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Business & Economic Review 1998年06月号

【OPINION】
PKOの拡大よりも確定拠出型年金の導入を

1998年05月25日  


3月末の決算対策として、東証株価を1万8000円台以上にしようとした株価維持対策(PKO)は、結局、政府の思惑どおりの効果を発揮せずに終わった。今回の株価維持対策は、3月27日に郵政大臣が正式に実施を表明し、郵便貯金と簡易保険の自主運用分について資金規模は一兆円、日程は30、31日に投入するということまで指定する手法がとられた。さらに、今後の課題として、簡易保険福祉事業団などを通じて行う単独運用指定金銭信託以外にも、郵政省の株式運用の裁量性を高めるように法律を改正するとの自民党首脳の発言もみられる。しかし、こうした方向感は、いくつかの点で大きな問題がある。

第一に、政府が実施すべき株価対策は、株価への直接介入ではなく、株式のファンダメンタルな価値を高める構造改革、なかんずく金融・資本市場活性化策と景気対策である。

第二に、郵便貯金は、安全確実に運用されるものとみなされ、それを前提として国民が貯金している。もし、株価対策にこの資金が使われ損失が生じたとき、誰がいったいその責任をとり、損失の穴埋めをするか、という点についてコンセンサスがまったく得られていない。

第三に、第一点とも関連するが、巨額の公的資金による金融市場介入のさらなる拡大は、フェアー、フリー、グローバルという日本版ビッグバンの理念とはまったく相容れない。

それでは、資本市場活性化の観点から、政府が取るべき対応は具体的にはどのようなものだろうか。この点、もっと早急に検討されるべきは、3月の景気対策にも盛り込まれた確定拠出型年金の導入である。一見構造対策でもあるこの政策は、早急に実施することによって、正しい意味での株価対策、そして、景気対策になり得る。こうした新しいタイプの年金商品の導入は、情報システム関連産業や、資金運用産業にも新たな需要増をもたらすことも期待できる。

米国の確定拠出型年金は現在も急速な伸びを示しており、現在では確定給付型年金と同じ程度まで規模が拡大している。周知の通り、確定拠出型年金は、転職の際に持ち運びができ(ポータビリティがあり)、今後の労働市場の流動化にも対応し得るほか、資産の運用方針や手段を自ら選択することが可能である。なかでも、税制適格の確定拠出型年金401Kの伸びが近年著しい。その背景としては、税制上のメリットと規制の緩和にある。税制上のメリットとしては、企業の拠出が一定の限度まで損金算入できる、運用収益に対して非課税、企業拠出金にかかる従業員への所得課税は給付を受けるまで繰り延べる、従業員の拠出金は、拠出時に所得控除され、課税は給付を受けるまで繰り延べる、といったものである。また、規制緩和によって、運用手段の多様性が認められ、ミューチュアルファンドなどを通じて株式への投資が著しく伸びている。勿論、401K拡大を背景とした米国の空前の株高の先行きに不安があること、従業員は在職時から拠出分を見合いに借入れを実施してしまい、年金として必ずしも老後の生活を安定的にし得るか、問題なしとしないことなど、不安材料もある。しかし、老後の生活の備えの「選択肢の一つ」として確定拠出型年金を導入することは、自らの将来に不安を抱いている国民のコンフィデンスを取り戻す一手段としても、また資金仲介ルートを新たに作るという意味でも、わが国で早急に検討されるべきであると思われる。

わが国での今後の具体的検討にあたっては、いくつかの課題がある。

第一は、思い切った税制上の優遇措置の実施である。景気対策によって大幅所得減税が実施されることになったが、さらに確定拠出型年金についても、米国のように大幅な税制上の恩典措置を用意することが必要不可欠である。

第二は、運用機関や提供する企業による、情報開示の徹底と運用能力の強化である。従業員が自ら金融商品を選択するためには、利用者に対するニーズに即した徹底した情報開示が必要になる。さらに、金融機関が、一段と運用能力を向上させ、顧客のニーズに応えることが課題になる。

第三は、早急に横断的な制度設計の場を作ることである。現在、厚生省による厚生年金基金における部分的確定拠出型年金の導入、労働省による財形年金貯蓄への確定拠出型年金への再編の提案、税制適格退職年金制度に対する確定拠出型年金の導入など、縦割りでの検討がバラバラに行われている状況である。景気対策の面でも、今回の財政再計算に合わせた年金改革に整合的なものとするためにも、早急に制度横断的な検討の場をつくることが求められる。

現在わが国金融・資本市場、ひいては経済全体の活性化に必要なのは、公的部門が人為的に巨額の株式を購入することではない。民間が長期的な視野に立って運用の観点から株式を購入する、という自然なかたちでの株式の需要増加によって資金仲介ルートを多様にしていくことを可能にするような環境整備である。そうした観点から、上記のような提案も含め、株価対策を抜本的に考え直す必要があろう。
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