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Business & Economic Review 1996年05月号

【(地方主権特集)検討会】
地方主権検討会の模様

1996年04月25日  


日本総合研究所では、昨年秋より地方主権検討会を発足し、本年1月まで、月1回のペースで検討会を精力的に実施し、議論を重ねてきた。検討会のメンバーおよび日程、内容は次の通りである。

検討会メンバー(50音順、敬称略)
法政大学経済学部教授 黒川和美
東洋大学法学部教授  坂田期雄
行革国民会議理事兼事務局長 並河信乃
東洋大学経済学部教授 吉田敬一
日本総合研究所副理事長 海野恒雄 (オブザーバー)
日本総合研究所副会長 西村功

検討会の日程、内容
第一回 9月18日黒川委員による報告およびディスカッション
「行政改革の進め方とメリット:地方財政の議論のための材料提供」
第二回 10月23日 坂田委員による報告およびディスカッション
 「地方分権をどう進めるか:現在の進め方の問題と今後の方向」
第三回 11月27日 並河委員による報告およびディスカッション
「地方分権論の穀z」
第四回 12月18日 吉田委員による報告およびディスカッション
「自立型地域形成のための産業政策の視点」
第五回 1月22日 地方主権検討会の提言案に関するディスカッション
この間、事務局サイドでは、自治省や都道府県に対するヒアリングなどの活動を行った。

検討会の議論の概要は次の通りである(ディスカッションの部分敬称略)。

第1回の検討会においては、黒川委員より、次のような報告があった。

地方主権問題を考えるうえでのキーファクターとしては、以下の4点を考える必要がある。

第一が、効率的な公共サービスの供給規模の観点である。財政主権の点からみると、地方主権は「資金を使うこと」、「財源を調達すること」の両面で個々の自治体に権限と責任を求めるものである。「資金を使うこと」に関しては、公共サービスを効率的に供給するために必要な自治体の規模が問題となる。現行制度は、自治省が基準財政需要を算出し、個々の自治体の財政規模を規定するシステムであるが、一定規模以下の自治体では非効率が発生している。実証研究によると、基礎的自治体は最低限人口30万人以上が必要になる。第二が、一体的な地域の経済力の観点である。歳入面からみると、所要の財政基盤を確保するためには自治体域内にどの程度の地域経済力が必要かという点が問題となる。人口と人口密度から概算的に推定すると、自治体の最適規模は人口30から35万人という結果になる。第三が、効率的民主主義の観点である。政治システムの観点からは、民意を効率的に自治体の意思決定に反映するための自治体の最適規模が問題となる。自治体規模と投票率の関係からみれば、自治体規模が小さいほど投票率は高い傾向がある。第四が、歴史的民主主義の観点である。地域的、歴史的結びつきを重視するコミュニティー論から自治体の在り方を検討する見方もある。

次に、地方自治と地方行革を進める手順についてであるが、第一は国の行財政改革の推進である。すなわち、高齢化に伴う財政負担を吸収し、かつ増税を回避するために、既存公共サービスの取捨選択が必要であり、国家公務員の半減、特殊法人の全廃等に取り組み、公共事業費、教育費などを除いてその他の歳出は一律2割削減することである。第二は、行政制度の変革であり、中央省庁を整理統合し、州府制を導入する。第三は、高齢化社会を迎えるための地域の基金の設立であり、地域レベルでの自主的対応として、高齢化、環境問題に適応するための基金を創設する。第四は、州府制のもとで、政治システムの見直しを行い、2010年までに、公務員の移動手順などを進める具体的なスケジュールを考えることとすれば良い。

これに対して、他委員からは、地方主権を進める重点項目は何と考えるのか、国家公務員半減の具体的内容はどのようなものか(以上坂田)、地方の財政力と税制の位置づけについてどのように考えるか(並河)、といった質問があった。これに対し黒川は、地方主権推進の重点項目は「行財政改革」であり、国家公務員を州に移管して数を減らしていく必要があること、税収と財政力の関係について例えば連邦制を考えた場合、北海道を除いて問題はなく、特別な財源調整は必要がないと回答した。また、東京一極集中の問題や地方主権後の国の役割について質問があった(西村)が、これに対して、黒川は、東京の経済の一部(約2%)を地方展開するだけで地方の活性化が可狽ナあり、国は国防、外交、その他監視機狽ノ徹し、国の現業の民営化も促進すべきであると答えた。また、海野は、地方分権と地方主権の違いについての考え方を問うたが、これに対し黒川は、分権は中央からの転換の方向性であるが、主権は理念であり、この点が決定的に違うと述べた。

第2回の検討会では、地方自治体の現状と最近の地方分権論議のポイントについて、事務局から説明をしたうえで、坂田委員より次のような説明があった。

まず、現在の分権論議には、地方における低調な議論、法律論偏重、地域住民の視点の欠如という問題がある。今後、これらの問題を解決しつつ地方分権を阻害する基本要因の明確化、打開戦略、受け皿の整備を進める必要があり、総論ではなく、具体的な方法論が不可欠である。

