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Business & Economic Review 1996年07月号

急成長する世界の風力発電-何が日本での普及を阻んでいるか

1996年06月25日  飯田哲也


1. はじめに

風力発電が急増している。世界全体で見てみると、1995年1年間だけで130万kW、約35%も伸び、1995年末時点において累計500万kWにも達した。風力発電機の市場規模も世界全体で2,000億円を超えていると推定される。

1995年12月の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告で異常気象との因果関係が明確に指摘された地球温暖化問題を抑制するためには、石炭・石油などの化石燃料を中心とするエネルギー消費の抑制に加えて、太陽エネルギーに由来する再生可買Gネルギー[注1]への転換が不可欠である。その中でも風力発電はすでに実用レベルに達している技術として、急速な普及期に入っている。経済的にも、海外では原子力よりもはるかに安く、石炭火力発電と同程度の経済性に達している。

日本でも、経済的で品質の良いデンマーク製風車の輸入がはじまったことにより、火力・原子力並みに発電原価が低い事例も現れ、ようやく風力発電普及の離陸期を迎えつつあるようにみえる。しかし同時に、風力発電の普及を阻害する要因も顕在化つつある。あてにならないエネルギーという迷信、国の適切な制度の不備、電気事業の不透明な買電契約条件、海外に比べて割高な建設コストなどである。

こうした状況に対して政府も風力発電への補助金政策の拡充等を進めつつあるが、本稿では透明性のある買電制度を整備することが普及の鍵であることを提言する。

2. 急増する世界の風力発電

地球温暖化問題(気候変動問題)や酸性雨などエネルギーの消費に由来する環境問題を抑制するためには、化石燃料を中心とするエネルギー消費を削減していくと同時に、二酸化炭素や二酸化硫黄など大気汚染物質をほとんど排出しない再生可買Gネルギーへの転換が不可欠である。しかしながら、再生可買Gネルギーは高コストなどのためになかなか普及が進まなないとこれまでは一般に認識されてきた。

そうした通念を覆すように、風力発電の普及が急ピッチで進んでいる。世界全体で見ると、昨年1年間だけで130万kW、約35%も伸び、1995年末時点において累計500万kWにも達した(図浮P、図浮Q)[注2]。風力発電機の市場規模としては世界全体ですでに2,000億円を超えていると推定される[注3]。

1980年代初期の普及期が米国とデンマークの2カ国における普及が中心であったのに対して、第2の普及期ともいえる現在は、ドイツ、オランダ、イギリスなどEU諸国やインドなどに広がった。今後はさらに、ブラジル、中国、ギリシャ、メキシコ、そして米国においても大規模な風力発電プロジェクトが進行中であり、風力発電は地球規模で普及しつつある。風力発電のコストは今後10年で3~4円/kWhへと低下し、風力発電はさらなる爆発的拡大期を迎え地域によっては主要な電力源になる可柏ォさえあるという[注4]。

各国の概況は以下のとおりである。

(1) 米国

米国はデンマークとともに近代風車のパイオニアであり、現在でも約170万kW約1万5,000基と世界最大の風力発電設備容量を誇っている。米国の電力供給量全体に占める風力発電の割合は現在1%未満であるが、2000年頃には5%程度に達すると卵zされている。さらに将来強風地域全体に普及させていけば、米国全体の20%もの電力需要を賄うことも可狽ニ試算されている[注5]。

米国でこのように風力発電が普及した最大の要因としては、(1)技術開発による信頼性と効率性の向上によって低コスト化と実用化が進んだこと、および(2)風力発電など再生可買Gネルギーを普及させるための制度が整備されたことの2点を指摘できよう。とりわけ後者については、再生可買Gネルギーを用いた小規模発電からの買電を義務づけた1978年の公益事業規制政策法(パーパ法)と、長期間にわたる高い買電価格を定めたカリフォルニア州の助成策(SO4と称される)の2つが重要な役割を果たした。

(2) デンマーク

デンマークでも80年代に風力発電が急速に普及し、1995年末には約61万kW、3,800基に達している。またデンマークは風力発電を国策産業として位置付けており、全世界の風力発電機市場の約5割をデンマーク製が占めている。

