Business & Economic Review 1999年11月号
【PERSPECTIVES】
ウェザー・デリバティブ-その仕組みと企業経営への意義
1999年10月25日 フィナンシャル・エンジニアリング・センター
気象現象と企業業績
企業業績は、大きく分ければ、内部要因と外部要因で決定される。内部要因とは、その企業の戦略、商品の市場シェアや競争力、財務体力および研究開発能力であり、企業収益に大きな影響を及ぼす。これらは、企業が努力できる要因、もっと端的にいえば、企業の競争力であり、最近の流行語でいえば「コア・コンピタンス」である。この企業競争力を強化すれば収益を増大できる。
もう1つの外部要因とは、企業努力では如何とも仕難い要因である。比較的インパクトの大きいものを挙げれば、経済環境、商品のライフサイクル、あるいは新しい類似商品や代替商品がでてくるといった要因であるが、これらに加えて、気象を含む自然現象も大きな外部要因といえる。
地震や台風のような天変地異から、平年よりも暑いとか寒いとか、あるいは雨や雪が多いといった気象変動が外部要因として企業収益に大きな影響を与える。外部要因は、企業が直接操作できる変数ではないが、間接的には対処できるものと考えられる。
この対処方法を単純化していえば、リスク管理による業績安定行動といえる。つまり、企業はこのような外部要因を活用して業績を上げることはできない。これが内部要因と違う点であるが、何もしなければ業績が不安定になるため、何らかの手を打たなければならない。それが、広い意味での企業における「リスク管理」である。
リスク管理の2つの流れ
リスク管理には、歴史的に2つの流れを指摘できる。1つは損害保険業務からくる保険リスク管理(Insurance risk management)であり、いま1つは、銀行やインベストメント・バンクがこの20年来開発を続けてきたデリバティブを中心とする金融リスク管理(Financial risk management)である。従来ほとんど関係がなかったこの2つの流れは最近になって徐々に融合されつつある。例えば地震とかハリケーンといった天災による損害から企業を守るというリスク管理は従来損害保険の領域であったが、最近のオリエンタルランド(東京ディズニーランドの運営会社)の地震債券やシカゴ商品取引所のCat option(災害オプション)のようにキャピタル・マーケットの商品にもなりつつある。
過去2年の間にアメリカで急成長を遂げ、99年9月名門取引所であるシカゴ商業取引所(シカゴ・マーカンタイル・エクスチェンジ)にも上場された「ウェザー・デリバティブ」という金融商品も、この二種のリスク管理手法に跨るものである。地震のような大型災害についてはこれまでも一応のリスク対策手段はあったが、もっと身近な暖冬や冷夏、あるいは日照りや豪雪といった「気象事象をどうリスク管理するか?」という企業の課題に応えるのが、本稿のテーマである「ウェザー・デリバティブ」である。