次に、地方の現状と分権の進め方について、近年、市町村が町づくりの主体として成長を遂げ、地方単独の公共事業の増加、地方の自主性を活かした地域総合整備事業等が実現している。分権を実現するためには、各論、具体論を通じて地方現場の不合理な実態をアピールする方法を採用していくべきである。具体的には、府県レベルで(1)国の不合理な行動事例の洗い出し、(2)都道府県から市町村への権限移譲、(3)市町村の行政迫ヘ強化に向けた支援が必要である。市町村レベルでは、(1)国および都道府県の不合理な行動事例の洗い出し、(2)移譲を希望する権限の明確化、(3)行政迫ヘの向上、(4)住民パワーの喚起等が有効である。個別分野についても、不合理な実態の指摘と改善を柱に進め、市町村への権限移譲に消極的な都道府県の態度、国の縦割り行政の弊害等を示して世論に訴える。また、現場担当者の意見を活かし、とくに権限移譲を求める分野に重点的に注力する必要がある。

分権の阻害要因は、(1)中央省庁の強い権限欲、(2)影響力の低下を本音では歓迎し得ない政党、議員、(3)事務の増加を見越して消極姿勢を取る地方サイドの3点であり、これを打開していくためには、政治の強いリーダーシップ、市町村の意欲、住民のバックアップが重要である。また、分権に伴い、受け皿となる地方の政策形成迫ヘ、行政迫ヘの充実も不可欠である。市町村職員の意欲や意識の向上、迫ヘ形成に向けて誘因を整えたり、都道府県の支援により専門知識、技箔凾フ向上を図ることも重要である。また、地域住民と接する市町村職員のモラル向上も重要課題である。

これに対し、分権を進めるためには携わる人の迫ヘが極めて重要であるという点や国民の目にみえるかたちで地方分権を進める必要性について黒川が賛同を示した。また、吉田も県などが市町村の方を向いて仕事をしている地域は、産業活性化などについても成功している例が多く、また地域の活性化は地域でリーダーとなる起業家、人材がいるかどうかが重要であると述べた。一方、最近の官官接待の実態などに照らして、国と地方の権限事務配分に問題があるのではないか(海野)、現行制度に照らせば、官官接待が必然なのではないか、といった質問があった。これに対し、坂田は、地方行政の細部に干渉してくる中央集権的体制によって官官接待などが起こっている、効果があるとすれば、顔をお互いに知るということに伴う心情的な面程度ではないか、と述べた。この点、黒川から、やはり課税権を地方に移譲すれば、官官接待をはじめとした現状の歪みは打開可狽ナあり、まず、現状のシステムをゼロクリアーするべきであるとの意見が出された。

第3回の検討会では、並河委員より次のような報告があった。

すなわち、地方分権を進めるには、(1)法制度の革新、(2)税財政面の革新、(3)具体的な移行戦略の3者を一体に取り扱う必要性が大きい。

法制度面の革新としては、(1)まず地方主権を確認する。つまり、地方、州、連邦レベルの政府を設置し、主権在民の原則を踏まえ、個人に近い地方政府(市政府)にまず主権を信託する。共同作業、調整を要する仕事に限り、順次、州、連邦政府へ移管していく。そのうえで(2)立法権を移譲する。3層制政府を担保する仕組みとして、各政府への立法権の移譲は重要であり、大枠をなす基本法は連邦、具体的な生活関連法は市および州が担当するように法体系を見直す。将来は州、市も憲法を持ちうるが、当面現行法体系内の改革を優先するため、自治体の条例の充実が鍵となる。そして、(3)行政、司法権の移譲を実施し、2010年から2020年頃を目処に連邦制を目指す。移行戦略は、3段階に分け7、5、3年の期間を設ける。

税財政の革新としては、国が税を取りすぎている現状を改革するため、地方交付税、譲与税等を全廃し、代わりに各地方において徴収される仕組みとする。同時に法人税、所得税からなる共同税を設け、国税を全額繰り入れてもなお現行の地方財政規模に満たない自治体に対して資金融通を図ることとする。また地域間格差の縮小には、税収の東京一極集中が必要であり、特に法人税、消費税の偏在は是正するべきである。法人税の分布を事業税並に、消費税の分布を小売り販売額並にして国税収入を算出すると、相当程度歪みが解消される。

