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Business & Economic Review 1998年01月号

【OPINION】
金融システムのメルトダウン回避に向けて-RTC型公的資金投入を

1997年12月25日 -


1.基本認識-なぜ公的資金投入か-

1)現在、わが国金融・資本市場は次のような危機的状況に陥っている。

(1)株安、円安に象徴される「日本売り」の進展

(2)コール市場の機能低下

(3)ジャパン・プレミアムの大幅な拡大

(4) 預金者・投資家の不安心理の高まり

2)このまま放置すれば、わが国金融システムはメルトダウンの危機に追い込まれ、わが国経済に深刻な打撃を与えるだけでなく、日本発の世界的金融クライシスへ発展する懸念がある。

3)この危機的状況を回避する唯一の手段は、政府が「公共財としての金融システムは公的資金を使ってでも断固として守る」との強いコミットメントを表明することである。これによって、内外の市場参加者の根強い不安心理を払拭することが可能となる。

4)公的資金投入に際しては、次の4点が前提条件。
(1)投入の目的は預金者保護と金融システムの安定に限定(金融機関救済ではない)

(2)経営責任の明確化(法令違反者には厳罰で対処)

(3)グローバルスタンダードによるディスクローズの徹底

(4)金融機関破綻処理についてのルールの明確化と事後的アカウンタビリティの確保

5)なお、金融行政については、住専処理の反省を踏まえれば、不透明性な裁量行政から訣別し、透明性の高い市場規律重視型行政へ転換することが不可欠。公的資金投入にあたっても、市場原理と自己責任原則が貫徹されることを市場が明確に実感できるかたちで示すことが必要。

6)公的資金を使った金融システム安定化の方策は、 (1)破綻金融機関の処理 (2)存続させる金融機関の自己資本充実 の二つに峻別して検討しなければならない。

2.破綻金融機関の処理スキーム

1)公的資金投入の手法

(1)破綻金融機関の処理の原資である預金保険機構の資金については、2000年度末までの預金保険料収入を充当しても今後不足するのは不可避の状況となっている。

(2)この財源不足を埋めるためには、アメリカのRTC(注1)同様、財政資金(一般会計)を預金保険機構に投入するのが筋である。ちなみに、アメリカでは1,246億ドル(95年名目GDP比で1.7%、1ドル100円換算で約12兆円)の財政資金を投入してS&L(貯蓄貸付組合)を整理(図表1参照)。

(3)わが国で財政資金の直接投入が困難ということであれば、当面は政府保証債で資金調達を行い、現行預金保険料でも賄えない最終的損失の穴埋めは財政資金で処理する旨を表明することが肝要である(図表2参照)。

現時点で預金保険機構のファイナンスを何らかの手段で確保することを表明したとしても、「奉加帳方式」が際限なく繰り返されるのではないかというマーケットの不安は解消しない。内外のマーケットから信頼感を取り戻すためには、ファイナンスの方法ではなく、最終的損失の穴埋めの姿を示すことが必要である。 前項を担保する手段として、預金保険の特別勘定同様、期日を切って(例えば2001年3月31日)預金保険の収支を確定させ、その時点で政府保証債を償還し、仮に預金保険の残高不足により政府保証債の元利払いができなくなった場合に、一般会計で賄うことを現段階で明示することが重要である。

なお、政府保証債は市中消化を原則とすべき。その場合、郵便貯金、年金の自主運用部分が投資家の一人として購入することを妨げるものではない。

(4)預金保険機構に対する日銀貸出に政府保証をつけることは、日本銀行の財務の健全性維持の観点から極めて重要である。ただし、預金保険機構のファイナンスを日銀貸出に過度に依存したり、その限度額を際限なく引き上げるのは、本来一時的緊急的なものに止めるべき日銀特融を事実上長期的に継続することに他ならない。これは、中央銀行に対する内外の信認を低下させることにもなりかねず、その運用には慎重を期すべきである。

