(図表19)、企業の海外流出が促進される環境にある。企業の海外流出はわが国の土地に対する需要減少要因となるため、地価の上昇が抑制されるわけである。三つには、不良債権処理に伴う担保不動産の売却圧力が地価下落要因として作用することが懸念される。不良債権処理機構の担保不動産の売却はこれからであり、これによる土地の供給増加が地価下落に働くことは不可避である。

こうした地価の下落は、(1)土地を多く抱かえる建設・不動産業界、(2)土地担保融資に依存してきた中小企業、(3)不良債権処理に悩む金融機関を中心に、直接的なマイナス影響が及ぶことが懸念される。このほか、地価の下落は時価と簿価の差額である含み資産の減少を意味するため、リスク負担能力の低下を通じて企業活動の慎重化をもたらす可能性が高い。ちなみに、試算によれば、90年末には521兆円あった日本企業の土地の含みは、97年末には191兆円まで減少する見通しである(図表20)。

(ロ)第2に、規制分野の低生産性が温存されるもとで、高コスト体質の是正になお時間がかかる見通しである。ここ数年来円高が進行するもとで、内外価格差の拡大がわが国の高コスト体質を象徴する現象として注目されてきたが、昨年央以降の円高修正・円安基調定着のもとで、内外価格差は表面上是正される方向にある。しかしながら、内外価格差は為替変動による変動的部分と国内産業の生産性格差による構造的部分に分けられ、後者については依然是正されていない点を看過すべきではない。すなわち、国際間で一物一価の原理が成立する限り、為替相場は中期的には貿易財の購買力平価に落ち着くことになる。しかし、内外価格差は貿易財以外も含む産業全体の物価水準の比較によるため、貿易財と非貿易財の間の生産性格差が国際的にみて過大である限り、構造的な内外価格差は残存することとなる。そこで、87年度を起点として米国を基準とした場合のわが国の内外価格差の変化をみれば、96年度には円高是正により為替相場のオーバーシュート(実際の為替相場と貿易財の購買力平価との乖離)による内外価格差は解消されたものの、国内産業の生産性格差を背景とする内々価格差に起因する部分は是正されていない(図表21)。こうした内々価格差を生んでいる主因は通信・物流・エネルギー分野を中心とした公的規制の残存に求められる。すなわち、こうした規制分野における競争は依然不十分といわざるを得ず、ほぼ完全競争に晒されている貿易財分野に比べて生産性上昇率が劣っているのみならず、国際的にみても低位にとどまっているためである。わが国の高コスト体質の根因である規制分野の低生産性が是正されない限り、わが国経済全体の活性化は困難といわざるを得まい。

第3に、雇用情勢の改善が遅れ気味となる公算が大きい。雇用過剰感がピークを打つもとで雇用情勢は当面の最悪期を脱したものとみられるが、大企業を中心に過剰雇用を大量にかかえるもとで急速な好転は望みがたい状況にある。すなわち、過去のトレンド的な労働生産性上昇率を前提にして過剰な就業者数の割合を試算すると、95年度上期を底に過剰の度合いは薄れる方向にあるものの、依然として相当な割合である(図表22)。さらには、労働需給のミスマッチの存在も雇用回復力を弱める要因として作用する公算が大きい。すなわち、労働需要面では、大企業が雇用を抑制する一方で中小企業が増やすなど(図表23)、部門別に大きなバラツキがある一方で、労働供給面でも自発的失業者が増加する傾向にある(図表24)。こうした状況下、失業率が上昇傾向にあるにもかかわらず欠員率が上昇する方向にあり、労働需給のミスマッチの拡大を示唆する状況にある(図表25)。

(3) 好調・調整混在の「複合景気」

(イ)以上のように97年度のわが国経済は、循環的には回復が続くが構造面では脆弱性が残るという複合性が目立つ展開が予想される。この点に着目して、新年度経済の特徴を一言で表現すれば、好調と調整が混在する「複合景気」となろう。すなわち、マクロ的にみれば、(1)水平分業の構築進展が企業収益にプラスに働く一方で雇用にはマイナスに作用する(2)価格破壊の流れが個人消費を刺激する一方で企業収益の圧迫要因となる、など一つの現象によってブレーキとアクセルが同時作動する状況が持続する。また、ミクロ的には、新規事業と既存事業といった事業分野別、あるいは大企業・中堅企業・中小企業といった規模別など、様々なレベルで好調部門と調整部門が同居することとなろう。

