Business & Economic Review 1999年11月号
【MANAGEMENT REVIEW】
グループ連結経営時代の管理会計
1999年10月25日 乾久美子
要約
景気の低迷が長期化するなか、日本企業は「選択と集中」をキーワードにこれまで以上にふみこんだ経営改革に取り組んでいる。一方で、会計ビッグバン(会計制度改革)については、「経理部門が対応すればいいこと」ととらえている企業が多いようである。しかし、「選択と集中」の経営と「会計ビッグバン」は密接に関わりあっており、両者を有機的に結合してはじめて、真の経営改革が実現できるといえよう。
「選択と集中」と「会計ビッグバン」を結ぶ鍵は「株主価値の向上」にある。企業が「選択と集中」の経営を実施するのは、投資効率を向上させるため、つまり、株主から預かった資産価値を向上させるためであり、そのような経営を行う企業こそが投資家の支持を得られるからである。また、会計ビッグバンは、投資家が信頼できる公正・透明な取引のルールの整備をするための改革である。投資家が「株主価値の向上」を期待できるということを判断するためのインフラ整備ということができる。
「選択と集中」の事業再編を行うためには、何をもって選択するかという評価基準を企業自身が持っていなくては不可能である。したがって、まず事業評価の基準を確立することが重要となってくる。
また、その際の事業とは、従来の個別法人の枠内における事業ではなく、連結グループとしての事業となるはずである。なぜなら、会計ビッグバンにおけるパラダイムシフトとも言える「個別決算中心主義から連結決算中心主義への転換」によって、連結ベースの業績によって投資家の評価が行われることになるからである。
会計ビッグバンは決して該当部門(経理部)だけが対応すればいいことではない。その内容を理解し、株主価値向上につながる仕組みをマネジメントシステムに組み込んでいくことこそが投資家に支持される企業グループになる、ということを強く認識すべきである。
本稿の目的は、以上のような問題意識に基づき、グループ連結経営時代の管理会計のあり方を検討することにある。そこで、まず、グループ連結経営時代到来の背景を現象面・制度面から概観したうえで、グループ経営力強化のために連結セグメント再定義、管理会計制度、事業ポートフォリオの評価という3つのステップを踏まえつつ、管理会計制度としてEVATM (経済的付加価値:米スターン・スチュワート社の登録商標、以下EVAと略す)、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard)という事業評価をめぐる理論の具体的な運用のあり方を考察する。さらに、このような理論を有機的で実現可能な管理会計制度として構築するためのポイントを示し、実現するためのツールとしてERP(Enterprise Resourse Planning;企業資源計画)パッケージ・ソフト活用の有効性を検証する。