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Business & Economic Review 1999年12月号

【PERSPECTIVES】
韓国経済改革の鍵を握る労働問題

1999年11月25日 今井宏


要約

98年後半に入ると、韓国では、輸出環境の好転を背景に、鉱工業生産をはじめとする各種経済指標が底打ちを示し始めた。その後も韓国経済は急速な回復を続け、99年の実質GDP成長率は、10%弱に達するものと予想されている。このような状況の下、韓国経済は順調に回復しつつあるとの見方が主流となっている。しかしながら、韓国経済が今後も順調な回復を続けるかどうかは予断を許さない。危機の根本原因とされる金融セクターの脆弱性と財閥グループの非効率性という2大構造問題が依然として残されているからである。

金融・企業両部門の改革の歩みは遅い。金融部門のバランスシートの改善が遅れていることから、企業部門や家計部門に対して、経済発展に不可欠な信用供給を果たせない状況にあることに加えて、外的なショックが生じると、ただちに流動性不足が深刻化する。確かに政府の強力なリーダーシップと公的資金投入により、既存の不良債権の金融機関からの切り離しと金融機関の資本増強が行われたが、不良債権処理の本格化はこれからである。また、これ以上に見逃せないのは、財閥の負債比率の高さであり、潜在的な不良債権の温床となっている。今後の韓国にとって、最大のリスク要因は、財閥の破綻によって引き起こされる金融不安である。

財閥のリストラが進まず、財閥の借り入れが減少しない。これが金融改革のボトルネックとなっている。この根本には、財閥企業における過剰設備と並ぶ過剰雇用という問題がある。経済危機後の雇用情勢は、改善基調にあるとはいえその実態は依然として厳しく、財閥改革が新たに失業者を生み出すことになれば、大きな社会不安を引き起こし、せっかく軌道に乗り始めた経済再建の動きを足下から崩しかねない状況にある。この結果、財閥グループの経営陣と労働組合の利害は一致し、双方が財閥改革に大きな抵抗を示している。また政府としても、財閥改革推進の旗は降ろしてはいないものの、失業増大を伴うような抜本的な財閥解体には及び腰となっている。

財閥の抜本的な改革を通じて、金融システムの健全性を取り戻すには、労働分野を視野にいれた対応が不可欠の条件となっている。財閥グループから放出される大量の雇用を再び吸収するためには、(1)雇用の受け皿としての中小企業の育成、(2)大企業からの失業者の職能向上、を早急に進めることが有効である。また、日本としても、中小企業による裾野産業育成に向けて、資金面、技術面で援助するとともに、労働者の職業訓練制度の整備に向けて、日本の経験を提供するなどの協力が求められている。

経済危機以降、一時鎮静していた労働争議が過激化しつつある。労使関係の悪化は、企業経営に直接的な打撃となるばかりではなく、外国投資家の韓国経済への信認低下をもたらし、中長期的にも資金の流入を阻害するなどのマイナス影響を及ぼすものである。一朝一夕の解決策を見いだすことは困難であり、雇用の安定確保に向けた地道な努力を通じて、労使双方の信頼関係を構築していく以外に方法はない。
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