デンマークでもやはり技術開発と風力発電の普及を促進する制度の整備が鍵となった。技術開発では、風力発電機そのものの性伯・繧ヘもちろんのこと、デンマーク・ウインドアトラスと呼ばれるデンマーク国内の風況地図をいち早く整備するなど、風力資源の有効利用を図るャtトウェアの技術開発が同時に進められたことが重要である。加えて、80年代初期に設けられた補助金と現在も継続されている電力買取制度という2つの制度によって、風力発電の普及が加速した。

(3) ドイツ

ドイツは90年代に入って一気に風力発電の普及が進んだ国で、現在では約100万kWとデンマークを抜いて世界第2位の規模の風力発電設備容量に達したとの報告がある。北部のシュレスウィック・ホルスタイン州では、電力の5%以上を風力が供給している。また輸出面でもデンマークを追い上げており、全世界の風力発電機市場の約3割をドイツ製が占めている。

(4) その他地域

他の欧州地域では、オランダの25万kW約500基(1995年)[注6]が目立つほか、英国で50万kWの風力発電プロジェクトが発注されたなどが報告されている(1994年)。

その他の地域ではインドの伸びが著しい。インドでは1994年に風力発電のブームが始まったばかりであるが、1995年にはドイツに次ぐ建設数となり、1995年末までに建設された風力発電は60万kWに達したとの報告がある[注7]。

3 何が普及を加速したか

なぜ今このような風力発電の爆発的な普及期を迎えたのだろうか。

まず時代背景を考えると、80年代の第1次普及期では、米国・デンマーク両国ともオイルショックを契機に風力発電が開発されており、石油代替エネルギーとしての位置付けであったことが指摘される。しかし、現在の第2次普及期は地球環境問題(気候変動問題)への危機感を背景としており、再生可買Gネルギーとしての風力発電への社会的な期待は、第1次普及期に比べて地球規模で高まっているといえよう。

こうした時代背景に加えて、普及の決め手となったのは、第1次普及期と同様に、やはり技術と制度である。

特にコスト低減と直結している新技術の開発である。(1)電気設計の改良(可変速タービンの採用)、(2)機械設計の改良(強度と耐久性の向上)、(3)空気力学的設計の改良(風力エネルギーの補足迫ヘの向上)、(4)コンピュータによる運転・保守の高度化という4点が、風力発電のエネルギー効率を飛躍的に向上させコストを低減した主要な改良点として指摘されている[注5]。

これらのハード技術に加えて、風況卵ェなどのャtト技術の進展も大きな要因である。とくにデンマーク風況地図などは、国内における風力エネルギーのデータが詳細に収集され磁気データベースのかたちで一般に提供され、一種の社会的インフラとなっている。これによって一般の人でも風力発電の導入シミュレーションが可狽ニなっている。日本では通産省の外郭機関(特殊法人)である新エネルギー・産業技術総合開発機香iNEDO)がかつて全国ベースの風況調査を実施しているが、実用に供するには未だサンプル数も少ない上、そのレポートの貸出しさえ認められていない。

こうしたハード・ャtト両面にわたる風力発電技術の進展に加えて、大量生産による合理化努力や建設費の低減努力などによって、ここ10年の間に風力発電のコストが大幅に下がった。図浮Rに示すとおり、米国では風力発電は他の発電技術と競合しうる5~7円/kWhという優れた経済性に達しており、さらに2000年頃には3.5~5円/kWh程度まで低下するとの卵ェさえある。
(図浮R) 各種電源の発電コスト(円/kWh)
  米国('93) 日本 備考
原子力 10-21 9  
LNG 4-5 9  
石炭火力 5-6 10  
風力 5-7('93)
3.5-5('00) 41-43
9.5-15 日本の上段は新エネルギー便覧。
日本の下段はエコロジーコーポレーションの報告
太陽光 25- 185  
(資料)Flavin,C." Power Surge"(New York: W.W.Norton & Company , 1994)、通産省資料、およびエコロジーコーポレーションへのヒアリングから作成