(ロ)こうした「複合景気)のもとでは、マクロ全体としての需給ギャップはかなりの程度残る見通しである(図表26)。需給ギャップが残存する限り好況感が経済全体に広がることは期待し難く、この意味で97年度経済は依然本格回復とはいえない状況が持続する公算が大きい。従来のパターンのように、需要が回復して既存調整分野の過剰労働力・過剰資本ストックが自ずと解消される状況は今後は期待できない。したがって、本格回復を実現するためには、労働・資本を既存調整部門から新規好調部門へスムーズに再配置することにより、需給ギャップを解消していくことが不可欠の条件といえよう。
3.需要項目別の動向

以上の景況感のもとで、需要項目別の動向について詳しくみれば以下の通りである。

(1) 個人消費は底堅さを維持

まず、個人消費を大きく左右する雇用・所得環境についてみれば、改善基調は持続するとみられるものの、そのテンポは緩やかにとどまる公算が大きい。すなわち、リストラの進展・円安の追い風を背景に企業収益が増益基調をたどるとみられるもとで、97年度の春闘賃上げ率は96年度を若干上回る3%前後となると見込まれる。また、景気が回復基調をたどるもとで所定外給与も増勢を維持するとみられるが、業績回復の遅れている中小企業も含めたマクロベースの一人当たり雇用者所得では1%程度の緩やかな増勢となる見通しである。また、雇用情勢についても、既にみたように、最悪期は脱したものの雇用者数の増勢は前年度比1.5%増と緩やかにとどまる可能性が高い。この結果、マクロの名目雇用者所得(一人当たり雇用者所得×雇用者数)の伸びは2.4%と増勢テンポは緩やかなものとなる見通しである。

このように名目所得の伸びが緩やかにとどまるもとで、消費税率引き上げが消費者物価を1.5%押し上げるため、実質所得は伸び悩むこととなり、このもとで個人消費の減速は避けられない。とりわけ、駆け込み需要の反動減が予想される年度上期の個人消費は、前期比年率1%を切る低空飛行を余儀なくされる可能性が高い。しかしながら、以下の点を勘案すると、個人消費は比較的早く持ち直しに転じ、年度では1.7%の伸びを確保する見通しである。

第1は、ライフスタイル・価値観の変化を背景に、個人消費の下方硬直性が高まっているとみられるためである。一般に、扶養家族のいない単身世帯は貯蓄のインセンティブが小さいため、消費性向が高い(図表27)のみならず消費水準が実質所得変動の影響を受けにくいと考えられる。晩婚化の傾向はこうした単身世帯のシェア高めることになるため、マクロでみた消費を下支える要因となろう。また、クレジットカード・消費者金融の普及・定着により、当面の所得環境に左右されず消費することが可能になっている。最近のクレジットカード利用額は前年比10%を超える伸びを続けており(図表28)、一時的に実質所得が減少しても、こうしたクレジットカードの活用により個人消費は堅調に推移する公算が大きい。

第2は、耐久消費財を中心に新製品が登場してきているもとで、これら製品に対する潜在需要は相当程度あるとみられる。とりわけ、情報・通信・放送分野での新製品が購買意欲を掻き立てることが予想され、パソコン、携帯電話はいうまでもなく、すでにみたように、DVD(デジタル・ビデオ・ディスク)プレーヤーや衛星放送受信機の売り上げ増加が期待できる。

(2) 緩やかな回復が続く設備投資

すでにみたように、(1)円安基調を背景とした企業業績の改善、(2)ストック調整進展を背景とした循環的回復局面入り、等を背景に設備投資が堅調な回復傾向を持続する見通しである。95年度には設備投資の回復は製造業・大企業に偏っていたが、96年度に入って非製造業、中小企業にも回復傾向がみられ、97年度はこうした広がりが一層明確化していく見通しである。もっとも、後述するように、(1)資産デフレの悪影響が残存していること、(2)国内高コスト体質が投資抑制に働くこと、等を勘案すると外部資金調達を積極化してまで設備投資を行うことは難しく、基本的にはキャッシュフローの範囲内に抑制される状況が持続するものとみられる(図表29)。この結果、97年度の実質設備投資伸び率は3.9%と回復力は緩やかにとどまる公算が大きい。

(3) 住宅投資の減少は小幅

住宅投資については、(1)消費税率の引き上げ、(2)金利水準の底打ち、等を背景に96年度対比減少に転じる公算が大きい。もっとも、消費税率引き上げに伴う住宅価格の上昇は住宅ローンの返済額に換算すれば相当小さく、その影響は比較的軽微にとどまる公算が大きく、マクロモデル・シミュレーションでも▲0.8%と、着工戸数ベースでは1万戸強程度の減少にとどまるとみられる。一方、金利についても、金融政策の変更があっても歴史的は極めて低い水準にあることは変わりなく、着工戸数は145万戸とバブル期を除くオイルショック後の平均(136万戸)からすれば底堅い水準を維持する見通しである。この結果、97年度の実質住宅投資は前年度対比▲1.6%と、マイナス幅は小幅にとどまるとみられる。

