Business & Economic Review 1996年02月号
【INCUBATION】
動き出した日本のエレクトロニック・コマース(1)
1996年01月25日 事業企画部 新谷文夫
通商産業省を中心とするエレクトロニック・コマース
1995年12月15日、通商産業省が「電子商取引(EC)実証推進協議会」の発足、および、そのもとで推進する21の開発プロジェクトを発浮オた。 エレクトロニック・コマース元年、1995年の最後を飾るにふさわしいニュースである。
この「EC実証推進協議会」の役割は、電子社会における様々な取引に関する技術の標準化である。例えば、ECの一分野である「企業・消費者間」の取引において、消費者が安心して取引を行うことを可狽ニする技術に「セキュリティ技術」がある。消費者がインターネット上に開設された「電子ショッピングモール」から商品を選定、注文した後、オンラインで決済を行う際に、その取引に関わった人間が本人であることを証明する技術(認証技術)とその取引においてインターネット上でやりとりされるデータを保護する技術(暗号化技術)が「セキュリティ技術」にあたる。
この「セキュリティ技術」のような基盤技術を標準化することで、電子商取引の実行環境を整備し、より多くのトランザクションを生み出すことにより、EC分野に関わる産業の育成をはかることが通商産業省の目的と推測される。
「EC実証推進協議会」は350社の参加が見込まれている。いずれの企業もEC分野で事業開発を行うことを目的としており、これらの企業が「EC実証推進協議会」において活発に情報交換を行うことで、EC分野の技術に関する「デファクト・スタンダード(事実上の標準)」が形成されることが理想的な展開である。ただし、二つの課題に留意しておく必要がある。一つは、産業界において「EC実証推進協議会」と風一体となって動く事業開発を推進することであり、もう一つは、アメリカをはじめとする世界各国との共通の標準形成を推進することである。
産業界における事業開発の推進
民間企業においてもEC分野参入のトライアルは1995年の初めから行われている。その試みは、第一段階としては、インターネットを利用した企業の情報発信実験という色彩が強かったが、通商産業省の補助金プロジェクト(「EC実証推進協議会」による21の開発プロジェクト)の計画が発浮ウれた段階から、本格的な電子商取引実験へと進化してきている(図浮Q)。 総計で100億円の通商産業省の補助金を事業開発のきっかけとすることがそのモチベーションとなった。
しかし、もちろん補助金だけで事業開発費用のすべてを賄うことは不可狽ナある。民間企業としては、市場が立ち上がるまでの2~3年は先行投資を覚悟する必要があることも事実である。したがって、民間企業には、最小の投資で最大の効果を生み出す戦略が必要となっている。3つの戦略が重要である。
第一は、現存しない市場を立ちあげるための「異業種提携コンメ[シアム」による「市場開拓戦略」である。EC分野における事業開発には、「インフラ、ハード、ャtト、コンテンツ、サービス」の5業種の結集が必要である。「インフラ、ハード、ャtト」といった技術サプライヤがいかに良い技術を提供しても「コンテンツ、サービス」が伴わなければ、最終的なトランザクションに結びつかないからである。
第二は、新しい「コンテンツ、サービス」の提供方法を実現する「複合商業機萩ヤ」の形成による「市場誘発戦略」である。例えば、インターネット上の「電子ショッピングモール」は、既存の通信販売カタログやTVショッピングとどのように差別化できるのか、そして、実際にショッピングに出向くことに対する差別化はどこに求めるか、といったことを助ェに検討することが求められている。「複合商業機萩ヤ」の意味するところは、カタログや雑誌等紙媒体の長所、TV等既存の電子メディアの長所とインターネットの特長である「双方向性」を合わせ持つサイバースペースの創造である。通信費用をかけてもアクセスする価値のある空間を創造することができるか否かが極めて重要な課題である。
第三は、「トランザクション」「コンテンツ」「インターフェース」「マーケティング」の4つの技術をサプライヤ企業とテナント企業が一心同体となって開発することにより、消費者が安心して楽しくアクセスできる空間を提供する「市場創造戦略」である。「トランザクション」は安心を、そして「コンテンツ」は楽しさを提供する技術である。また、「インターフェース」は消費者がECに触れる機会を増やす技術(マルチメディアキオスク等)であり、「マーケティング」は消費者のアクセス状況をサプライヤ企業やテナント企業にフィードバックする技術として、消費者がより安心により楽しく参加できる空間を提供することを目的としている。このようなサプライヤ企業とテナント企業の共同開発は「プロシューマ(プロデューサ+コンシューマ)」型開発と呼ばれ「デファクト・スタンダード」の形成に最も有効な手段のひとつである。そして、これら3つの戦略を取り入れた民間企業グループが通商産業省の「EC実証推進協議会」と協力して動くことがEC分野の事業開発への近道であることは想像に難くない。
世界各国との標準形成の推進
ECの実現は商取引の世界で国境を無くすことにつながる。実際に、インターネットを通してアメリカやヨーロッパから商品を購入している消費者もではじめている。しかし、電子商取引の標準はいまだに定まってはいない。世界的に見れば、1994年から開始されたアメリカの「コマースネット」(140社が参加し、EC分野の実証実験を推進するコンメ[シアム)がその先鞭をきったところだ。「EC実証推進協議会」も「コマースネット」との全面的な協力関係の穀zを嵐閧オていると聞く。民間企業のレベルでも、「EC実証推進協議会」ならびに「コマースネット」と協力して、国際的な標準形成を推進する母体が必要となってくる。現在、NTT、富士通、そして、当社が幹事となって「コマースネット・ジャパン」の設立を目指している。この組織が日米間の情報交換を助長し標準化を目指す実証実験組成の一助となれば幸いである。
最後に
日本におけるエレクトロニック・コマースの現状をご紹介してきたが、1996年度にはいくつかの実証実験が開始される。図浮Qに名を連ねるグループがそれぞれに実証サイトとしてのモールを穀zし、エンドユーザへの働きかけを始めるわけだ。「産業界における事業推進」において述べた「3つの戦略」をモール穀zに反映させ、エンドユーザおよびテナント企業に対して求心力を発揮するのはどのモールとなるのであろうか。1996年は、その真価が問われることとなろう。(なお、次回は、「3つの戦略」に関する具体的な活動事例を紹介する嵐閧ナある。)