Business & Economic Review 1996年02月号
【論文】
企業変容-BPRを「断行する」な!
1996年01月25日 事業戦略研究部 竹之内隆
要約
ビジネス・プロセスリエンジニアリング(BPR)が世に問われて久しいが、わが国企業において華々しい成果をあまり耳にしない。これは、リエンジニアリングが現状を打破できるかどうかという疑問を企業家が抱いていることが主な要因ではないか。実際、BPRにはセンセーショナルなイメージがつきまとうが、実践する段になると思想や理論も脆く、方法論も具体性に欠ける面がある。既往最悪の不況から、大震災を経て21世紀を間近にした今、企業家は小手先の手法ではなく、明るい未来を指向するゆるぎ無い理念、理論と企業変容への確固たる方法論を求めている。
本稿ではポストBPRを視野にいれ、企業変容のフレームワークとしてエンタープライズトランスフォーメーション(Enterprise Transformation)を提唱し、その理念、背景にある理論と方法論の一端にふれたい。
まずBPRの欠陥とも言える理論的矛盾と方法論の脆弱性についてふれる。即ち、BPRを実際に実践するとなると、とたんに行き詰まる現実を解説する。
ついで、胸のすくような、大胆な改革を特定少数の人間が生み出すようなアプローチを否定している。混沌とした生産現場や営業現場からロジカルな動きがうまれ、創発的に組織全体がそれを取り上げ戦略化する。しかも増分的に組織のDNAを組み替えつつ自己超越を繰り返していくようなモデルを提示する。これを「エンタープライズ・トランスフォーメーション」と呼んでいる。ここでは、エンタープライズ・トランスフォーメーションの理論、および哲学について解説する。中心的概念は継続的変容とイネーブラー の意識的導入です。理論的、哲学的バックボーンにあたるM.Pフォレットの「統合」理論とC.アージリスの組織学習理論及び増分的な戦略形成モデルを提示するH.ミンツバーグの「インクレメンタリズム」等についてふれる。乱気流水準の高まる現代では、昨日までの「あるべき姿」が明日の「あるべき姿」を保証しない。目標を静態的に捉え、戦略プランニングを試みても前提条件そのものが動体的であり合理的なアプローチはかえって有効性を失うという時代認識にたっている。
さらにはEnterprise Transformationの方法論としてオブジェクト指向のビジネス・エンジニアリングを紹介する。継続的変容を保証するためにビジネスシステムをいくつかのオブジェクトとして捉え、ここに変容のイネーブラーを組み込むことで現状の効率化と次世代へのトランスフォーメーションを保証する。Enablerの一例としてパッケージャtト、グループウエアーをあげておく。即ち、前章では考え方としてのEnterprise Transformationにふれたが、ここではその具体的な方法論を提唱する。ビジネスの進化を支える為にビジネス・テンプレートをャtトウエアーを含めてあらかじめ用意しておき適宜企業の進化の度合いに応じて当てはめていく手法を紹介する。具体的には、当社がパートナーになっているSAP社のR/3 とオリベッティー社のミドルウェアーIBIsys を使ったビジネス・テンプレートャ潟・[ションを紹介する。
最後に、企業がEnterprise Transformationを実践するための政策提言を行う。とりわけ、ビジネス・テンプレートを活かすための経営施策について論じる。ファッションとしてのリエンジニアリングを脱却して、常に一定の経営資源を変革に振り向けることの重要性についてふれる。