Business & Economic Review 1999年12月号
【OPINION】
高齢者福祉サービスは税方式で
1999年11月25日 飛田英子
自自公連立政権の発足により、わが国の社会保障制度が新たな段階へ踏み出した。3党の合意書によると、2025年度を目途に、これまで縦割り的であった年金・介護・後期高齢者医療の3分野を包括的な枠組みに統合し、それに必要な財源の概ね半分を福祉目的税(消費税を目的税化し、名称を変更)で充当するとのことである。
この方針は、介護や生活保護等に限定される従来の福祉の概念を拡大し、高齢者の所得や保健医療についてもナショナル・ミニマムの部分は国が責任を持つことを示した点で評価できる。もっとも、福祉原理に基づくのであるなら、同制度を国民全体で支える視点が不可欠であり、高齢者福祉の財源をあまねく国民に求める税方式(すなわち、国庫負担100%)へ転換すべきである。
さらに、仮に合意書通り国庫負担を2分の1に留める場合には、この新しいシステムが早晩見直しを求められる懸念が大きい。すなわち、公費を除く保険料部分の負担構造については従来方式が踏襲される見通しであり、勤労世代に負担を皺寄せする構造が温存される公算が大きい。この保険料負担の増大、すなわち負担の世代間格差の拡大が、現行の年金や医療保険制度が破綻の危機に瀕している最大の要因である。
税方式への転換について、最大の反論は国民的コンセンサスが得られないという点である。すなわち、高齢化の進展に伴って必要財源が増加するもとで税負担の増大は必至であり、税方式に反対する者は、消費税率への影響を試算することで保険方式の優位性を強調している。例えば、厚生省は、仮にこれら3分野の費用をすべて消費税で賄う場合、消費税率は2000年度には12%、高齢化がピークに達する2025年度には28%(国税分で換算すると36%)にまで上昇するとし、税方式への転換は不可能と主張している。
また、税方式に転換すると措置的色彩が強くなり、利用者が希望するサービスを自ら選択するという選択の自由が損なわれると懸念する向きもある。
さらに、財源を消費税とする場合には、これまでの事業者負担分が家計に転嫁されるため、法人負担が減少する一方、家計負担が増大するとの指摘もある。
このように、税方式導入に対しては様々な反対意見がある。しかし、改めて税方式のメリットを強調すると、第1に、負担の世代間格差の是正が期待される。すなわち、これまで勤労世代に集中していた負担対象を全国民に広く、薄く広げることにより、勤労世代の負担を軽減するとともに、担税能力のある高齢者にも応分の負担を課すことが可能になる。ちなみに、消費を課税ベースとする福祉目的税を財源とする場合、税率は厚生省の試算通りに上昇するとしても(現行対比2000年度7%ポイント、2025年度23%ポイント)、勤労世代が負担する保険料率は2000年度では9.3%ポイント、2025年度では22.9%ポイント低下すると試算される(企業負担分も含む)。このため、勤労世代についてみると、税率アップによる負担の増加は、保険料率の引下げにより相殺されるのみならず、これまで勤労世代が担っていた費用の一部が高齢世代にシフトする結果、勤労世代の負担はむしろ軽減されることになる。結局、消費税率が大幅に上昇するから税方式への移行は困難とのロジックは詭弁に過ぎない。高齢化に伴うコスト負担は、国民が何らかの形で分担しなければならない。税方式の最大のメリットは、現役世代と高齢世代の間における過度の不公平を是正する効果を持つことにあるといえよう。
第2に、保険料未納や未加入による空洞化問題、保険料のほぼ1割に達する莫大な保険料徴収コスト、第3号被保険者問題等、保険方式に起因する諸問題も解決可能となる。
なお、保険料方式で主張される負担と給付の関係については、税金を目的税化することにより確保することができる。すなわち、保険料は賃金を徴収ベースとする税金と本質的には同じであり、アメリカでは年金保険料をペイロール・タックスと呼称している。また、目的税化のメリットとして、安定した税収が見込まれるため、景気変動から独立したサービス水準の確保が期待される。
さらに、企業と家計の負担関係については、企業負担の軽減分を賃金に上乗せする等、個別の労使交渉を通じた解決により調整することができる。
以上を要すると、強制加入を前提とするわが国の高齢者福祉制度の財源について保険方式を固持する論拠は乏しく、税方式の方が望ましいと判断される。
もっとも、課税ベースを消費、所得のどちらに求めるかは検討課題である。すなわち、消費税については、個々人のライフスタイルに応じて課税されるため世代間および世代内の格差是正の観点からは望ましいが、現行では税率が一律であるため逆進性が強くなっている。また、簡易課税制度や事業者免税点制度等の存在により、納めた税金が国庫に入っていないのではないかとの不信感が根強い。一方、所得税については、現行の保険方式と同様に勤労世代への負担の皺寄せが懸念されることに加えて、所得捕捉格差の問題(いわゆるクロヨン)が指摘される。したがって、税方式への転換は、税体系の抜本的な改革と一体的に行う必要がある。すなわち、消費税の場合は複数税率の適用やインボイス方式への転換等、所得税の場合は納税者番号制度の導入や高齢者控除の見直し等、が不可欠である。