(5)金融機関の預金保険料の引き上げは次のような問題があり、採るべきではない。

a.本来、預金保険は小口預金のみを対象とするものであるにもかかわらず、現段階では国が1千万円を超えた預金のみならず、外貨預金や金融債、金銭信託などの金融商品についても保護することをコミット。こうした金融商品の保護のために、健全な金融機関に際限なく破綻金融機関の損失のつけをまわす従来の日本的な解決処理方法(奉加帳・護送船団方式)を続けていく限り、これから先もいつ負担が強いられるのかわからないという不安から、健全な金融機関も内外マーケットから信認されず、格付け、株価が低下するとともに、ジャパン・プレミアムの拡大が持続。

b.日本版ビッグバンに伴って海外金融機関との競争がますます激化すると予想されるが、現在、アメリカの95%の金融機関の預金保険料はゼロであり、既に両者の競争条件には著しい格差が生じている。このうえ、さらにわが国の預金保険料を引き上げれば、彼我の格差は一段と拡大し、アメリカの金融機関に太刀打ちできなくなることは明白である。こうなると日本の金融機関全体が沈んでしまい、明らかに国益と反する。

c.現行預金保険料は96年度より7倍に引き上げられ、アメリカのピーク時の負担(業務純益に占める預金保険料の割合)に近い水準まで膨れている(図表3参照)。 なお、預金保険の上限の引き上げ、ペイオフ猶予期間の延長、といった措置によってセーフティネットを広げることは、預金者のモラルハザードを招きかねないため、不適当である。

2)不良債権の処理・回収

(1) 現在、信用組合のみを対象としている「整理回収銀行」の対象範囲を一般金融機関にも拡大し、破綻銀行から譲り受けた資産等の整理回収業務を集中して行うものとする。その場合、強力な回収専門組織である住専管理機構との合体を図り、専門スタッフをさらに充実させることによって、効率的に回収を図るべき。

(2) 不良債権処理を促進するための諸制度(不動産流動化を促す税制・規制緩和措置、証券化の促進〈SPCの税制面での優遇措置〉等)を早急に整備する。

3.金融機関の自己資本充実スキーム

1)金融機関の自己資本充実・BIS規制対応は、あくまでも自助努力が大原則であり、市場原理に基づくことが基本となる。人為的なかたちで市場を歪めることは日本版ビッグバンの流れに逆行することになる。

2)1930年代の大恐慌時のようなRFC型(注2)公的資金投入は原則として採るべきではない。こうした手法は金融機関の経営悪化がマクロ経済に壊滅的な打撃を与え、それが金融システムの悪化に跳ね返るといった金融恐慌的事態に陥った場合に非常事態として金融機関を救済するものである。

またこのような方式には、次のような問題がある。

(1) 一種の銀行国有化であり、民営化の方向と反する、

(2) 多額の公的資金が金融機関救済のために使われることになり、世論の理解が得られない、

(3) 金融機関が公的資金による出資の要請をしたとたんに、マーケットの評価が低下するとともに、経営責任が問われるため、実際問題として利用する先はほとんどないと予想される。

3)金融機関の自己資本に公的資金を直接注入するのは、破綻処理に際して営業譲渡先銀行の自己資本が不足する場合等に限定すべきである。このような場合には、公的資金による優先株や劣後債の買い取りは正当化されよう。

その場合は、新たに出資機構を設けるのではなく、預金保険機構に出資機能を付与することにより、公的資金を一元的に管理する体制を整備することが必要である。

4.証券・保険会社破綻への対応

なお、証券・保険会社についても、寄託証券補償基金、支払い保証制度等のセーフティネットを早急に整備する必要があろう。



1. RTC(ResolutionTrustCorporation、整理信託公社)とは、貯蓄貸付組合を整理するために1989年にアメリカで設立された機関のこと。RTCおよび預金保険基金に投入された財政資金は、小口預金者に損失が及ばないことを目的として、不良債権の損失負担に用いられた。

2. RFC(ReconstructionFinanceCorporation、復興金融公社)とは、多くの経営が悪化した金融機関を救済するために、1930年代の金融恐慌時に設立された機関のこと。RFCに投入された財政資金は、これらの金融機関の優先株を購入するというかたちで自己資本に直接注入された。
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