コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 1996年10月号

【(特集 香港返還)】
‘97中国への返還を控える香港でのビジネス展望

1996年09月25日 三菱電機(香港)社長 三崎康夫


「今後は香港のうまみが失われる。」「政治の理由が優先され経済活動は規制され様々な不自由が強制されるだろう。」「英国時代の経済的合理性や法治の概念が徐々に後退して行くだろう。」等など残り1年を切った香港の中国への返還を巡る論議がかまびすしい。

こうした悲観的な見方は香港におけるよりもむしろ日本やアメリカ、台湾などにおいて強くなされているように思われる。

香港の内外を問わず中国共産党のやり方に対しては歴史的事実に基づく根強い不信感があり、日本では売らんかなの為のマスコミ記事、アメリカでは中国を牽制、時には挑発するような記事も多く見られ、こうした地域においては香港の将来をネガティブに見がちである。

逆に香港における外国企業間には多くの期待感があるあまり、さめた見方が出来ないということもあるかも知れない。

筆者は香港の将来、及びビジネスの展望については(大いなる期待をも込めて)次のような理由から概して楽観論に与するものである。

・香港の将来を約束している'84/12月の中英合意、'90/3月批准の香港基本法は中国が国際社会に明書したものであり、今や国際的にも大国であり何よりもメンツを重んじる中国としてはこれを踏みにじるとは考えにくい。
・香港の成功は中国自身が望んでおり、また国際社会の厳しい監視のもとで無謀な行動をとる理由は何もない。
民権は制約を受けざるを得ないが、経済活動の自由は最大限に保証されると見る方が自然である。
・中国にとって香港は台湾の平和的回収とセットで解決されなければならない大命題であり、そのためにも香港の繁栄は中国自身によって保証されなければならず、失敗は許されないはずである。
・香港の民衆レベルでも根強い対中(対共産主義)不信があるが、香港経済界を代浮キる主力グループはかなり前からコンフィデンスを回復し、香港内での大型投資計画を次々と発浮オている。'49年の共産革命の成立と同時に着の身着のままで香港に逃れた戦後の華僑第一世代と言われる彼ら自身であるが、中国の内情に熟知し利に聡い彼らの経済行為から'97年後の香港の安定と繁栄の継続に強い自信を感じることが出来る。

勿論、安心しているばかりで心配がないわけではない。

次のような多くの『不透明要素』もあり注視して行く必要がある。

・'97年香港返還には今後とも心理的要因が強く働くであろう事。
・時間の経過に伴い中国への同化現象がどう起きるか?
・(中国の強大化を望まない!?)先進国がどう仕掛け、中国がこれにどう応酬するか?
中国にとって国防、動乱回避の名目ができると香港は難しくなる。
・経済活動における言動の一部が何らかの政治的理由を付けられて我々外国人、あるいは、現地職員が身柄を拘束されることがないだろうか?等など。

また香港市場でビジネスを遂行していく上での『不安要因』としては次のようなことが挙げられよう。

・香港の現在の形態は守られるものの今後は中国が何かと我がもの顔に入ってくることは避けられず、色々なすき間から中国流の人治主義が入って来て、それが横行するようなこと(市場競争原理の衰退)はないだろうか?
・中国の国家防衛的視点からの香港の公益、公共事業体(航空、通信、輸送、電力ガスなど)への政策介入や中国資本によるこれらの企業の買収が進まぬか?
中国が金に糸目をつけず、香港の資本家が経済原則を優先させ、市場を上回る買収価格に応じる事はないだろうか?
・中国製品を売らんかなの政策介入があった場合には香港は高品質市場から価格本位の低品質市場に変質してしまい、日本のブランドは苦境に立たされよう。
等などだ。

こうした『不透明要素』や『不安定要素』はとりもなおさず‘香港の衰退’につながると思われ、こうしたことがないように中国の自重と『港人治港』の新為政者の粛々たるコンダクトを大いに期待したい。

一方、香港の中国への返還によるプラスのインパクトも大きいと思われる。

・中国は我々日本企業にとっては製品の販売、生産、資材調達、人材活用、技術移転など全ての面において最大、究極のマーケットであるが、このマーケットが返還される香港を介して一層アプローチしやすくなる、これまでどちらかと言えばとらえにくかった中国という像がはっきり見えてくるという効果は大きい。
・香港と言う国際常識の場で国際ルールに基づいて中国のビジネスマンと一層、話ができるようになるのである。

中国のビジネスの国際化が大いに加速化されることともなれば、我々外国企業にとってのいわゆる対中リスクは確実に縮小する。

また、ここであらためて『香港の持つ優位性(強味)』を考えてみると、

・国際金融及び世界貿易のセンターとして経済活動上のあらゆる良質のインフラが揃っている。
* 中国は上海を香港以上に発展させようとするのではないかとの見方もあるが、香港と上海のビジネスインフラの差は30年とも言われており、中国が上海に過度に傾注するあまり香港の地位が絶対的に低下すると愚を犯すとは考えにくい。
・アジアの地理的中心にあり各国へのアクセスとしての機狽ハたしている。
・全ての中国人のビジネスの接点としての機煤i華僑コネクション)を果たしている。
・外国資本にとって中国という巨大な市場へのアクセスとなっている。 特に中国に関して豊富な情報、人的関係が得られると言うことは最大の魅力である。
・香港資本に対する中国の優遇政策がある。
・旺盛な民間消費など香港自体の強い需要がある。

等などの枚挙にいとまがないが、中国は自らが生み出した最高の知恵である『一国両制度』 のもとに自らを律し、一方の国際社会は中国に対する牽制を図りながらも挑発を避け、国際協調の枠組みの中で対応して行くならば『香港は大丈夫』であり、上記の‘強味’は継続、中国も香港から大きな利益を引き続き得られるに違いない。香港が大丈夫との前提で考えるならば企業の海外戦略の中での香港の位置づけは一層の重みを増して行くのではないだろうか?

アジア市場、とりわけ中国が大成長を続ける今、これまでのように世界市場をアメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアと言う単純な三極でとらえるのは既に無理であり、アジアを二つにわけた四極でとらえて行かなければならない。

ビジネスの業種によって異なるが、一般的には『香港』が前述の強みを生かし、いわゆるスリーチャイナの中国、台湾、香港自体をそして『シンガポール』がアセアン、ベトナム、ミャンマーなど、更に南アジア全体をカバーする、日本の本社は韓国、台湾を処理しながらアジア総合戦略の総指揮を執るといった告}になるのではないだろうか?

香港問題は中国問題であり中国の出方と国際社会の対応(そしてその逆)次第で命運が決まる。

昨年9月香港日本人商工会議所代葡cのメンバーとして訪中した際、「50年後の香港はどうなるのか?」との当方の質問に対し、ある中国の要人は「更に良くなる、中国も良くなるし、そして何よりも人が賢くなる。何も心配はいらない。」と答えてくれたのが強く印象に残っている。

これをもって香港の展望は明るいとするならば「良いことずくめで楽観的に過ぎる、危険!!」ということになるであろうか?


経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