国内でも、デンマーク製風車を導入した山形県立川町の事例では、9.5円/kWhという原子力・火力並みのコストが報告されている[注8]。

一方、図浮Sに示すように、諸外国では風力発電普及のための制度としてさまざまな取り組みが行われているが、共通しているのは「買電の義務付け」あるいは「買電価格の設定」である。ここには、電力会社中心に風力発電を導入させるのではなく、独立発電事業(IPP)の導入を図ることで、市場原理による競争を働かせようとした意図が読み取れる。
(図浮S) 諸外国における風力発電普及のための政策・制度
国 名 普及のための政策・制度
米国 ・1978~:パーパ法によるQFの認定と買電義務づけ
・1983~1985:買電価格を高い回避コストに定めたSO4(加州)
・1994~1999:連邦優遇税制
・アイオワ州:落Zの2%を再生可買Gネルギー開発に割り当て
デンマーク ・1978~:買電義務(一般電気料金の85%、工事費は電力会社負担)
・1980~1989:最高30%の補助金
・1989「デンマーク2000」における目標:2005までに150万kW
・1991~:風力発電・機種認可制度の基準化
ドイツ ・1990~:再生可買Gネルギー電源の買取義務付けと補助政策
・1991~:風力25万kW計画
英国 ・1989~:電気法におけるNFFO(非化石燃料電源の購入義務)
オランダ ・1986:議会による導入目標:2000までに100万kW
     最高35%の補助金(1995末まで)、買電価格の長期保証
インド ・1994~:送電システムの開放と再生可買Gネルギーへの優遇税制
 (資料)海外電力調査会「海外諸国の電気事業」1993などから作成

またデンマークにおける風力発電・機種認可制度の基準化も風力発電普及の一石である。これは発電機の系統連系時の突入電流を抑制できるャtトスタータの取付義務、無効電力補償器の取付義務、系統連系の基準化などを定めたもので、これによってデンマーク製の風力発電機が国際的にデファクト・スタンダード化するとともに周辺装置の標準化が進んだ。これがデンマーク製風力発電機の国際競争力を高め、全世界の市場の約5割を占めるに至った要因の一つといえよう[注9]。

4 離陸期を迎えた日本の風力発電

こうした風力発電拡大の世界的潮流の中で、ようやく日本でも風力発電が離陸期を迎えたようにみえる。図浮Tに示すとおり日本の風力発電の設備容量はここ数年で急速に伸び、電力会社、国(NEDO)、地方自治体および民間企業によるものをあわせると、1996年に入って1万kWを超えたものとみられる。

太陽光発電に比べると目立たないが、政府も地球温暖化防止行動計画を受けた「新エネルギー導入大綱」において風力発電の推進を目標として掲げており、その政策に沿って通産省は小規模電源のための系統連系ガイドラインを定めた。このほか、導入促進のために以下に示すような補助金制度も拡充している(数字はいずれも1996年度)。ただし、政府が新エネルギー導入大綱で掲げている風力発電の導入目標は、2000年で2万kW、2010年で15万kWと、海外での目標に比べて極端に小さい。

[風力発電導入促進に利用可狽ネ国の制度]
・地域新エネルギービジョンの策定等事業費補助金(4.7億円、定額)
・地域エネルギー開発モデル事業費補助金(3.3億円、30%補助)
・地域エネルギー開発FS事業費補助金(1.4億円、50%補助)
・地域エネルギー開発利用促進利子補給(5.9億円)
・風力発電フィールドテスト事業費補助金(3.2億円)
・エネルギー需給国「改革投資促進税制(7%相当額の税額控除または初年度30%の特別償却の選択)
・ローカルエネルギー利用設備の固定資産税の軽減制度(3年間は6分の5)

一方、電気事業では太陽光発電と風力発電からの余剰電力は売電価格と同程度の価格で買電することを明記した「余剰電力購買メニュー」を「自主的」に定めている。この余剰電力購買メニューにおける風力発電と太陽光発電の破格の扱いは、普及があまり進まないであろうとの見通しが背景にあったものとみられる。それを裏付けるように、余剰電力購買にかかる電気事業との契約はいずれも1年契約であり、将来買電価格が見直される可柏ォが明記されている[注10]。