(4) マイナス幅縮小する外需

東アジア諸国の発展、国内高コスト体質の残存等を背景に、国際的規模での産業構造調整の動きは依然持続しており、1ドル=110円前後の円安では、中期的な企業行動の海外シフトの流れに大きな変化はないとみられる。こうしたもとで、わが国輸出の所得弾性値は、従来の主力分野であった耐久消費財が1を下回ったほか、競争力の残っている資本財についても低下傾向にある。一方、輸入の所得弾性値については、海外調達の増加・逆輸入の増勢等を背景に、耐久消費財、資本財、非耐久消費財ともに上昇傾向にある(図表30、31)。このように、わが国経済は輸出が増えにくく輸入が増えやすい体質に変化してきており、このもとで経常収支黒字が再び持続的かつ大幅な拡大傾向に転じる可能性は小さいと(図表30)判断される。もっとも、97年度については、(1)円安基調の持続、(2)上期を中心とした国内需要の減速、を背景に輸入の伸びが鈍化する公算が大きい。この結果、基調として外需が景気の足枷要因として作用することには変わりがないとはいえ、そのGDPに対するマイナス寄与度は▲0.1%と、96年度(▲0.6%)対比大きく低下する見通しである。

以上を総合すれば、97年度の実質経済成長率は、特別減税2兆円の継続を前提にした場合、上期が消費税率引き上げの影響で前期比年率1.0%と減速するが、下期は同1.9%と回復基調が強まるものと判断される。この結果、年度全体では、上期のペースダウンが影響して1.7%と2%を切る見通しである(図表32)。

(注)情勢の変化により、新年度特別減税2兆円については、打ち切りの公算が大きくなっている。この場合、実質成長率は1.5%となる見通しである。
4.経済政策の課題

以上みてきたように、97年度の景気は基本的には回復基調をたどると予想されるもとで、従来型の公共投資追加を中心とした景気刺激策は必要最小限に抑え、経済政策の重点は経済活性化につながる構造改革に置く必要がある。一方、現在の財政構造を前提とする限り、消費税率引き上げ・特別減税廃止を行ったとしても、中長期的には財政事情の悪化は避けられない状況にある。真に財政再建を達成するためにも経済の活性化は不可欠であり、民間活力の極大化と公的部門の効率化を達成するための総合的な構造対策が必要とされている。

第1は、税体系の抜本的再構築である。グローバルな競争経済を前提として日本経済の活力を回復させるという観点から現行税制を抜本的に見直しする必要があろう。具体的には、(1)国際的に突出して高い法人税率を欧米並みに引き下げることに加え、(2)累進税率緩和と簡素化を柱とする所得減税を実施する一方で、(3)消費税率の引き上げをセットで行うことにより、抜本的な税制改革を断行することが望ましい。

第2に、 歳出構造の抜本的見直しである。公的部門の効率化を実現するには、歳出の量的抑制と質的向上を同時達成することが不可欠である。すなわち、基本的なゼロシーリングを設定することでトータルの歳出規模を抑制すると同時に、官民の役割の抜本的な見直しを通じて財政のアウトソーシングを実施し、これにより浮いた資金を、福祉・教育・科学技術など中期的に緊要性の高い分野に重点配分すことが求められる。

第3に、参入規制・価格規制の撤廃である。

とりわけ、情報・通信、土地・住宅、雇用・労働、物流、金融、医療・福祉の6分野を中軸とした参入規制・価格規制の撤廃を断行し、競争促進による経済体質強化を図る必要がある。

第4に、土地活用の総合対策である。

地価下落に歯止めがかからない根因は、わが国の土地が十分に有効利用されていない点にある。この意味で、現下の土地問題を解決するには、土地の有効活用を実現する以外に途はない。具体的施策としては、(1)効率・美観・環境を考慮した整合的な都市計画の策定、(2)法定容積率の引き上げを主軸とする建築関連規制の緩和、(3)流通課税(譲渡益課税・登録免許税・不動産取得税等)の軽減、保有税(地価税・固定資産税等)の整理・適正化を基準とする土地税制の抜本的見直し、を3本柱とする土地活用の総合対策を講じる必要があろう。
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