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Business & Economic Review 1996年02月号

【MANAGEMENT REVIEW】
空洞化に対応したアジア戦略の転換

1996年01月25日 事業戦略研究部 西村克己


1.拡大するアジア市場

ベルリンの壁の崩壊を境に、自由主義、社会主義の二極化した経済圏が一つの経済圏になった。かつては、ココム協定に代浮ウれたように、社会主義国との自由貿易や企業の経済進出はタブーであった。しかし、今や世界の市場が一つになり、中国人民12億人の未開拓市場をねらって、世界が動きだしている。近年、アジアの時代といわれているのも、中国の市場開放が大きな加速力としてとらえることができる。

2.空洞化する日本経済

10年前は、日本の貿易黒字と円高背景の下、アメリカの強い要請も相俟って、アメリカへの現地工場進出を推進した時代であった。日本産業の空洞化のはじまりでもあった。しかし、ここ数年は、アジア諸国への日本の企業の進出がめざましい。これは、アジア諸国からの要請というよりは、円高の背景の下、コストダウンを進めてきた結果といえる。

アジア諸国の物価水準は低い。日本国内での合理化効果をはるかにしのぐ安い人件費を求めて、アジアへの工場進出が加速している。現在、従来型の家庭用テレビは全て海外生産し、ハイビジョン対応の横長テレビ等の高付加価値商品のみ国内生産しているメーカーも多い。VTRの海外生産シフトも加速しており、オープン価格に代浮ウれる低価格指向に対応している。日本産業の空洞化はとどまるどころか、ますます加速するばかりである。既存産業の空洞化が食い止められない以上、中長期的な日本産業の成長の視点にたった、空洞化への対策を新たな次元で考えていく必要がある。

3.既存方式の限界

日本の海外工場進出の最大の目的は、コストダウンの実現である。日本の生産技術をアジア諸国に持ち込み、安い賃金、安い土地を利用したコストダウンを実現する。そこで生産した製品を、物価水準の高い日本に持ち込み、利益を確保しようとするものである。

かつて日本企業は韓国の進出を強力に推進してきた。その結果、韓国企業の生産技術が強化され、特に鉄鋼、造船の重工業の自立が著しい。 今までの日本企業の進出をみると、情報公開、技術公開の世論の下、あまりにも無防備に技術提供しているようにみえる。日本が何諸Nも試行錯誤して築いてきた生産技術(特に量産技術)や管理技術を、惜しげもなく海外に提供している。今後数年もすれば、量産技術にかけては、日本の技術者を不要とし、日本の存在意義さえ薄れてくるかもしれない。

すでに韓国では、低コストを武器に、日本企業をしのぐ企業がいくつも存在している。以前、日本のファスナー企業が韓国に合弁会社を設立した。現在資本提携も解消され、競合企業として世界市場を奪い合っている。無償に近い日本の技術提供のやり方では、将来的には日本企業に不利益である。今こそ、コストダウン中心のアジア進出の考え方から、中長期的視点にたった、アジア戦略が必要といえる。

4.今後の日本企業の対応

アジア戦略を、超短期的にみれば、物価格差によるコストダウンの実現であろう。しかし、中長期的にみると、アジア進出の目的を次の4つの視点から再穀zしていくことが急務である。

(1) 現地の顧客の囲い込みとシェアの拡大

海外に工場を建設すると、現地の雇用が促進され、個人所得の増加により、消費が拡大する。また、現地に工場があることで、その企業の知名度と信頼度を増す。雇用と消費の良循環を意識的に作り上げることが、中長期的視点で大切な考え方である。ターゲット市場は日本ではなくアジア(特に中国)である。

例えば、現地採用の社員に、自社製品の割引制度を導入したり、現地の販売代理店等の販売流通網を整備することが重要である。早期に行うほど、シェア拡大が有利になろう。

(2) 資本面での将来的利益確保のしくみ作り

現地企業が自立したとき、育成した日本企業に継続的な恩恵が得られるしくみを穀zしておくべきである。他国への産業育成に注力し、その見返りが競合企業の増殖では、何のために努力したのかがわからない。そのため、株式資本比率を優位に保持し、同時に株式配当性向をアメリカ並みに高く設定することも効果的であろう。

(3) ライセンス提供による継続的な収入確保

ライセンス提供により、継続的に収入が入り続けるしくみを作る考え方も重要である。ライセンス収入として、商標権、著作権、特許権収入が考えられる。例えばマクドナルドは、フランチャイズ方式により、商標権やノウハウを提供することにより、日本国内の売り上げの一部がアメリカ本社の継続的な収入になる。

要するに、労働集約的な収入国「から、ライセンス型の収入国「に転換する考え方が重要である。例えば技術支援段階から、技術提供料を長期的に確保できる契約形態を考慮するべきであろう。

(4) 新技術、新産業の継続的開拓

これからの日本企業の役割の一つに、新技術と新産業の継続的な開拓がある。現在、規制緩和の流れにのって、携帯電話、PHSが伸びている。特にPHSは日本が開発した製品であり、海外からの関心も高い。これらの新産業を継続的に生み出し続けることは、日本企業にとっての必要条件といえる。

今が日本企業のアジア戦略成否の分岐点である。他社に先駆けていかに現地の顧客を囲い込むか、また、ライセンス型の収入国「を穀zできるかにかかっているといえる。
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