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Business & Economic Review 1997年01月号

【OPINION】
災害時の安否確認をどう解決するか

1996年12月25日  


阪神・淡路大震災からまる2年が経過し、被災地も道路網の整備や倒壊建物の建て直しなどが進んで急速に復興しているように見えるが、その後遺症はいまだにあちこちに残っている。仮設住宅(今なお2万7千戸が避難所生活を続けている)での独居老人の孤独死などが報じられるたびに当時の記憶が甦ることがあっても、大方は時間の経過とともに、そうした記憶も薄れかけている。

天災は忘れたころにやって来る。はたしてわれわれは阪神・淡路大震災から十分な教訓を得、それを今後の対策として生かして来たといえるだろうか。問題点を冷静に捉え直すには十分な時間だったはずだが、大震災への備えがはかばかしく進展しているとは思えない。例えば、さきの大震災では初期の消火・救護活動の遅れが悔やまれるが、交通規制が後手に回り、被災地に住む人々の安否確認・情報連絡のためのマイカーの出動で道路が渋滞し、救急車や消防車の活動の妨げになったのがひとつの原因である。東京都をはじめとする各地方自治体や警察では、ある規模以上の震災が発生した場合の緊急交通規制を検討している。これも大事だが、その際同時に考えておくべきことは、一般車両の出動そのものを極力抑える方策である。

阪神・淡路大震災でわれわれが得た知恵のひとつは、銀行などの金融系オンライン・システムが震災に対し実に強靱であることが証明されたことである。一般的に金融機関は耐震性に優れた独自のコンピュータ・センターを保有している。そのシステムは専用回線で結ばれ、セキュリティが強固であるうえ、ハード面、ソフト面、ネットワーク面ともに災害時を想定し、堅固なバックアップ体制を敷いているケースが大半である。コンピュータ・センターを東京と大阪の2カ所に設置したり、顧客データをコンピュータ・センター以外のところにも保管したり、あるいはネットワーク用の専用回線も経路を変えて複数本引いておく、などの手を打ってリスクを分散させている。現に、今回被災した銀行支店等のオンラインもコンピュータ・センターを直撃された1行を除き、ほとんどが即時稼働可能な状態であった。支店内のATM(現金自動預け払い機)やパソコン端末機も無事に立ち上がり、建物の被災状況が軽微でありかつ、人員の手配が可能な支店から直ちに営業を開始できた。先般、郵政省は災害時に、集配業務を行っている郵便局がその担当地区の住民の安否情報を集めるなどのサービスを取り扱い、災害対策拠点として活用するという方針を打ち出した。その具体的内容は定かではないが、むしろ、民間金融機関がその店舗・拠点を災害時における安否確認のための情報発信拠点として位置づけ、地域全住民にそのネットワーク・システムを開放することを検討してはどうだろうか。

現在では、ほとんど全ての市民が銀行などが発行するCDカード、あるいはクレジットカードを持っており、日常的に使用しながら生活している。それだけに、災害時には、こうしたカードを金融機関の窓口でATMや専用端末に通すだけで安否の登録ができ、また、登録された安否情報が、同じ銀行の本・支店間のみならず全金融機関のネットワークを通じて簡単に確認できるようにすること、さらにインターネットなどを通じて全世界どこからでも検索可能となるような社会インフラを構築することは、まことに効果的だと思われる。被災者が、取引の有無にかかわらず、最寄りの銀行支店で安否登録できれば、渋滞の原因となったマイカーの出動を抑えられるだけでなく、阪神・淡路大震災発生時に見られたような公衆電話の前の長蛇の行列、そこでの時間の無駄や人心の不安をどれだけか緩和できるに違いない。NTTデータ通信が、災害時負傷者が運び込まれる病院、避難所としての学校、災害対策拠点としての消防署、警察署、市区町村役場、同出張所、公民館などの公的機関をネットワークで結ぶ構想を「広域災害・救急医療システム」において提唱しているが、これを更に進めて、民間金融機関との連携をもネットワークする体制を構築し、これら各拠点を総動員する形で安否確認のための専用端末を配置していけば、その機能と役割は絶大なものとなるに違いない。

社会は、民間を中心に情報化が急速に進行しており、コンピュータはもはやわれわれの生活になくてはならないものになりつつある。一方、これまで比較的コンピュータ化が遅れていた行政側も、中央官庁を中心に行政情報化と称してその導入を急いでいる。また、病院や学校なども高度情報化に伴いマルチメディア化が進んでいくものと思われる。都市銀行を中心にオンライン提携している銀行の総支店数約4万店に災害対策拠点としての息吹を吹き込むとともに、通信回線のデジタル化の完成に伴うDR(ダイナミック・ルーティング)技術の駆使、さらにはFM放送やCATV等の放送チャネルをも組み込むことによって大量の有効な情報が緊急度合に応じて活用されるようになれば、どれだけ社会全体のセキュリティーの向上に貢献することとなるか計り知れない。最近ではようやくわが国においてもメセナ、フィランソロピーといったような企業の文化・芸術活動に対する支援活動や社会に対する奉仕活動が認識されはじめているが、持てる資源を緊急時に社会インフラとして提供し、防災活動に資するのもまた、企業のボランティア活動の一環として誠に相応しいものと考える。
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