このように離陸期を迎えたようにみえる日本の風力発電だが、まだ諸外国の導入目標や実績に比べてあまりにも規模が小さい。わずか5年で100万kWにまで達したドイツのように、今後日本でも風力発電が順風にのって拡大していくかどうかが問われているところであるが、風力発電の規模が徐々に拡大していくにつれて、後述するさまざまな普及阻害要因が顕在化していくことが懸念される。

5 山形風力発電研究所

さて、日本の普及阻害要因に触れる前に、山形県立川町における具体的な導入事例を紹介し、日本における風力発電の導入可柏ォを考えてみたい。

「五月雨を集めて速し、最上川」という芭蕉の句で有名な最上川に沿って広大な庄内平野から丘陵部への入口にあたるところに山形県立川町は位置する。この立川町には「清川だし」とよばれる強風が吹き、一年を通じて風力資源に恵まれたところである。

ここに、わが国で初めての風力発電による売電事業会社「山形風力発電研究所」が設立され、1996年1月から400kW級のデンマーク製風車2基による売電を開始した。山形風力発電研究所は、エコロジーコーポレーション、松尾橋梁、オリックスという民間企業3社が設立したものである。

この山形風力発電研究所の風力発電機は本年1月に運転を開始したのち、2月~4月の立ち上がり時期にもかかわらず、14~21 %の設備利用率を記録し、ほぼ卵z通りの成績を示している。このまま順調に推移すれば、事前の事業性評価で報告された9.5円/kWhという数値も達成できるであろう。

さて、この山形風力発電研究所が風力発電の導入を進める過程で、さまざまな普及阻害要因が顕在化した。まず、買電価格に関しては、1995年末には18円/kWh台で交渉が進められていたが、最終的には本年1月からの料金制度見直しによって同15円台の買取価格に変更された。さらに買取価格は、今後燃料費調整制度の実施にあわせて3カ月毎に見直され、契約自体も1年毎に見直されることとなっている。また、山形風力発電研究所が発電した電力の大部分を売電していることから、東北電力では「売電だけが目的の事業者から電力を買い取る義務はない」(東北電力広報部)という立場を取るとともに、本年4月から余剰分が著しく多い場合は購入単価の引き下げもありうると規定を変更した。さらに、山形風力発電研究所に対して、余剰電力を少なくするために電力を消費する設備の導入を求めているとの報道もある[注11]。

技術的な要素でもいくつかの普及阻害要因がみられた。デンマーク製の風力発電機は単独運転防止装置など自ら2重の保護装置を持っているが、通産省の定める系統連系ガイドラインにしたがってさらに3重目の保護装置の設置が要求された。これを設置すれば、全設備費の1割程度ものコストアップとなり、収益性もそれだけ悪化することになる。その他にも電圧低下に対する補償装置の設置が検討されるなど、風力発電を電力系統に接続することによって電力系統を撹乱する可柏ォが考えられる要因に対して、風力発電設置者は一つ一つ対応が求められる。これらはすべてコストアップ要因になる。

山形風力発電研究所は「風力発電による買電事業」のパイオニアとして、風力発電普及に対して今後卵zされるさまざまな阻害要因を浮かび上がらせたといえよう。

6 日本における普及阻害要因は何か

日本に風力資源がないわけではない。新エネルギー・産業技術開発機香iNEDO)の試算によれば、適地だけでも約5000万kWもの風力資源が有るとの評価がなされている[注12]。

また、諸外国での普及で実証されているように、風力発電の技術的課題および経済性の壁はすでに超えられている。ノウハウを含めてそうした機種を海外から導入することは容易であり、前述の山形風力発電研究所の事例にみられるとおり、デンマーク製はすでに国内に輸入建設され、優れた性狽ニ低コストを立証している。

とするならば、日本における風力発電の普及の遅れは、その原因を日本の社会的・制度的側面に求めることができよう。それは、(1)当てにならないエネルギーという迷信、(2)国の適切な制度の不備、(3)電気事業の不透明な買電契約条件、(4)海外に比べて割高な建設コストという4点に整理されよう。