移行戦略の大筋は地方分権基本法を設定し、ワーキンググループを国会内に設置する。基本法は理念の他、国と地方の権限、税源の分配等を明確に定めた準憲法的なものとする。

これに対して、坂田から国税の地方税化や連邦制は賛成だが、実現は難しく、総論的な基本法に実効性があるのか疑問である。国会ではなく、地方主体の分権推進が基本ではないかとの疑問が呈された。これに対し並河は、分権の大きな枠組みとなる基本法は不可欠であり、立法権を持つ国会に所属する議員が分権を推進していくことが必要であると答えた。一方黒川は、連邦制に賛成したうえで、分権のインセンティブを与えるためには何が必要かという点を質問した。これに対し、並河はインセンティブを与えるためには、現行の交付税制度を改革する必要があると述べた。また、現行の憲法のもとで連邦制に移行することは可狽ナあるとの見方を示した。さらに、共同税の分配の仕方についての質問に対して、並河は、恣意性を排除するため過去の実績ベースで機械的に実施する必要があると答えた。また、遷都問題との関連で、遷都重視は中央集権の裏返しであり、分権が進めば、遷都先はどこでも可狽ナあるとの見方を示した。

第4回は、吉田委員より次のような報告があった。

すなわち、中小企業論から地方主権を唱える理由は(1)キャッチアップ型経済に代わるフロントランナー型経済には民族性や歴史性、地域性を活かした新産業が不可欠である。(2)その担い手として地場の中小企業の役割が大きい、(3)このような企業を支援する地域産業政策が必要、の3点である。

フロントランナー型の経済の下では、必要条件でなく助ェ条件としての豊かさ、すなわち歴史性、民族性、地域性を活かした衣食住や環境、福祉を意識した財、サービスが追求される。今後の日本経済は、従来の普遍的財、サービスに加え、個性的財・サービスの生産に立脚した2本足国「となるため、従来上下関係であった大企業と中小企業は並列関係となり、国内も中央対地方の関係ではなく、個性的な各地域の集合体となる。

このような時代においては、中央の計画を伝達するのではなく、文化に根ざした支援策が必要だが、地方には財源、人材がなく、新しい柱(個性的財、サービス産業)への支援策が不在である。また、中央の縦割り行政の権限をそのまま移譲しても都市計画と地域産業政策の統合化ができず、逆効果である。

また、従来の中小企業支援策は、住工分離、効率性重視であったが、21世紀に向けては、個性的財、サービスの生産にかかわる産業支援として、住工一致の柔軟な生産体制が求められる。それに対応して支援システムもこれまでの国主導のものとは異質な内容が必要である。すなわち、普遍性のある製品文化の確立であり、次いで、非欧米型のトレンド発信の確立であり、それを支える地域の豊かさ、個性が不可欠である。このためには、町づくりと産業政策を一体的に捉えた日本型の豊かな地域社会の自立が鍵となる。

次に事務局から、これを補足して次のような説明を行った。

すなわち、地域が自立していくためには、地域資源を活かして内発的に地域産業を創出していく必要がある。現在大手企業の空洞化現象をチャンスと考えている地域個性型中小企業の誕生は確実な情勢となっており、系列とは無縁の独自ネットワークによって都市間を結んだ活動を展開している。大学等を活用したテクノポリス国zにより、30万人規模の都市を創造的地域活動センターとして活性化していくためにも行革が必要である。また、地域から新産業を創出するためには、ニーズ主導によって産業政策を事業化の現場に即応した実効性のあるものとする必要がある。そのためには行政が中央への規制緩和やモデル事業などを仕掛ける箔ョ的な地域産業のコーディネーターとして機狽オていくべきである。

これに対し、黒川は、次のように述べた。イタリアでは大都市においてある程度事業が成功した後には、理屈抜きに生まれ故郷に本社を設立し地域に根付く風土がある。しかし、日本の起業家にはそうしたところはなく、東京、大阪に進出して成功した後に地元に戻ることは少ない。これは戦後の産業政策による影響も大きい。また地域に根ざした企業活動が活発なアメリカなどでは情報インフラが整備されていることも大きいのではないか。これに対し、吉田は、日本の産業政策が、産業、情報など全ての面で集積化によるメリットを追求してきた結果、企業は大都市に進出せざるを得ない状況にあったことが大きいだろうと述べた。また、坂田は、地域産業振興には最低30万人程度の人口が必要であるが、現実には、地方から若年層人口の流出が進んでいる。また、地域振興には地域の自主性が重要であり、行政がこれを後押しすることが必要であると述べた。これに対して、吉田は、地域振興には人口よりも起業家の存在が重要である、行政面でも意欲ある起業家を支援していくことが大切であると述べた。さらに、並河は、地域産業に対するファイナンスシステムをどのような仕組みにすべきかを考え、株式の店頭公開基準緩和など直接金融による新たな資金調達の仕組みと、財政資金などを組み合わせて総合的な地域金融システム穀zを検討していく必要があると述べた。これに対して吉田も、現状のベンチャーキャピタルがリスク審査機狽ノ欠けており、新規産業育成の役割を果たしていないとし、同様の問題意識を示した。また、地方企業に投資対象としての魅力がないことも、投資資金が動かない要因ではないかとの指摘もみられた。

第5回目は、検討会の提言の内容について、活発な意見交換が行われた。
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