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Business & Economic Review 1996年11月号

【論文】
企業年金の健全性確保手段について-預金金融機関危機との対比の観点から

1996年10月25日 調査部 翁百合


要約

厚生年金基金のような確定給付型年金が、金融機関の預金と類似のバランスシート構造を持っていることに注目すると、現実に起こっている厚生年金基金の破綻は、預金金融機関の破綻とかなりの程度共通した視点で処方箋を描くことができる。すなわち、破綻回避のための事前的な対応としては、情報開示の推進と自律的なチェック体制の構築、事後的対応としてはセーフティネットの改革が必要であり、同時に企業年金制度全般を見直す必要性も導かれる。

まず、厚生年金基金の破綻という事態に対する事後的対策としては、「預金保険」と類似の機能を持つ「支払い保証制度」を、参加している基金の自己規律の働く制度へと見直していく必要がある。アメリカでも、年金基金の支払い保証制度の累積赤字問題の本質は、S&L(貯蓄貸付組合)危機の際に破綻した預金保険問題と同様、参加者のモラルハザード問題であるとの指摘がなされており、

近年様々な改革が行われてきている。わが国の支払い保証制度も、「モラルハザードを回避し、確定給付型年金の維持コスト(明示的には、トータルとしての支払保証保険料)をできるだけ抑える」という視点を重視しつつ改革を行う必要があり、年金基金のリスクに応じた保険料設定や制度運用のルールを早急に検討していく必要がある。また、預金というシステムの維持コストを軽減するために代替手段として例えば投資信託といったルートの拡大が必要であるとの同様の考え方により、確定給付型年金の維持コストを軽減するという目的に照らして確定拠出型年金の導入が急がれるといえる。同様の意味で、厚生年金基金、適格退職年金双方の制度改善を横断的に検討することも不可欠である。

また、事前的にも預金金融機関と同様、年金基金、企業ともに厚生年金基金の実態に関する情報開示を進め、これに対する受給者、企業、株主といった各段階でのチェックが重層的に行われ、自律的に健全性確保が維持できるような仕組みを作り上げていく必要がある。したがって、各年金基金に対する監督・モニタリングも、預金金融機関に対する監督の位置づけの転換と同様、基金健全性確保のうえでは補完的な位置づけに後退すべきであり、その手法も今後は、[1]基金の自己責任を定着させ、そのリスク管理を促すような手法に変更していくこと、[2]基金のパフォーマンスに応じて、健全性が低下した基金に対しては適切な施策を早期に講じる一方、健全性の高い基金については極力自由度を確保するといったアプローチに転換していく必要がある。一方、自律的健全性確保メカニズム構築のためには、[1]年金負債の時価などのディスクロージャー情報を規定する会計基準の整備が急がれる一方、[2]各企業が自主的にその年金負債情報をその算定の前提条件も合わせて開示したり、年金資産の抱える将来のリスクの大きさやリスク管理手法についても積極的に開示していくことが重要である。わが国の年金情報開示はきわめて限られているが、今後は自主的に年金情報を開示し、その経営スタンスを市場に対して明らかにしていく必要がある。
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