Business & Economic Review 1996年03月号
【論文】
わが国有価証券関連税制の改革に向けて
1996年02月25日 新美一正
要約
資産関連税制、とりわけ土地と有価証券に関する税制の改革に関する論議は、近年の税制改革論議における中心的論点の1つである。また、旧来の人為的な資金配分システムからの脱却が進み、資金配分における証券市場の比重が従来以上に高まることが卵zされる現在、公正な資金配分を実現する有価証券税制の確立は国民的にも重要な課題である。本稿では、わが国有価証券関連税制の現状と問題点をサーベイするとともに、今後のあるべき有価証券関連税制のあり方に対する提言を試みた。
現在の有価証券税制改革を巡る諸論議は、(1)制度自体の欠陥・矛盾を巡る論議と、(2)証券市場活性化策としての税制改革を巡る論議が複雑に交錯しており、これが論議の本質を見通し難いものとしている。実効ある有価証券税制の改革には、課税ベースの明確化という問題意識が不可欠である。
課税ベースに関する3つの基本理論(包括所得税、支出税、分類所得税)の内容を吟味すると、今後の税制改革においては、包括所得税の持つ欠陥を助ェに認識しつつ、所得税を中核とした現行税体系を課税ベースの拡大と総合課税化という包括所得税の理念に可狽ネ限り接近させていくという方向性が、現実的な選択肢となると考えられる。
包括所得税の立場からは、有価証券譲渡益の完全総合課税化は当然の方向である。譲渡益の総合課税化が実現すれば有価証券取引税の存在根拠は消失するうえ、国際的に経済行為自体に対しては課税しない傾向が強まっている現実を考慮すれば、有価証券取引税については可狽ネ限り早期に撤廃することが望ましい。さらに長年の懸案となっている配当二重課税については早急にインピュテーション方式の採用によって是正を図るべきであると考えられる。
以上の考察を踏まえて、わが国有価証券関連税制の改革に向けて以下の5点を提言したい。
1. 有価証券取引税の撤廃
2. 株式譲渡益課税の総合課税化と投資損失の完全控除
3. 課税繰り延べ効果を持つ確定拠出型年金制度の創設
4. 配当課税におけるインピュテーション方式の導入
5. 譲渡益の完全な把握と金融商品間の課税の公平を確保するための納税者番号制度の実施