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Business & Economic Review 2009年12月号

【STUDIES】
金融規制監督政策におけるマクロプルーデンスの視点-金融危機後の新しい規制体系への模索

2009年11月25日 翁百合



要約

  1. 今回の金融危機の主要な背景の一つは、金融機関に対する規制監督の不備であった。具体的には、①銀行以外の金融仲介部門(シャドウ・バンキング)に対する監督が不備で、金融機関のいわゆる規
    制上の裁定(regulatory arbitrage)行動が発生したこと、②銀行部門のミクロ的なリスク管理が不十分であったことに加え、マクロ経済変動リスクに対して多くの銀行が共通に持っていたリスクエクスポージャーに対して配慮が足りず、金融商品の市場流動性と各銀行の流動性の関係など金融システム全体に影響を与える内生的リスクや、金融機関行動がマクロ経済に与える外部不経済への配慮が十分でなかったこと、③銀行だけでなく、銀行以外の様々なプレイヤー(投資銀行等や格付け機関など)が金融仲介機能を担うようになってきたにもかかわらず、各金融市場参加者のインセンティブ上の歪みについての配慮に欠けていたこと、④OTCデリバティブ市場などのインフラ整備が不十分であったこと、などが指摘できる。
  2. こうしたなかで、銀行グループの健全性を維持するための主軸として位置付けられてきた自己資本比率規制についても様々な問題が指摘されている。ミクロ的にみて、再証券化商品などリスク管理上より認識すべきであったリスクに対する備えが不十分であったことなどの問題があったが、同時に、金融市場やマクロ経済への自己資本比率規制の与える影響への配慮が足りなかったことなども指摘されている。
  3. 現在、国際的に規制監督の見直しが進んでいるが、監督政策上、「マクロプルーデンス」の視点が重要であるとの認識が高まっている。マクロプルーデンスとは、金融市場全体の安定性を確保する視点である。ただし、これは全く新しい視点ではなく、すでに各国で金融危機の発生したときには、マクロプルーデンスの視点で政府による対応が行われてきている。今回の危機で再認識されているのは、危機を大きくしないために、事前的な規制監督に、一層マクロプルーデンスの視点が必要ではないか、という点である。
  4. 具体的な環境整備としては、①金融システム全体を考慮し、各業態の監督当局が連携をとり、隙間のないように監督体制を構築し、regulatory arbitrageを惹起しないこと、②金融システム全体の視点から、早期警戒態勢をとりつつ監督当局が連携をとって金融システムを監視することが必要であること、③銀行以外の主要金融機関の破綻処理制度の整備などが必要であること、などが指摘できるが、マクロプルーデンスにどのように中央銀行が関わるべきか、など様々な論点が浮かび上がっている。
  5. 具体的な規制の在り方としては、①自己資本比率規制の持つprocyclicality(景気の振幅を大きくする)の問題をどのように制御していくか、②市場流動性の問題が一気に市場型システミックリスクに広がる問題をどのように防止していくか、といった点がマクロプルーデンスの視点からは重要であると考えられる。①に関しては、自己資本比率規制を好況期には高い水準とするといった規制や、不況期に備えた資本保険を設けるなどの案が提案されており、具体的にこれらを検討していく必要がある。また、②については、流動性リスクを規制する案が出ているが、かえって市場参加者が減少し、市場流動性を低下させるといった問題を起こさないように注意する必要がある。とくにレポ市場などは決済システムの整備が極めて重要である。なお、決済システムの整備という点では、OTCデリバティブの清算機関の創設などもシステミックリスク整備のために重要である。
  6. 金融機関のインセンティブ上の歪みを是正するためには、格付け機関への規制強化や報酬体系への規制強化が国際的に議論されている。ただし、我が国の場合には、こうした問題は必ずしも当てはまるものとは思われない。
  7. 現在、様々な議論が進んでいるが、ミクロ的なレベルでの規制監督の強化が必要な分野もあるが、規制と金融市場、マクロ経済との関係に十分目を配り、全体的な視座を持ち、整合的に政策体系を構築していく必要がある。

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