「当てにならないエネルギー」という社会的通念は風力発電による量と質を疑問視する。「新エネルギー導入大綱」で日本の地形を理由に普及が困難であるとしたのもその好例であろう。その「量の限界」については合理的な根拠はなく、むしろ前述したように数千万kWの規模で導入しうるとの報告がある。「質」については風による変動を問題にする。確かに火力・原子力と同レベルの供給信頼性は期待できない。しかし、「風」といえば一見当てにならないものとの印象を与えるが、風力発電で利用する「風」は1年をつうじてほぼ定常的に期待される風力資源である。すなわち、「風」には、地球規模で1年間定常的に流れているジェット気流や偏西風などの風、もう少しミクロで季節によって変動する季節風、そして地形に依存する局地風の3つに大別される。これらの「風」の組合せが風力資源として利用されるのである。こうした風力資源の安定性を理解し、複数の風力発電機を集合体として見れば、そこに一定の供給信頼性を期待することは可狽ナあろう。

国の普及制度としては、すでに述べたような補助金政策が主体であり、電力会社に対する買電の義務付けや買電価格の優遇を制度として確立していない点が、今後普及にあたって最大の障害になるであろう。なぜならば、海外の事例で明らかなように、買電制度こそが独立発電事業者による市場競争を促し経済性を向上させる鍵であるからである。 電力会社は、各社「余剰電力購入メニュー」を用意し、太陽光発電と風力発電については売電価格と同じ価格で風力発電からの「余剰電力」を自主的に購入するという姿勢である。問題は、山形風力発電研究所の例に見られたように、買電契約が私的契約行為として行われるために買電の条件に対する長期的な保証が得られないこと、および3重めの系統連系保護装置などの過剰な設備が風力発電設置者に要求されるケースがあなどることである。 またコスト面での差も大きい。国産の風力発電機はほぼ100万円/kWといわれるが、デンマーク製の輸入品で約25万円/kW、そして海外では約15万円/kWと格差が大きい[注10]。本体を除く建設コストを比較してみると、海外が数百万円/基に対して国内では数千万円以上/基と、この格差はさらに拡大する。

7 風力発電の普及に向けて

社会的費用の低減(とくに地球温暖化問題の抑制)の観点から風力発電の普及は明らかに必要であり、政府も新エネルギー導入大綱や地球温暖化防止行動計画において自然エネルギーの普及を目標としている以上、風力発電の普及を支援するために実効性のある政策・制度を整備することは、公共政策を担う国および自治体の当然の責務である。わが国の施策とは対局にある好例がドイツ・アーヘン市で行われている「アーヘンモデル」であろう。アーヘンモデルとは、一般市民のわずかな負担によって、既存の発電事業者に損失を与えることなく太陽光発電や風力発電を普及することができるように買電条件を定めたものである。

国および自治体は、こうした海外の先進モデルに学びつつ、具体的には以下のような政策・制度の導入を検討し推進していくべきである[注13]。

1. 買電の義務付けと長期的に高価格を保証する買電制度の整備

2. 過剰な設備を要求する系統連系ガイドラインの見直し

3. 電気事業による不透明で不公正な商慣行の排除
とくに現在は設置者の負担となっている配電線を電力会社負担の原則とすることが、地域独占を認められた原則にも合致して妥当である

4. 自治体や協同組合などによる買電事業の奨励

5. 風力発電がすでに実用レベルの技術およびコストに達しているという正確な事実の広報

6. 詳細な風況マップの整備、およびその電子データの公開

7. 環境アセスメント・安全評価ガイドラインの整備

とくに、買電条件を長期間にわたって保証することは重要である。もともと、太陽光発電や風力発電からの電力を売電価格と同レベルで買い取ることを公浮オている電力会社による余剰電力購入メニューは、なんら法的にも裏付けのあるものではなく、単に電力会社の自主的な取り組みという位置付けである。さらに本稿でも報告したように、風力発電が低コストであることが明らかになり普及が進むにつれて、風力発電からの買取価格を低くしようという電力会社の動きが生じることは、企業経営の観点からみると現在の買取価格が明らかに回避コスト[注14]を上回っているために当然である。山形風力発電研究所の事例に見られるように、買電価格について将来の見通しが不透明な状況のもとでは、風力発電による売電事業計画を作成することは極めて困難であることを政策立案者は理解すべきである。

