Business & Economic Review 1996年06月号
【論文】
防災の原点-人命を第一義とした防災への提案
1996年05月25日 公共システム事業部 大瀧雅治、公共システム事業部 山田由香子、研究事業本部 武山尚道
要約
昨年の阪神・淡路大震災が戦後最悪の地震災害となった理由としては、
・ 現地情報の収集や各組織間の連絡の悪さによる初動体制の不備
・ 被災現場での救助活動体制や救助手段の不備
の2点が各方面から指摘されている。瓦礫に埋もれた人を捜す有効な手段もなかった。
この大震災を受けて、中央防災会議では24年ぶりに国の「防災基本計画」を改定した。また、関係官庁や自治体でも、ハイテクノロジーを用いた情報の収集・連絡体制の強化、出動体制の迅速化、地域防災拠点の整備などを推進している。しかし、縦割り組織に依拠する点と線で結ばれた防災システムは、いざというときにはどうしても、組織的、時間的、空間的な間隙が生ずる。また、これらの計画では、住民の自助の必要性を明記しているものの、被災者の避難や人命救助のための効果的な手段・方法に関する記述はほとんど見られない。
先の大震災では、被災地の人々が自主的に協力し、近所の人々の所在確認、瓦礫に埋まった人の救助、消火活動などを真っ先に行い、行政の初動体制の遅れを部分的とはいえカバーすることができた。この点から、防災システムの間隙を埋め、面としての地域防災を進めるためには、
・ コミュニティ単位で活用できる救助・避難支援ツールの整備による対応能力の強化
・ 現在整備が進みつつある防災システムとコミュニティとの有機的な連携
・ 人を単位として、局地から広域エリアまでをカバーする情報の受発信と広域的連携
によって、人、コミュニティ、行政機関・防災組織が一つの社会システムとして機能するための仕組みをつくることが必要である。
以上のような観点から、人命を第一とした地域防災を実現する方策として次の2つを提案する。これらは国や自治体等の防災施策との連動を前提としており、早急な実現を求めたい。
1. 「リス(Life Saving and Identification)カード・システム」
……生き埋めを含む緊急事態に対して必要な情報を、無線(音波)とICカードを用いて提供するためのシステム。リスカードの本体は、所在を知らせるビーコン機能、行政無線などによる情報の受信機能、および各種情報の記録機能を、人々が常時携帯できるカード型にまとめたものであり、これを救難信号受信(質問電波発信)機、カードのリーダ/ライタ、データ通信装置などのマザー装置と組み合わせて利用する。
2. ハブ-サテライト型の「新地域防災拠点構想」
……本格的な大型地域防災拠点(ハブ)と、コミュニティ密着型・移動型の衛星型地域防災拠点(サテライト)を有機的に結んだ広域連携システム。各サテライトにはそれぞれ特徴的な機能をもたせる他、リスカード・システムのマザー装置を設置して、迅速な防災・救助活動の展開や、被災者・被災地の情報の広域的な利用を可能にする。