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Business & Economic Review 1996年07月号

【OPINION】
アジアとの金融協力推進を-円国際化のもう一つの道

1996年06月25日  


超円高の修正が進み為替差損発生の懸念が薄れるとともに、円の国際化論議も下火になっている。これでは円の国際化論は、為替差損を回避したい日本の次元の低い、身勝手な論理ととられても致し方ない。円相場が安定の兆しをみせている今こそ、円の国際化に向けた取り組みを本格化すべきである。

今年4月、大蔵省・日銀はアジア7ヵ国・地域との間でドルの資金融通協定を締結した。通貨当局が相対で資金を融通することにより、為替投機や通貨危機に立ち向かう体制が緒に就いたことは、アジア域内における通貨当局の協調体制の強化に大きく資するものとして高く評価すべきものである。日本がこうした取極に参加するのは初めてである。準基軸通貨国である日本がこれまでこの種の取極に慎重であったのは、日本はドルのラスト・リーゾトではないこと、基軸通貨国アメリカへの配慮が働いてきたことなどによるものであろう。しかし、日本が従来の姿勢を踏み出し、国際的な金融協力体制の構築に積極的に関わることは、日本が準基軸通貨国としての責務を果たすばかりでなく、円の国際化を進めるうえでも大きな一歩である。

日本としては、今後アジアにおける金融当局者間の協力体制の強化をさらに進め、アジア版BISの実現に向けてイニシアティブを発揮することが望まれる。同国は、元々オーストラリア準備銀行のフレーザー総裁が為替安定と通貨投機への対処を目的として、BIS(国際決済銀行)のような常設の組織の創設を提唱したものである。このアジア版BISをアジア各国の共通の利害を形成する場とするとともに、本家のBISを補完する機能を持つものとして位置付けていくことが望ましい。銀行への自己資本比率規制の導入のような国際的な基準作りやメキシコ通貨危機などに際して、アジア地域が共同でこれに対処していくことの意義は大きい。

日本のアジアとの金融協力は、こうした国際的な取極にとどまらない。日本がその経験を生かし、各国の国内金融・資本市場の発展、あるいは金融政策の高度化を側面から支援することも、金融協力のひとつの形態である。経済発展著しいアジア諸国では、産業基盤の成熟に比較して金融・資本市場の近代化が遅れがちであり、体制整備が市場の量的拡大に追いついていないのが実情である。このもとで、エマージング・マーケットに注目する先進国資本の各国への大量流入が続いている。こうした資金流入は各国の資金需要を満たすものではあるが、一方で各国の金融市場にとって攪乱要因となっており、金融政策の舵取りを難しいものにしている。また、中国、ベトナム、モンゴルといった体制移行国にとっては、金融・資本市場の近代化が経済改革の成否の鍵を握る急務のこととなっている。こうしたアジアの国々に対し、日本の金融制度構築の経験やノウハウを提供しつつ金融関係を強化していくことは、アジア各国にとってのみならず日本にとっても大きなメリットとなる。すなわち、第一に、金融協力を通じて日本にとってなじみ易いビジネス・スタンダードが形成されることである。金融システムは会計、法制度その他周辺システムに支えられる経済システムの中核である。日本がその形成・発展に寄与することは、日本の金融ビジネス慣行やノウハウやも同時にアジア各国に移植されることを意味する。第二に、金融協力を通じてアジア市場が育成・整備されることは、結果的に日本の投資家が金融取引面での紛争やトラブルを回避したり、投資の安全性を確保することにつながる。

このように日本とアジアの金融協力が進むことを通じて、金融ビジネス関係も密接化することが期待できるが、これは取りも直さず、日本の金融の国際化、すなわち円の国際化のもう一つの形態である。

それでは、具体的にどのような形態の金融協力が考えられるであろうか。第一は、日本とアジアの二国間為替市場の育成である。日本とアジア各国の双方に円とアジア通貨の交換市場を形成することによって、ドルを介在させることに伴う為替リスクの発生を軽減することが可能になる。従来、こうした市場が育たなかったのは、金融機関にとってドル以外の通貨を保有することのコスト(保蔵コスト)が大きかったことが主因とみられる。コストを軽減するための官民双方の取り組みが待たれる。第二は、アジア各国の会計制度・金融関連の法制度の整備、決済システムの近代化・標準化支援である。加えて、体制移行国に対しては、銀行制度、企業財務などに関わる制度構築の支援も必要である。このうち、後者を推進するためには、日本の経済協力のあり方を見直していくことが必要であろう。アジア諸国の所得水準の向上につれ、ASEAN諸国などに対する日本のODAは無償資金協力についてはその使命を終えつつある。いわゆるODAの卒業である。このもとで各国の金融制度育成を支援していくためには、ODAを中心とする経済協力のあり方を見直すことが必要となる。すなわち、金融協力を日本の新しい形態の経済協力として位置付け、これを推進していくためには、これまでハード一辺倒といっても過言ではなかったODAの枠組みをソフト化し、金融面における制度構築の支援体制を充実させるとともに、旧来のODA概念を越えた経済協力体制のあり方を模索すべきであろう。
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