風力発電普及のための施策には、新たな電源を開発する目的ですでに設けられている4,000億円規模の電源開発促進対策特別会計の中から充当することが、この目的税本来の趣旨に叶う使途であろう。たとえば、当該落Zの1%の費用で1000地点以上の風況調査を実施することが可狽ナあり、同じ費用で400kW級風力発電機にして500基分以上もの回避コストとの差額を補償することが可狽ナある[注15]。

政府の進める地球温暖化防止行動計画においても、効果が疑問視されているサマータイムよりも、こうした実効性の期待できる政策にこそ取り組むべきであろう。

一方、風力も全く無公害ではなく、周辺に騒音や景観などの影響を与える大型設備である。にもかかわらず、現在風力発電には単に建築基準法による安全規制が課せられるだけである。風力発電についても、情報公開と市民参加を前提とする安全審査と環境アセスメント制度の整備を進めていくことが、普及のためにはむしろ必要であろう。

電気事業としても風力発電を冷静に見つめて、コスト的にも社会的費用の面からもメリットの大きい風力発電に対して、真正面から取り組むべきであろう。(1)コスト面でもすでに原子力発電と同程度であるばかりか原子力のようなさまざまな負の遺産を背負うことがないこと、(2)30年にも及ぶ立地のリードタイムのために経営計画上見通しの立たない原子力に比べて、風力はわずか2年程度の短期間で計画・建設できるために時間的制約が小さいこと、(3)化石燃料発電のような地球温暖化への影響がないことなどを考慮すると、風力発電は経営戦略の観点からも魅力ある投資といえよう。

最後に、本稿をまとめるに当たり、(株)エコロジーコーポレーション 小島剛氏および橋川さゆり氏には各種の貴重な資料や写真をご提供いただきました。深く感謝致します。

注  

1. 再生可買Gネルギーとは、太陽、風力、地熱などの自然エネルギーを直接利用したものや、木屑や家庭生ゴミなど植物性の資源を利用したもの(バイオマスという)など、更新性のあるエネルギーをいう。

2. Paul Gipe "1996 Overview of Wind Generation Worldwide", ワールドウォッチ研究所「地球白書1996ー97」ダイヤモンド社pp266およびInternatinal Solar Energy, Feb.5,1996を参考に作成

3. 海外における何例かの報告から、風力発電機を1kWあたり15万円と想定して概算した。

4. クリストファー・フレイビン「21世紀へエネルギー革命」ワールド・ウォッチ、Vol.9 No.1、1996.2

5. 石岡修「米国における風力発電の現状」海外電力、1995.12

6. 日本経済新聞95年5月1日

7. 日本経済新聞96年2月23日

8. 図浮Rによると、他の全ての発電コストが米国よりも高い日本が、原子力に限っては米国よりも低くなっている。原子力のコストを告ャするウランや発電所の建設費自体も米国より高いという事実を考えあわせれば、現実には国内においてもすでに風力発電の方が原子力に比べて安価になったと判断できよう。

9. 玉貫滋「欧州における風力発電の現状」海外電力、1995.12

10. 余剰電力販売契約者からのヒアリングによる

11. 共同通信経済ニュース96年5月20日

12. 日本経済新聞95年11月2日

13. 新エネルギー財団でも、本年5月に技術開発と普及制度の拡充を柱とする風力発電導入促進のための提言をまとめている。

14. 回避コストとは、必要とする電力を電力会社が追加して発電するために要するコストをいう。たとえば休止している火力発電を立ちあげる必要がある場合には、回避コストは平均コストよりも増大する。

15. 回避コストを9円/kWh、買電価格を18円/kWh、400kW級風力発電機が1年間に70万kWh発電する(設備利用率にして約20%に相当)と仮定して算出した。
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