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Business & Economic Review 1996年10月号

【OPINION】
旧態依然の司法制度を全面改革せよ

1996年09月25日  


住専問題はわが国の政治経済システムに存在するいくつかの国「的な問題点を浮き彫りにする思わぬ効果を発揮したが、現行の司法制度が経済的事件処理に対して全く機狽オていないことを白日の下に晒したことなどはさしずめその白眉といえるだろう。

そもそも民間企業の引き起こした経済犯罪であり、それに起因する経営破綻に過ぎない住専問題が政治・行政の手による「超法規的」な処理を強いられた背景には、「法的処理には膨大な時間がかかる」という官民共通の認識があった。司法が行うべき案件の処理を政治・行政が代行せざるを得ない実態は、わが国が法治国家として運営されていないという悲しむべき事実を示唆するものである。

こうした司法の機白瘟コを許してきた基本的な要因は、[1]法曹人口の少なさ、[2]法曹家の社会常識欠如、[3]行政の司法介入、の3点に集約できよう。

まず、わが国の法曹人口は国際比較でみて余りにも少な過ぎる。わが国の弁護士数が国民約8千人に1人なのに対し、アメリカは300人に1人、フランスでも2千人に1人である。裁判官数も欧米主要国が国民1万人に対して1人程度なのに対し、わが国では4万人に1人に過ぎない。また法曹資格取得者数も、アメリカの年間5万人は別格としても欧州各国では毎年数千人単位で新規取得者が誕生しており、わが国の年間700人というのは際立って少ない。片や、70年代までは年間100万件前後だった民事・行政事件数は今や200万件以上に増加しており、結果的に民事訴訟の最終的な決着に3年以上の長期を要するという異常な事態が常態化してしまっている。このため、民事紛争の解決手段として司法を忌避する傾向が国民に広がり、それが行政への過度の依存や、民事介入沫ヘの温床となる由々しき事態を招いているのである。加えて今後、経済分野における規制緩和の進行を背景にこうした民事訴訟の数はますます増加することが卵zされる。迅速な民事裁判の結審に対する民間のニーズは今後も高まるであろうし、同時に弁護士に対しても「社会正義の担い手」から一歩踏み出した「法務サービス業」としての機粕ュ揮を求める声が強まっている。法曹人口の極端な不足は、こうした新たな法曹ニーズへの対応をも困難なものにしているのである。

また、法曹資格の門戸を極端に狭くしているために、司法試験合格者の約半数は初回受験から5年以上を経過しており、しかもそのほとんどは無職だという。法曹資格取得のためには20歳代から30歳代のほぼ全てを社会とのアクセスを絶ち、ひたすら受験勉強に没頭しなければならない告}が窺われよう。加えて2年間の司法修習が義務づけられており、ほとんどの裁判官・検察官は修習後直ちに任官するシステムであるから、いわばひたすら一般社会との接触を回避するように純粋培養されてきた人材が司法の中核を占めていることになる。

こうして法律分野における純粋培養を受けてきた裁判官は、当然ながら現実の政治経済問題には全くの素人である。このため、例えば税務訴訟のような複雑かつプラクティカルな事例においては、国税庁から派遣された「調査官」の補佐を受け、その影響下で判決を下すことが常態化しているといわれる。これは事実上の行政による司法コントロールに他ならない。司法の存在意義を放棄するような行政追認型の司法判断を「司法消極主義」等の「法曹村の論理」によって正当化してきたわが国司法の偏向は、こうした現実の政治経済問題に対する司法の無知・無力性にも一因が求められよう。

これらの諸問題を一挙に解決するには、司法試験の門戸を拡大し、法曹人口を大幅に増加させるしか方法がない。法曹関係者間でも司法試験合格者数の大幅な増員と司法修習期間の短縮が多数意見となっているが、日弁連が裁判官・検察官の採用数が大幅に増員されない限り、制度改革に反対の立場を堅持しているために改革がストップしている状況にある。1970年の国会付帯決議によって司法制度の改革には法曹3者の合意が前提条件となっているためだ。いわば、「ギルド」化した弁護士会が既得権確保のために制度改革の足かせとなっているわけである。

したがって、司法制度の全面的な改革にはまずこの付帯決議を見直し、法曹人口の大幅な増加を実現することが不可欠である。とりわけ国際比較でも極端に不足している裁判官・検察官の大幅な人員増は待ったなしの段階に来ている。裁判官の人員増と同時に、裁判所運営の大幅なリストラを実行し、裁判事務の民間委託によって事務・書記官の人員を削減すれば、裁判の迅速化と運営費用の低下という2つのメリットが期待できる。さらに、幅広い社会的知識を持つ裁判官の増加は、行政による司法「補佐」の必要性を減じ、司法の独立性を高める効果を発揮しよう。この他、弁護士数の増加はギルド化した弁護士会に競争原理の導入を促し、国民の信認を受けているとは言い難い硬直化した現行の弁護士業を、国民から要請するところの幅広い意味での「法務サービス業」へと脱皮させる起爆剤となろう。
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