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Business & Economic Review 1996年02月号

【PLANNING & DEVELOPMENT】
地方自治体への歳出管理予算システムの導入-節約インセンティブの強化に向けて

1996年01月25日 社会システム研究部 鈴木徹 、社会システム研究部 奥原英彦


1.地方自治体を取り巻く厳しい財政状況

地方分権が今日の大きなテーマとなっている中、地方自治体に求められる役割は大きいものがあるが、それに応えるための財政状況は厳しい。94年度の地方税収は3年連続の減少となり、また地方自治体を支援する国も武村大蔵大臣による「財政危機宣言」を出し、96年度予算では、新規債だけでも建設国債9兆円程度・赤字国債10兆円前後と、いずれも過去最高額を発行する見込みであり(読売新聞95年12月10日付け)、今後は歳入面で大きな伸びは期待できない。このような制約が強まる状況の下で、多様化する住民のニーズに対応するには、効率的な予算執行が求められている。ここでは現行予算システムの改善に焦点を当てる。

2.現行予算システムの概要と問題点

地方自治体のあらゆる施策は予算システムを通して具体化される。すなわち、地方自治体の活動には、予算の編成およびその執行の適正さが求められている。

予算の編成というインプット段階では半年近くの期間を経て、担当課の見積りを財政課等で査定するという作業結果を積み上げ、議会の議決に至る。査定作業の中で、また議会における審議の中で事業等の必要性等が評価・検討され、その過程で最小限の支出と最大の効果という目的が追求される。

ただ、予算の編成は支出の枠を決定するに とどまるので、執行というアウトプット段階でもその目的を追求する必要があるが、予算配分に過不足はないという前提があるため、その達成は不十分になることがある。仮に予算の執行において節約がなされ、余剰が生じたとしても、その事実が翌年度の予算編成作業に反映され、余剰分として減額される。このため、現行予算システムの執行においては、節約についてのインセンティブが弱いことが問題点として指摘できよう(図表1)。

3.歳出管理予算システムの概要とメリット

この節約のインセンティブの強化に見事に成功している事例として、カリフォルニア州フェアフィールド市での歳出管理予算(Expenditure Control Budget) というシステムがある。このシステムは州からの補助金の削減や、減税を求める提案が住民投票により可決されるという「納税者の反乱」により、課税 対象となる不動産の評価額が10年間据え置きとなるなど、歳入をめぐる環境が厳しくなったことを背景として採用されたものである。このシステムの導入により、市は1981年度には最も財政的に健全な都市の1つとして、カリフォルニア州から評価されるとともに、導入の1979年度から1991年度までの期間に、割り当てられた予算より610万ドル少ない歳出を達成するという成果をあげている。

このシステムは編成時における査定を原則としてなくすとともに、執行時の節約分をその部門のファンドとして翌年度に繰り越せるようにしたものであり、以下のように運営されている。

・ 予算配分の前提として財政局が他局と調整のうえ、今後10カ年度の歳入・歳出の見込みを作成する。これは各年
度の具体的な予算配分の際に参考とされる。

・ 同レベルのサービス維持を前提として、各局には前年度と同じ割合で予算が配分される。またインフレや人口増加を考慮して配分が一律に増額される。

・ 歳入が減少した場合、各局の増額が凍結されるかまたは配分が一律に削減される。

・ 予算は原則として各局ごとに包括的に配分される。

・ 担当局が新しい事業を始める場合などは、その局と財政局が事前に協議し、歳出管理予算の枠とは別に予算が配分される。

・ 予算編成が上記の原則に基づき行われるため、その期間はおおむね3カ月である。

・ 予算配分の中で支出しなかった分は、年度を越えてその局に繰り越し分として残される。

・ 繰り越し分は必要となるまでいつまでも保持することができる。

・ 繰り越し分は他の計画や設備に利用することができる。実際には一時的に人員を増やすための人件費や能率を上げるコンピューターソフトの購入などに用いられている。

このシステムのメリットは、支出を小さくし、繰り越し分を増やすことにより、結果的にその局の予算的自由が広がるため、節約への強いインセンティブが内在していることである(図表2)。歳入面の状況好転が望めない場面では、歳出管理予算システムを活用することで効率的な財政運営が可能になることを示している。

4.日本での導入の課題と展望

このようなメリットのある歳出管理型の予算システムを活用し、日本での現行予算システムの効率化を図るには以下の検討が必要となろう。

第1に、同システムの適用が効果的な分野の選定である。具体的には土木等の分野が考えられる。これは適用による効果の現れやすさ、効果の大きさの観点からみると、人件費などの義務的経費の割合より任意的経費の割合が比較的高い分野、また全予算に占める割合が大きい分野であることが適用の基準として考えられるからである。留意点としては、予算査定に節約意欲を損なわないルールを設けることである。たとえ節約による繰り越し分を認めても、それに相当する分が新たな予算配分から減額されるのであれば、節約の意欲を削いでしまうからである。

第2に、節約の意欲を持続させるため、繰り越し分の使途に関するの自由性の許容である。フェアフィールド市の運用を参考にすれば、高性能なパソコンやファクシミリ等の事務機器や必要な参考図書の購入、不足する他の事業への運用等が考えられる。

第3に、住民へのサービスレベルが維持された上での繰り越しや、その使途の適正さの確保である。これには議会や監査委員が、行政活動の実績を評価する役割を果たすことが重要であろう。

現在、施策の事後評価は担当課の予算見積りの資料や財政課の査定のひとつの基準等に用いられているが、歳出管理予算システムは予算編成段階にはあまり重点を置かず、執行の結果を十分に検討することにより、翌年度以後の執行の適正を確保することになる。現行制度上は、執行の妥当性等を判断するために議会の決算認定という手続きが存在するが、一般的には予算の議決と比較して重視されることが少ない。このため、単に収支の確認にとどまるのではなく、予算投入の成果を正しく評価する役割が議会や監査委員に求められる。このためには抽象的な政策目標の達成状況を、達成量や達成率等、できる限り具体的な指標に置き換えることがポイントであると考えられる。
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