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Business & Economic Review 1999年08月号

【論文】
99年度改訂見通し-新産業・雇用の創発に向けて

1999年07月25日 調査部


要約

98年末頃以降一連の景気対策の効果が顕在化するなか、わが国景気に下げ止まりの動きがみられる。こうしたもとで、99年1~3月期の実質経済成長率は前期比年率+7.9%の大幅プラスを記録。これは政策効果の顕在化を背景に公共投資が急増したことによるほか、(1)中小企業の設備投資や耐久財消費のペントアップ・デマンドが顕在化したという一時的要因や、(2)「帰属家賃」の増加や季節調整の歪みという統計技術上の要因も影響。したがって、設備投資・個人消費等、民需部門が自律回復軌道に転じたと判断するのは、依然として時機尚早。

今後のわが国景気の動向を判断するにあたっては、(1)現在景気悪化にブレーキを掛けている政策効果がいつまで続くのか、(2)民需の悪抜け感がいつ出てくるのか、といった2点が重要なポイント。政策効果の持続性については、公共投資・住宅投資など政策関連需要が今年後半にはマイナス基調に転じると予想される。

一方、民需の悪抜け感がいつ出てくるかという点については、今年に入ってから目立つ企業によるリストラ・事業再編への取り組みの影響が焦点。そもそも事業再編は本来、企業の収益体質強化を意図したものであり、わが国経済再生のためには不可欠の取り組み。しかしながら、事業再編がもたらす当面の影響についていえば、不採算部門からの撤退・見直しや生産能力の削減への取り組みは、設備・雇用の調整圧力増大を通じて、景気下押しに作用することは避けられず。

今後のわが国景気のコースを展望すると、当面については、緊急経済対策の効果が残存するもとで、公共投資・住宅投資といった政策関連需要が引き続き景気を押し上げ。さらに、株価の上昇、企業・個人マインドの持ち直しの影響もあり、在庫調整が徐々に進展するなか生産活動が横ばい圏内で推移し、個人消費も比較的底堅く推移する見通し。

しかしながら、下期を展望すると、政策効果が一巡するなか、公共投資が大幅な減勢に転じることに加え、住宅投資も増勢が頭打ちとなっていく可能性大。加えて、民需部門についても、以下の理由から、再び減退傾向が強まる見通し。
・ 企業のリストラ・事業再編の本格化を背景とした設備・雇用調整の一段の強まり
・ 所得環境の悪化、雇用不安・年金不安等を背景とした個人消費の悪化
・ 欧米景気減速を背景に輸出が伸び悩む一方で、輸入浸透度上昇が国内生産を下押し

以上の結果、99年度の実質経済成長率は▲0.2%と3年連続のマイナス成長の見通し。

バブル崩壊後ほぼ10年を経てもなお、わが国経済が低迷から脱出できない根因は、新規産業・ニュービジネス創発が遅々として進まないうえ、資本・労働等各種生産要素が成熟分野に固定化され、新成長分野へ効率的配分がなされていないことにある。この点を踏まえれば、今後2年間を「新産業・雇用創発に向けた移行期」と位置づけ、企業の新規分野・高収益分野への進出を促し、資本・労働等各種生産要素の成熟分野から新成長分野へのシフトを早期に実現することを政策の中心に据えるべき。

ただし、依然として規制等により新分野進出への障害が残る状況のまま、民間企業が事業再編を進めていけば、縮小均衡に陥る可能性大。こうしたもとで、従来型のカンフル政策を採ってもその効果は一時的。あくまで新産業創発とそこへの人材移動を目的とする「戦略的新産業・雇用創発策」をパッケージで打ち出す必要。こうした前向きの施策が呼び水となり、民間主導で新規産業・ニュービジネスが立ち上がっていけば、海外からの投資も誘発され、わが国経済全体が大きく活性化される見通し。

具体的には、21世紀を見越した日本経済再生ビジョンを提示したうえで、以下の4つの項目に速やかに着手すべき。

・ 新産業創発プログラムの策定…
(a)ニーズ主導型であり、かつ、(b)雇用創出力がある新産業創発の基盤造りを、官民協業の特別委員会がイニシアティブを取る形で強力に推進。あくまで個別有望産業の創発を目的に、規制撤廃・制度改革・未来型社会資本整備・政府機能のアウトソーシング等を有機的に関連させた実効性ある戦略プログラムを策定。


・ 新産業創発促進型減税…
事業再編過程での成熟産業から成長産業への資本・労働のシフトを資金面で後押しするため、事業再編支援減税、大型投資減税導入、起業促進税制拡充、所得・住民税の累進構造緩和等、新産業創発促進型の減税を実施。


・ 雇用再配置支援策…
事業再編を進めていった場合、最大の問題は失業の発生。これまでの雇用維持政策では対応できず、企業・産業の枠を超えて、人材を成熟分野から新成長分野に移動させるための仕組みの創設が不可欠。


・ 事業再編支援策…
過剰債務・過剰設備の破棄等後ろ向き支援策は一部にとどめ、経営形態の自由度を向上させるための制度面での措置により、得意分野の強化・潜在的起業家の独立支援等、攻めの事業再編を支援することが中心課題。
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